Photo:ゲッティイメージズ,スプラッシュ/アフロ,Instagram/ Keedron Bryant
アメリカ各地で人種差別抗議デモが激化するなか、ある12歳の黒人少年が歌うオリジナルソングが人々の胸を打っている。バラク・オバマ元米大統領らも反応した悲痛な歌詞を紹介。(フロントロウ編集部)

アメリカから世界へ、拡大する人種差別デモ

 アメリカのミネソタ州ミネアポリスで白人の元警察官(※)デレク・ショービン容疑者に首元を押さえつけられたことにより、黒人男性のジョージ・フロイドが死亡する事件が発生。

※事件後に懲戒免職となり、第3級殺人と第2級故殺の疑いで逮捕・起訴された。

 過去数カ月間にも武器を持たない黒人が白人の警官や元警官によって命を奪われる事件が起きるなか、フロイド氏が「助けてくれ」、「息ができない」と口にする“最期の瞬間”が収められた動画がSNS上で拡散されたことをきっかけに、現地の黒人コミュニティが奴隷制度が敷かれていた時代からの積年の不当な扱いに対する憤りをついに爆発させた。

画像: ミネアポリスの警察署前に集り抗議を行なうデモ隊(5月26日撮影)。

ミネアポリスの警察署前に集り抗議を行なうデモ隊(5月26日撮影)。

 フロイド氏の事件を機に勃発した連日の抗議デモは、「Black Lives Matter/ブラック・ライヴ
ズ・マター(黒人の命にも価値がある)」のスローガンのもと、黒人たちや、彼らをサポートする“アライ(同盟者・支持者)”と呼ばれる白人、人種差別全般に抗議するそのほかの人々も巻き込み、全米各地へと拡大。

 5月最終週の週末には、新型コロナウイルス禍にもかかわず、カナダ、イギリス、ドイツ、ニュージーランド、デンマークといった世界各国の都市でも、行進や警察官との睨み合いといったさまざまな形でデモが行なわれた。

画像: プラカードを持ち、ニューヨークのブルックリン・ブリッジを占拠する人々。(5月30日撮影)

プラカードを持ち、ニューヨークのブルックリン・ブリッジを占拠する人々。(5月30日撮影)


12歳黒人少年の悲痛な胸の内吐露した自作ソング

 俳優のジェイミー・フォックスやティモシー・シャラメ、テッサ・トンプソン、エレン・ぺイジ、シンガーのアリアナ・グランデやホールジー、ショーン・メンデス、カミラ・カベロ、ヤング・ブラッド、マディソン・ビアー、ティナーシェ、モデルのエミリー・ラタコウスキー、ラッパーのマシンガン・ケリーといった数多くのセレブたちも、SNSを通じて声を上げるだけでなく、デモの最前線に出向き、群衆に混じって抗議活動に参加した今回の騒動のなかで、ある12歳の黒人の少年が歌ったオリジナルソングが人々の心に響いている。

 フロリダ州出身のキードロン・ブライアントが「僕の心のなかにあることを歌った。誰かの心を清められたらいいな」というコメントと「#Black Lives Matter」のハッシュタグを添えて公開したのが、こちらの動画。

 ゴスペルシンガーとして、米NBCの才能ある子供たちが特技を披露する番組『Little Big Shots(リトル・ビッグ・ショッツ)』への出演したこともあるキードロンの母ジョンネッタが作詞し、キードロンが心のままに歌ったこの曲には、胸を抉られるようなこんな歌詞が並ぶ。

「僕は黒人の若者/ここに立つためにできる限りのことをしている/でも、周囲を見まわすと、目に入ってくるのは、僕と同じ人種の人がされている不当な扱い/僕は毎日獲物のように狩られる/僕たちは問題になんて巻き込まれたくないんだ/僕たちはもう十分苦しんできた/僕はただ生きたいんだ/神様、どうか僕を守って/僕はただ生きたいんだ/僕は生きたいだけなんだ」


オバマ元大統領やセレブも反応

 白人至上主義が根強く残るアメリカでは、黒人をはじめとする有色人種の子供たちは、まだ幼い頃から、肌の色を理由にさまざまな差別や不平等に直面する。「ただ普通に生きたいだけなのに」と願う、その“普通”が叶わないことへの悲しみや怒り、絶望感が凝縮されたキードロンの歌は、たくさんの人々の胸にグサリと刺さった。

 フロイド氏の事件に声明を出したバラク・オバマ元アメリカ大統領は、むしろ、有色人種が差別を受けることが“普通”となっている状況をこれ以上、許容し続けるべきではないなどと説いたメッセージの中で、同じくアフリカ系アメリカ人の血を引く知人の言葉をもとに「友人は、世間で話題となっている12歳のキードロン・ブライアントのパワフルな曲を使って彼が感じているもどかしさを表現していました。彼とキードロンが直面している状況は違うかもしれませんが、彼らの苦悶は同じです。それは、私自身やほかの何百万人もの人々が共有しているものです」と綴った。

画像: バラク・オバマ氏

バラク・オバマ氏

 誘拐され、奴隷として売られた黒人男性の体験記を原作とした映画『それでも夜は明ける』でアカデミー助演女優賞を受賞したルピタ・ニョンゴは、キードロンの動画をSNSでシェアし、「彼にこんな歌を歌わせるべきじゃない」とコメントした。

画像: ルピタ・ニョンゴ

ルピタ・ニョンゴ

 映画『グローリー/明日への行進』でアフリカ系アメリカ人公民権運動の指導者として活動したマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師役を演じたデヴィッド・オイェロウォやNBA選手のレブロン・ジェームス、シンガーのジャネット・ジャクソン、俳優のエヴァ・ロンゴリア、ラッパーのナズ、シンガーのビヨンセの母のティナ・ノウルズといった著名人もキードロンの動画をSNSで拡散。

画像: 上段左から:デヴィッド・オイェロウォ、レブロン・ジェームス、ジャネット・ジャクソン、下段左から:ナズ、エヴァ・ロンゴリア、ティナ・ノウルズ

上段左から:デヴィッド・オイェロウォ、レブロン・ジェームス、ジャネット・ジャクソン、下段左から:ナズ、エヴァ・ロンゴリア、ティナ・ノウルズ

 さらに、全米黒人地位向上協会(NAACP)も公式ツイッターを通じて、「この国において、公平と平等を求めることは、決して贅沢を言っているわけではないということを思い出させてくれてありがとう」というコメントとともにキードロンの歌を紹介した。

 キードロンが5月28日に公開した動画は、記事執筆時点で、インスタグラムでの再生回数が260万回を突破。彼の母ジョンネッタは、米GMAの取材に対し「私たち黒人が日々直面している問題について無視することは不可能なのです」と語っている。(フロントロウ編集部)

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