海外の“お笑い”って?
「海外のお笑いは、日本とツボが違うから」…という先入観がある人こそ見て欲しい。それが、今回紹介する「スタンドアップコメディ」。
日本の漫才といえば、ボケとツッコミに分かれたコントが主流。けれども、海外のお笑いは1人でステージに立ち、家庭環境や自分のアイデンティティ、悩み、政治への不満や皮肉など、炎上も覚悟で踏み込みながら笑いにかえるというスタンドアップコメディが主流。
2019年に流行した映画『ジョーカー』でホアキン・フェニックス演じるアーサーがたどたどしくステージ上でやっていたのも、このスタンドアップコメディというスタイル。今や大物のエディ・マーフィーやエレン・デジェネレスも、キャリアのスタート地点はスタンドアップコメディで、売れた後にもスタンドアップコメディのステージに戻ってきている。
スタンドアップコメディアンは、会場の雰囲気も完全に意のままに操る才能がなければ成功できないので、機転がきいて賢くなければ絶対になれない職業でもある。
そんなスタンドアップコメディの中から、海外のスタンドアップコメディの映像を豊富に配信しているNetflixより厳選して10作品ご紹介。独特の笑いに、目が離せなくなる!
『ハサン・ミンハジのホームカミング・キング』
ハサン・ミハンジは両親がインド人でアメリカ生まれのイスラム教徒。彼はその生い立ちを生かし、人種ネタ・移民ネタなどのジョークが大得意。極端に自分を卑下したり、社会に悪口を言いまくるスタンドアップコメディアンが多い中、ハサンはいき過ぎた下ネタにも走らず、スマートに笑いを運ぶ。社会風刺がぴりっと効いたステージなのに、思わずグッときて涙が出るほど感動したという人も続出。スタンドアップコメディ初心者にぜひ体験してほしい一本。
『ティファニー・ハディッシュ: ブラックミツバの準備バッチリ!』
波乱万丈な人生を送り、38歳でコメディエンヌとしてブレイクをした遅咲きの「おもしろ姐さん」ティファニー・ハディッシュ。ハサンとは正反対に、どストレートの下ネタで、笑いの豪速球を投げてくる。父親の蒸発、壮絶な虐待、素行不良に貧困と、一筋縄にはいかなかった彼女は、そんな人生にも「私はここまで苦労してきた!」と胸を張って生きていて、見ているととっても励まされる。スタンドアップコメディは、身の上話を湿っぽく話したり、哀れっぽく見せつけるものではなく、見ていて自然に元気付けられるものだと気づかせてくれる。
『ジョン・ムレイニーのキッド・ゴージャス at ラジオシティ』
ジョン・ムレイニーは2009年から2012年まで、アメリカの人気番組『サタデーナイトライブ』の構成作家として活躍し、プライムタイムエミー賞を2度受賞したツワモノ。ジョンは無害な子犬のような顔をしているけれど、マイクを握らせたらノンストップで喋り続ける男。しかも、構成作家という職業柄もあってか、話の持っていき方もうまい。『キッド・ゴージャス at ラジオシティ』では家族ネタや下ネタ、ブラックジョークが面白すぎるので、「日本と海外の笑いは違う」と思っていた人も、それを忘れてゲラゲラ笑ってしまうかも。
『クリステラ・アロンゾの気分だけクラッシー』
クリステラ・アロンゾは、テキサス生まれのラテン系コメディエンヌ。「クラッシー(Classy)」とは、「上品」という意味。クリステラは知性とユーモア、そしてラテン系女性としての経験を生かし、白人の特権、人種差別、階級の問題など、難しい問題を取り上げながらもその不条理を笑いにかえる。しかも、彼女は他の人種ネタを取り扱ったコメディアンとは違い、ステレオタイプに囚われすぎず、むしろ古き良き時代をこれでもかと馬鹿にするスタイルも特徴的で、とても清々しい。
『セス・ローゲンのヒラリティー・フォー・チャリティー』
映画『40歳の童貞男』や『スーパーバッド 童貞ウォーズ』など、数々のコメディ作品に出演しているセス・ローゲン。「ヒラリティー・フォー・チャリティー」はセスと彼の妻ローレンが、アルツハイマー病に苦しむ患者や家族を援助するために始めた団体で、この作品では仲間のコメディアンを集めて行ったチャリティーのライブコメディショーの様子を見ることができる。セスの不謹慎スレスレのジョークは好き嫌い分かれる可能性はあるけれど、ジェームズ・コーデン、ポスト・マローン、ジェフ・ゴールドブラムなど豪華ゲストが勢揃い。とにかくやりたい放題のセスがここで見られる!
『アリ・ウォンのオメデタ人生⁈』
今ハリウッドが注目しているアジア系コメディエンヌのアリ・ウォン。アラサーあるあるやお下品極まりないマシンガントークに会場は爆笑の渦。そこにフェミニズムネタや人種ネタを投下してくる巧妙な笑いのセンスは病みつきになる。ちなみにアリは、Netflixでスタンドアップパフォーマンスが配信されてから口コミで大ブレイク。その後、Netflixオリジナルの主演映画『いつかはマイ・ベイビー』ではキアヌ・リーブスと共演を果たし、2020年3月20日公開の『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』にも出演していて、活躍の場を広げている。
『リッキー・ジャーヴェイスの人間嫌い』
2020年ゴールデン・グローブ賞の司会を務めたリッキー・ジャーヴェイス。イギリス出身のリッキーは、有名ドラマ『ジ・オフィス』の原案・監督・脚本を務めたマルチな才能の持ち主で、ライフスタイルも、政治も、仕事も、辛辣な毒舌で一刀両断。ブラックジョークが行きすぎて大炎上することも多いが、彼のコメディの才能は本物。ちなみに、リッキーには40年近く連れ添う恋人がいたり、動物の保護活動に積極的だったり、LGBTQ+の支持者であったりと、毒舌の影では誠実。
『イライザ・シュレシンガーの私は長老ミレニアル』
1980年から1999年の間に生まれた人々を、ミレニアル世代という。そんな「ミレニアル世代ギリギリ」にうまれたから「長老」だと自称しているのがイライザ・シュレシンガー。彼女のネタは、とくにミレニアル世代に生まれた女性にとってはバカウケ必至。イライザは女性の味方という部分が強く、セルライトがあって男性に嫌われるんじゃないか心配している女性にも強烈なエールを贈る。イライザ曰く、「男同士でヤれって感じ」だそう。
『ボー・バーナムのみんなハッピー』
ボー・バーナムのショーは、他のコメディアンとは全く毛色が違う。まさに「音ネタ」のような感じで自作の曲を使って話を進めていくスタイルの、ニュージェネレーションなスタンドアップコメディアン。2018年に初監督した『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』という青春映画は批評家や観客から大絶賛。「映画の神々からの贈り物」と評されるほどの出来だった。さらに、映画『ハスラーズ』のローリーン・スカファリア監督は、長年のパートナー。
『ハンナ・ギャズビーのナネット』
『ハンナ・ギャズビーのナネット』は、笑いと涙を届け、人生について考えさせられるショー。オーストラリア出身でレズビアンのハンナは、実はコメディアンをやめようかと悩んでいると明るく話し始める…。「とにかく見ろ」という意見が圧倒的に多い本作は、パワフルで悲しく、生きることの希望と絶望を見せてくれる。後半に彼女が見せる魂の叫びは、観客の叫びでもある。そんな戦慄の名作。
普段はNetflixで映画やドラマしか見ないあなたも、たまには気分を変えて海外の「お笑い」も楽しんでみては?(フロントロウ編集部)