アルゼンチンで11歳の女の子が、65歳の男にレイプされたうえに妊娠した。中絶を希望する少女の意思を、政府と病院が拒否したことが、国を動かすほどの大問題になっている。(フロントロウ編集部)

 「あの年老いた男が私の中に入れたものを、取り出して」

 11歳の少女が、祖母の恋人である65歳の男にレイプされるという痛ましい事件は、アルゼンチンで起きた。わずか11歳でレイプされるというだけで少女の心の傷の深さは計り知れないが、さらなる問題が彼女の心を引き裂くことに。

アルゼンチンでは中絶は原則違法

 少女は、「あの年老いた男が私の中に入れたものを、取り出して」と中絶を希望したと、彼女の弁護士がコメント。そんな少女の望みを、彼女の住むトゥクマン州の政府と病院は拒否した。

画像: アルゼンチンでは中絶は原則違法

 国民の92%が熱心なカトリック教徒であるアルゼンチン。カトリック教では、中絶を一切禁止している。1921年にレイプ被害者と健康に問題のある母親という特定の条件下での中絶が認められるまでは、中絶をした女性はどのような理由であっても、最大4年の実刑判決を受けていた。

 政治の世界でも女性の選ぶ権利を主張する政治家は中絶反対派の国民から猛反発を受けることが多く、もともとは中絶支持を表明していた現アルゼンチン大統領のマウリシオ・マクリ氏も、大統領に就任してからは態度が変わり、2018年に提案された14週までの中絶を合法化する法案には反対票を入れた。この法案は反対多数で否決された。

画像: アルゼンチンで中絶の合法化を求める女の子

アルゼンチンで中絶の合法化を求める女の子

 中絶が原則認められていないアルゼンチンでは、闇医者に手術を依頼する女性があとを絶たず、毎年約45万人もの女性が闇医者のもとで中絶手術を受けている。しかし劣悪な環境で手術が行なわれた結果、毎年4万7,000人から5万2,000人が入院する事態に追い込まれているという現実がある。

アルゼンチンが少女の中絶を拒否

 レイプ被害者であり、中絶手術を受けられる条件を満たしている少女だが、中絶は認められず法廷で争うまでに。法廷ではトゥクマンの保健福祉長官が、「私は少女と親しい。彼女は中絶を希望していない」と主張。その主張は、少女家族のために訴訟手続きを行なった代理人によって否定された。しかし政府のこの姿勢に従う医師が多く、彼女の中絶手術の執刀医探しは難航してしまった。

 少女を保護する人権団体ANDHESの代表は、「法で守られている権利が、権力を持つ人の反対で否定される。そして人は、権力を持つ誰かが法以上のことを求めたとき、それに従うんです」と、米NowThisのインタビューで、怒りをあらわにした。

画像1: アルゼンチンが少女の中絶を拒否

 さらに、少女の代理人が米New York Timesに明かしたところによると、少女が入院する病院は、少女の部屋に中絶反対派が訪れるのを許したそう。中絶反対派は、少女に子供を産むべきと説得しようとし、さもなければ一生母親になれないと言ったという。

 最終的に少女の担当医になったシシリア・ウーセは、トゥクマンの政治家は政治的理由のために少女を使ったと、英The Guardianで非難した。「彼らは選挙のために、妊娠に関する法律の話題で問題を起こしたくなかった。そんな理由で小さな女の子に、出産を強制したんです」

画像2: アルゼンチンが少女の中絶を拒否

 この少女の悲しい事件は珍しいことではなく、2015年には、11歳から12歳の少女90人がレイプにより母親になっている。米ワシントンポストによると、今回妊娠が判明した少女は2回、自殺を試みたという。

中絶ではなく帝王切開で手術

 数週間にわたる議論や拒絶の末、少女は中絶手術ではなく、妊娠23週間目で帝王切開手術を受けることに。シシリア医師は、少女を初めて見たとき「気分が悪くなってしまった」と米New York Timesに話す。「膝が震えたわ。彼女はまだ子供で、おもちゃで母親と遊んでいたんだもの」

 帝王切開手術は終わり、少女をレイプした65歳の男も逮捕された。しかし少女の生活に平穏は訪れず、手術の後には中絶反対派がふたたび病院に現れ、外から中絶反対のデモを何週間にも渡って行なったそう。

画像: 中絶ではなく帝王切開で手術

 シシリア医師は、最後にこう言った。「アルゼンチン北部では、少女と同じような状況にいる子たちが多く存在し、その子たちに背を向ける大人たちも多いのです」。

 アルゼンチンでは、中絶認可に関する新しい法案が2019年3月8日の国際女性デーに提出された。(フロントロウ編集部)

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