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2020年アカデミー賞音響編集賞をはじめ、11部門にノミネートされた映画『ジョーカー』。観客の不安をあおるあのサウンドは、どのように作られたのだろうか。(フロントロウ編集部)

大ヒットを記録した『ジョーカー』

 DCコミックスのヴィラン、ジョーカー誕生の起源に迫った映画『ジョーカー』。2019年10月に公開されるやいなや、世界中で大ヒットを記録。R指定映画としてのハンディがあったにもかかわらず、世界で1,100億円をこえる興行収入を達成した。

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 本作は2019年のヴェネチア国際映画祭で最優秀作品賞にあたる金獅子賞を受賞。主演のホアキン・フェニックスアカデミー賞の前哨戦となるゴールデン・グローブ賞やSAG(全米俳優組合賞)で主演男優賞を受賞するなど、輝かしい成績を残している。

 さらに、2020年のアカデミー賞では、作品賞、監督賞など主要な賞を含む11の部門にノミネート。公開から3カ月が経過した現在でもなお変わらない“ジョーカー旋風”を巻き起こし続けている。

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 そんな本作で音響を担当したサウンドクリエイターのアラン・ロバート・マレーも、アカデミー賞の音響編集賞にみごとノミネート。アランは米Hollywood Reporterに、『ジョーカー』の効果音を作る際、どのようなことを行ったかについて明かした。

ジョーカー=アーサーの心を表現

 アラン・ロバート・マレーは、これまでにアカデミー賞音響編集賞に9回ノミネートされ、映画『アメリカン・スナイパー』や『硫黄島からの手紙』で受賞を果たしたべテランサウンドクリエイター。

画像: アラン・ロバート・マレー

アラン・ロバート・マレー

 監督のトッド・フィリップスは、アランにコミックが原作の映画にありがちな音ではなく、もっと現実的なサウンドを作りたいと話したそう。

 アランは、パンチの音をつけすぎたり、音響を編集したりしすぎることで、非現実的にさせたくないという監督の意見を取り入れて音作りを開始。

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 最初は普通にはじまり、アーサーに起きていることに対するリアクションとして音響が取り入れられていくという手法にこだわったそう。

 例えば、アーサーが地下鉄で3人のビジネスマンに打ちのめされるシーンでは、はじめは普通の音から始まるが、アーサーの状況が悪くなるにつれて音はより邪悪で不吉になっていく。

 殴られるアーサーの苦痛が増大していくのに合わせて、邪悪な雰囲気の音響をトーンアップしていったというアランは、「反対方向に向かう列車がさらに不吉な音を追加した。あの音は、ジェット機やローラーコースターといった、アーサーの視点を伝えるのに最適だと思えたダークでザラザラした音から作られたんだ」と明かす。

画像: ©DC COMICS/DC ENTERTAINMENT / Album/Newscom

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 ほかにも、映画の中で音響がアーサーの心情を強く押し出しのが、ピエロのアーサーが荒くれ者たちに襲われる冒頭のシーン。アーサーが路地裏で荒くれ者たちに攻撃されるシーンの音響は、車のV8エンジンやマッスルカーなどの騒音を録音して作り上げたそう。

 さらに、『ジョーカー』の舞台となった街ゴッサムの治安の悪さを表すために、アランはシーンが進むにつれて、より厳しく、よりうるさいトーンで“街の音”を描いた。

 そこで彼がアクセントとして取り入れたのが、緊急車両のサイレンの音。「ニューヨークっぽいサイレンではなく、ゴッサムっぽいサイレンの音を作らなくてはいけなかった。だから一般的なサイレンの音よりもよりヨーロッパ的な方向に向かったよ」と、アカデミー賞にノミネートされるとはこういうことだ、と感心させるこだわりぶりを明かした。

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 アーサーが暴動を起こす群衆の中で最終的にジョーカーへと変身するシーンは、実際にワーナー・ブラザースのニューヨークのセットで録音。

 「“ジョーカー!ジョーカー!”なんてコールする奴はいない。むしろ、傷ついた動物たちが群集の中で雄たけびを上げるような感じ」と考えたアランは、ワーナー・ブラザースのニューヨークのセットに人を集め、「ジョーカー!」と叫ぶコールや具体的な言葉ではなく、闘志あふれる悲鳴や雄たけびをあげてもらい録音。さらにそこに、ライオンや狼の雄たけびを加工した音を使用したそう。

画像3: ジョーカー=アーサーの心を表現

 アカデミー賞で音響編集賞を含む11ノミネートを果たしている映画『ジョーカー』。気になる受賞結果は、2020年2月9日にハリウッドで発表される。(フロントロウ編集部)

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