テレビ業界では難しいとされていた方法で交渉を行ない、前例のない契約を手に入れた『フレンズ』キャストたち。彼らが使ったテクニックとは? それが後輩俳優たちに与えた影響とは? 舞台裏でロス役デヴィッド・シュワイマーがかっこ良すぎた!(フロントロウ編集部)

テレビの歴史を変えた『フレンズ』のギャラ交渉

 『フレンズ』のキャストが1話につき1人約1億円というギャラを手にしていたのは有名な話だけれど、そこまで辿りつくまでには、テレビ界の歴史を変えたと言われているギャラ交渉が背景にあった。

画像1: テレビの歴史を変えた『フレンズ』のギャラ交渉

 そもそも『フレンズ』のキャストたちのギャラは、当初はバラバラだった。しかも珍しいことに、ギャラは女性キャストの方が男性よりも上。

 シーズン1では全員が1人につき1エピソード200万円前後ほどだったものの、シーズン2からは、視聴者人気の差などと比例して各キャストのギャラにも差が出るように。レイチェル役のジェニファー・アニストンとロス役のデヴィッド・シュワイマーが最も高く、1エピソードにつき推定約400万円を受け取っていたとされている。

画像2: テレビの歴史を変えた『フレンズ』のギャラ交渉

 キャスト間の給与格差はテレビ界では普通ではあるものの、デヴィッドは、自分とジェニファーが本来もらえるはずのギャラが下がる可能性が高いものの、全員が同じギャラをもらえるように6人全員で一緒にギャラ交渉しようと提案。

「同じ量の仕事をしているのだから、同じ報酬をもらうべきだという考えだった。誰かがこれだけもらっていて、自分がもっともらっていると知りながら、平穏な気持ちで仕事に行けない」

ージェニファー・アニストン、米Radio Timesに語って

 一般的にスタジオ側は、“君が抜けても別の俳優がいるからドラマは続く”という切り札でギャラアップを拒むことが多いため、グループ交渉を嫌がる。だったら全員がグループ交渉をすれば有利かと思うものの、様々な理由からグループ交渉は実現しないことが多い。一律のギャラは嫌だ、クビになるリスクを負いたく、スタジオとの関係性を悪化させたくな、今の条件に満足しているなど、俳優にもそれぞれの事情があるもの。

 例えば、2005年から現在でも続く長寿ドラマ『グレイズ・アナトミー 恋の解剖学』で主人公のメレディス・グレイを演じるエレン・ポンピオは、自身が主人公であるのに自分が最高額のギャラをもらえていないのはおかしいと感じて何度もギャラ交渉をしたものの、“君がいなくてもパトリック・デンプシー(※ロマンス相手のデレク・シェパード役)がいるから”とギャラアップを何度も拒まれたうえ、パトリックにもペアでギャラ交渉をすることを断られたため、最終的にパトリックがシーズン11を最後にシリーズ引退するまで希望するギャラを貰えなかったことを明かしている。

「パトリックが番組を去ったことは、交渉面では私にとって決定的な瞬間だった。彼ら(※スタジオ)は、『君はいらない、パトリックがいるから』と、彼を使って強気に出られるから。実際に何年もそうされてきたし。彼(※パトリック)に対してもそう言ってきたのかどうかは知らない。契約について彼と話したことはないから。一緒に交渉しましょうって何度も働きかけたんだけど、彼は一度も興味を示さなかった」

ーエレン・ポンピオ、米Hollywood Reporterで語って

画像: 『グレイズ・アナトミー 恋の解剖学』

『グレイズ・アナトミー 恋の解剖学』

 実はハードルが高い“グループ交渉”。しかし『フレンズ』のキャストは、デヴィッドの提案をきっかけに一枚岩となってスタジオと交渉。もちろんキャスト全員がいなくなってしまってはシリーズは続けられないため、交渉はキャストに有利に。1エピソードごとの6人のギャラの推定額は、シーズン3では1人約750万円に上昇。多くのキャストのギャラが大幅アップした一方で、デヴィッドはソロ交渉していたらさらに高額をもらえていた可能性があったが、“全員平等”にこだわりグループ交渉に徹したという。

 ただその後も6人の快進撃が続き、出演料はシーズン4では約850万円、シーズン5では約1,000万円、シーズン6では1,250万円、シーズン7と8では約7,500万円、そしてついに、シーズン9と10で30分番組としては史上初となる1話につき1人約1億円へと到達した。

 ちなみにシーズン9と10はそれぞれ24話と17話あったため、単純計算すると、6人のメインキャストにこの2シーズンだけで約246億円のギャラが支払われたことになる。『フレンズ』は最終回のCMスポットが1枠約2億円で販売されたことで話題になったものの、それでも、テレビ局側にとってはギャラでの支出が大きすぎるため赤字は免れない。しかしシリーズを制作さえすれば、その後の再放送やDVD・グッズ販売などで利益が取り戻せるため、この額を飲んだと言われている。

『フレンズ』キャストは今も毎年大金を受け取っている

画像: 『フレンズ』キャストは今も毎年大金を受け取っている

 『フレンズ』のキャストの交渉術の凄さは、1話ごとのギャラだけにとどまらない。

 グループで有利な交渉を続けたキャストたちは、2000年の契約更新時には、シンディケーション・ロイヤリティ(syndication royalties)を獲得。これは、番組が別の放送局で再放送されたり、DVDリリースされたり、配信サービスによって購入されたりと、ギャラの支払い当時の契約の外で番組が使われた時に発生した利益の取り分をもらえるという契約。

 番組の成功によっては一定額の収入がずっと見込め、最終的には出演料をはるかに超える額になることも。だからこそテレビ局側がそう簡単に認める契約ではなく、『フレンズ』キャストが交渉していた2000年当時は、人気コメディ番組『となりのサインフェルド』の主演にしてクリエイターでもあったジェリー・サインフェルドのように、番組の権利を持つ一部の役者にのみ許されていた契約だった。

 つまり『フレンズ』キャストはここでも、見事な交渉術で前例のない契約を手に入れたことになる。

 ちなみに、『フレンズ』のキャストが手に入れたシンディケーション・ロイヤリティの額は1人2%。たったの2%と思うかもしれないけれど、2015年に米USA Todayが報じた『フレンズ』のシンディケーションによる収益は年間1,000億円。その2%だから、キャストたちには、何もしなくてもそれぞれ毎年約20億円が入ってくることになる。

『フレンズ』の契約はのちの俳優たちに影響を与えた

 『フレンズ』のキャストたちのアクションはのちの後輩たちにも大きな影響を与えており、高視聴率番組のキャストのあいだでは、グループ交渉が一つのテクニックに。

 その一例が、ドラマ『ビッグバン★セオリー/ギークなボクらの恋愛法則』。2014年にはメインキャストである、レナード役のジョニー・ガレッキ、シェルドン役のジム・パーソンズ、ペニー役のケイリー・クオコがトリオで交渉して、1エピソードにつき約1億円というギャラを獲得した。

画像: 『フレンズ』の契約はのちの俳優たちに影響を与えた

 さらに今では、番組が成功した場合はシンディケーション・ロイヤリティを出演継続の条件として求める俳優は増えており、『ビッグバン★セオリー/ギークなボクらの恋愛法則』の3人も『フレンズ』キャストに習って交渉して、ロイヤリティを獲得している。

 ファンにはエンターテイメント史に残る番組として愛され、舞台裏では俳優のキャリアに大きな影響を与えていた『フレンズ』。2021年春には、6人のキャストが勢ぞろいする特別番組の撮影がスタートする予定。ワーナーメディアの配信サービスであるHBO Maxで独占配信される同番組。キャストたちにはそれぞれ2.5億円前後のギャラが支払われるとウワサされている。(フロントロウ編集部)

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