架空のジョーカーと現実の痛ましい事件
10月4日(金)に公開される映画『ジョーカー』が、世界中を揺るがしている。『ジョーカー』は、「バットマン」に登場するジョーカーの誕生秘話に迫った物語。俳優ホアキン・フェニックスが主演を務め、第79回ベネチア国際映画祭で最高賞の金獅子賞を受賞し、公開前から高い評価を得ている。
DCコミックス原作『バットマン』のヴィランとして知られるジョーカーは、今やアメコミが生み出した最も有名なキャラクターの1人だが、その悪の象徴としての存在は想像以上のもの。
中でも最も象徴的なのが、2012年に起こった米コロラド州オーロラで起こった「オーロラ銃乱射事件」。この事件は、俳優クリスチャン・ベール版のバットマン「ダークナイト」シリーズ最終章『ダークナイト ライジング』のプレミア試写会で発生した。
この劇場内で犯人が銃を乱射し、12名が死亡、58名が負傷。事件現場はショッピングモール内にある映画館で、負傷者の中には生後3~4か月の赤ちゃんもいた。当時アメリカの大統領だったバラク・オバマも犠牲者を悼むコメントを発表した。
そして髪を赤く染めた犯人は、取り調べ時に自らを「ジョーカー」と名乗ったという。
映画『ジョーカー』中止にかける思い
この事件はアメリカの銃規制議論に拍車をかけることになった。もちろん、日本でのイベントもすべて中止。大勢の犠牲者を出し、「ジョーカー」という存在に消せない傷跡を残す結果となった。
そんな凄惨な事件から7年が経過した今、遺族は事件が起きた劇場では『ジョーカー』を公開しないと書いた公開書簡を、配給元であるワーナー・ブラザースに送った。
さらに書簡には、銃規制のためにワーナー・ブラザースの影響力を良い方向に行使してほしいということ、映画自体の公開中止は求めておらず、むしろ映画の力で銃を少なくしてほしいということを記載。銃規制へ強い思いをつづった。遺族たちは、『ジョーカー』が公開決定したとき、彼自身の悲しき人生に共感する人が増えるのでは、と胸が引き裂かれる思いだったという。
ワーナー・ブラザースはその書簡を受け、声明を発表。米Varietyに、「このキャラクターをヒーローとして維持することは、映画、映画製作者、またはスタジオの意図ではありません」とコメントした。また、「私たちの社会における銃の暴力は重大な問題であり、これらの悲劇の影響を受けたすべての犠牲者と家族に最も深い同情を示します」と哀悼の意を表すとともに、犠牲者の遺族にかかわる団体へ、100万ドルの寄付を行ってきたことを明かした。
また、監督のトッド・フィリップスは米IGNに、「映画はジョーカーの行動を許すものではない」と述べており、映画内で描かれる愛の欠如、子供時代のトラウマ、思いやりの欠如などのメッセージを、観客は正しく処理できるだろうとコメントしている。(フロントロウ編集部)