アメリカで、ジョギング中の黒人青年アマード・アーベリーが、白人の父子に射殺された。そのショッキングな映像に、ジャスティン・ビーバーやテイラー・スウィフトなど、多くの人々が声をあげている。(フロントロウ編集部)

追記(2022年2月22日)
 黒人のアマード・アーベリー青年を射殺したトラヴィス・マクマイケル、グレゴリー・マクマイケル、ウィリアム・ブライアンの3名に、連邦法のヘイトクライム(憎悪犯罪)の罪で有罪の評決が言い渡された。

追記(2022年1月7日)
 近所をランニング中だったアマード・アーベリー青年を追い回し、射殺した34歳の息子トラヴィス・マクマイケルと64歳の父親で元警察官のグレゴリー・マクマイケル、そしてマクマイケル父子の後ろから動画を撮影していたウィリアム・ブライアンに、終身刑が言い渡された。

 終身刑とそれに加えて20 年の実刑を言い渡されたマクマイケル父子に仮釈放の可能性はなく、ブライアンは終身刑だが仮釈放の可能性はある。また、3名にはまだ、連邦法におけるヘイトクライムの容疑もかけられている。

 ティモシー・R・ウォルムズリー裁判官は判決を言い渡す前に、アーベリー青年は「ランニングへ行き、人生を失うことになった。この法廷にいる個人たちが法を自分の良いように利用したから、彼は殺されたのです。私たちは全員、自らの行ないに責任があります」と話した。

 アーベリー青年の母親であるワンダ・クーパー・ジョーンズさんは、「息子の笑顔は非常に明るく、部屋を照らしました。アマードは彼らに何も言いませんでした。脅すこともせず、ただ放っておいてほしかった。彼らが罪を犯したことは明白です。その責任も負わせるべきです」と、思いを語った。

 アーベリー青年の父親であるマーカス・アーベリーさんは、「私の息子を殺した男は、この法廷で毎日席に座り、息子の父親の隣に座りました。しかし私には、私の息子の隣に座る機会は二度とありません。息子を殺した殺人者たちは、残りの人生を自分が何をしたのかを考えて過ごすべきです。そしてそれは刑務所の中でなされるべきです」とコメントした。

アマード・アーベリー事件のいきさつ

 (2020年5月11日)2月23日に米ジョージア州ブランズウィックにある家の近所をジョギングしていた25歳の黒人青年アマード・アーベリーが、白人父子に射殺された。64歳の元警察官グレゴリー・マクマイケルは、アマードが、当時地域で犯行を繰り返していた泥棒に似ていたため、身柄を拘束しようとしたと供述。

 しかしジョージア州の法律では、私人逮捕ができるのは、重罪をその目で目撃し、犯人が逃走する可能性がある場合に限られている。グレゴリーは地域を脅かしていた泥棒と似ていたと供述したが、このエリアで泥棒が通報されたのはたった1件、しかも7週間以上前のことだった。

画像: アマードのため、そして黒人コミュニティのために、ジョージア州グリン郡裁判所前に集まった市民。

アマードのため、そして黒人コミュニティのために、ジョージア州グリン郡裁判所前に集まった市民。

 それにもかかわらず、2人は逮捕されないまま、数ヵ月が過ぎた。黒人が白人によって殺されるたびに聞かれるのが、もし白人だったら射殺されていたか?白人だったら捜査はすぐに進められていたのでは?という疑問。人種によって対応に明確な格差が浮き彫りになることは長年アメリカ国内で問題となっており、今回の件はそれをまざまざと表しているとして大きく注目されている。米大物政治家のバーニー・サンダース氏は、ツイッターでこうコメントしている。

 「アマード・アーベリーを殺した男は責任を問われるべきだ。そして、アマードの家族のために正義は存在しなければならない。私の中では、もしアマードが白人であったなら生きていたであろうということは疑いようのない事実だ」


その瞬間を映した動画が公開される

 警察と検察による、元警察官であるグレゴリーへの忖度が疑われるなか、ある衝撃的な映像がインターネット上に公開された。それは、アマードが撃たれた時の映像。3人の後ろにいた車に乗っていた男ウィリアム・ブライアンが撮影していた。

 動画では、武装もなにもしていないアマードが、閑静な住宅街をジョギングしている。しかし車に乗ったグレゴリーと34歳の息子トラヴィス・マクマイケルが執拗にアマードに絡み、トラヴィスがショットガンで発砲。動画では3発の銃声が聞こえる。そしてアマードは道路に倒れ、その後死亡した。

 グレゴリーとトラヴィスが殺人を犯してなお自由に過ごしていることで、多くの批判が集まっていたけれど、この映像をきっかけに、多くの人々の怒りが爆発。2人の犯行はヘイトクライム(※)だとして、多くの市民や著名人が続々と声を上げる事態となり、SNSではJusticeForAhmaud(アマードのために正義を)というハッシュタグが拡散されている。
※人種、宗教、民族、性的指向、性別、障がい者など、特定の社会カテゴリーに属する人々に対する犯罪。


多くの著名人が正義のために声をあげる


ガブリエル・ユニオン

 「アマード・アーベリーはジョギングへ行った。追われた。捕まった。殺された。数ヶ月経っているけれど、彼を殺した2人は自由に歩き続けている。私たちが息をするに値するとあなたたちに気づいてもらうために懇願したり、頼んだり、理由を述べたり、泣いたり、叫びたくない。もしあなたが共感するためにこびへつらってもらわなくてはいけないなら、あなたは自分が思っているような人間じゃない。あなたが私たちを人間と扱っているかどうか考えたくない。私たちに視線を飛ばす時、あなたは何を見てるの?私たちには、平和や幸せ、恵み、思いやり、そして人間が生きるために与えられている守られる権利のための価値がある。私達はもうかなり前から疲れている。アマード・アーベリーの家族や愛する人々に神の光が射し、加護がありますように。私達は闘い続ける。私達は止まらない。正義はある」


スヌープ・ドッグ

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No justice no peace �����

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 「正義なきところに平和はない」


ジャスティン・ビーバー

 「アマード・アーベリーを亡くした家族のために祈ります。そして正義のためにも!」


テイラー・スウィフト

 「この無感覚で、冷血で、人種によって殺されたアマード・アーベリーの事件で、本当に気持ちが荒れて、恐怖を感じています」


デミ・ロバート

 「このせいで眠れない。言いたいことは色々あるけど、今は考えがまとまらない」


ディディ(ショーン・コムズ)

 「アマード・アーベリーは、近所を走っていて、追いかけられ、殺された。そして、いまだに犯人は逮捕されていない!!!!!!」

 他にも、ジャスティン・ティンバーレイク、レブロン・ジェームズ、キム・カーダシアンなど非常に多くのセレブが今回の事件について声をあげており、SNS上ではアマードの写真に、「ジョージアの近隣をジョギングしていたところ、私は武装した父子に追われ、撃たれました。私を殺した2人は、両方とも罪に問われていません。私の名前は、アマード・アーベリー」という言葉が添えられた画像が拡散。ケイティ・ペリーやナオミ・キャンベルなどがこの画像をシェアし、アマードへの正義を訴えている。


犯人逮捕に2ヵ月半

 多くの人が声を上げたことにより、事件発生から約2ヵ月半後の5月7日に、やっとグレゴリーとトラヴィスが逮捕されるに至った。また、ジョージア州の司法長官は、正式にアメリカ合衆国司法省に事件の取り扱いの調査を依頼した。

 これを受けてアマードの家族の弁護士は、喜びよりも先に、「この事件の扱われ方や、なぜ2人の殺人犯が逮捕され罪に問われるまでに74日間もかかったのかに、多すぎるほどの疑問があります」という声明を出している。

 また、ジョージア州アトランタ市長で、自身も黒人であるケイシャ・ランス・ボトムズは、このような事件が発生した背景には、大統領とは思えない数々の差別主義発言で知られるドナルド・トランプ大統領のこれまでの発言や姿勢が、人種差別を増大させていることが原因にあると、米CNNで痛烈に批判した。

画像: ケイシャ・ランス・ボトムズ市長

ケイシャ・ランス・ボトムズ市長

 「ホワイトハウスが様々な方法で、巧みな言葉を発言するのを聞いてきました。多くの人種差別主義者は、差別をあからさまにして良いと許可されたのでしょう。それ(許可)がなければ、2020年のこの時に、私達は(このような人種差別を)見なくて良かったはずです」

 今後、この事件がしっかりと調査されるように、そしてアマードを追悼するため、5月9日にはシドニー・ラニアー公園に数百人もの人々が集まった。


警察による黒人差別が深刻なアメリカ

 アメリカでは振り返ればキリがないほど多くの無実の黒人が、犯罪者だと思われて殺されてきている。アメリカのMapping Police Violenceによると、2019年に警察によって殺された1,099人のうち、24%が黒人だった。アメリカで黒人が占める割合は13%。また、2013年から2019年に起こった警察による死亡事件のうち、99%が罪に問われていない。

 また、事件に対する声が大きなものとなってもなお、射殺した側が罪に問われない事例は多い。警察官による“私刑”は、近年では動画という証拠が残るようになり、より多くの批判が叫ばれるようになっている。2014年には、ニューヨークで黒人男性を取り押さえた白人の警察官が腕を使って黒人男性の首を絞め続け、男性が死亡。アメリカ各地で大規模な抗議デモが発生したにもかかわらず、警察官は不起訴になっている。

 米Cutが2017年に公開した動画『Black Parents Explain | How to Deal with the Police(黒人の両親が教える:警察にどう対応するか)』では、黒人コミュニティでは、子どもたちに幼少期から、警察の前では手をあげ、名前を言い、武器を持っていないことを証明するよう教えているという様子が伝えられた。8歳の少女アリエルは、動画の始めにこうつぶやいている。

 「1つ質問があるの。なぜ白人は黒人よりも多くの権利を持っているの?」

(フロントロウ編集部)

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