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ブラジル映画史に刻まれた“名もなき少女”の物語──伝説的名作『星の時』が4Kで甦る

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BY FRONTROW Press
ブラジル映画史に刻まれた“名もなき少女”の物語──伝説的名作『星の時』が4Kで甦る

ブラジル映画の歴史を語るうえで欠かすことのできない名作が、日本で初めて劇場公開される。星の時は、派手なドラマや劇的な成功譚とは無縁の、ひとりの少女のささやかな人生を描いた作品だ。公開から数十年を経てもなお語り継がれる理由は、その静けさの中に潜む圧倒的なリアリティにある。

主人公マカベーアは、社会の中心から遠く離れた場所で生きている。仕事はうまくいかず、恋にも不器用で、周囲からは愚鈍だと切り捨てられる存在だ。しかし彼女は、ただ生きている。その事実だけが、淡々と、しかし確かな重みをもって描かれていく。監督スザーナ・アマラウが向けたのは、特別な誰かではなく、毎朝早く家を出て働く無数の無名の女性たちへのまなざしだった。

マカベーアを演じたマルセリア・カルタッショは、その抑制された演技でベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞した。感情を爆発させることなく、空虚さと純粋さを同時に宿した表情が、この映画を唯一無二のものにしている。また、物語の転換点として現れる占い師を演じるフェルナンダ・モンテネグロは、短い登場ながら強烈な印象を残し、運命という言葉の重さを観客に突きつける。

今回4Kレストア版として克明に蘇った映像は、粒子や光の揺らぎに至るまで、マカベーアの孤独と希望をより鮮烈に浮かび上がらせる。同時に、原作であるクラリッセ・リスペクトルの小説『星の時』も文庫化され、映画と文学、二つの表現を往復する楽しみが広がる。スクリーンとページ、その両方で出会うマカベーアの「星の時」は、観る者、読む者それぞれの胸に静かな余韻を残すはずだ。


<STORY>
「わたしはタイピストで、処女で、コーラとホットドッグが好き」。ブラジル北東部の貧しい地からサンパウロにやってきたマカベーアは、身寄りもなく、
読み書きもままならず、世間知らず。安月給で暮らし、3人の女たちと粗末な下宿を共有している。自身の貧困や境遇に無自覚で、恋にあこがれ、映画ス
ターを夢見る彼女は、ある日占い師から「あなたの人生は変わる」と告げられる。だが、その「運命の瞬間」は思いがけない形で訪れる……。

星の時 4K(1985年/ブラジル/ 96分 /1:1.43/カラー/ステレオ/原題: A Hora da Estrela /英題: Hour of the Star )
監督:スザーナ・アマラウ /出演:マルセリア・カルタッショ、フェルナンダ・モンテネグロ /原作:クラリッセ・リスペクトル
配給: alfazebet 公式X : @hoshinotokijp

8月21日(金)より新宿武蔵野館、 Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次公開

河出文庫 『星の時』 2026年7月7日発売
クラリッセ・リスペクトル著 福嶋伸洋訳
本体予価900円(税別)/ 176ページ

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