多くのトランスジェンダーの人々が命を落とした
2013年より、アメリカにおけるトランスジェンダーに対する殺人事件を調査してきたHuman Rights Campaign(HRC)によると、2020年は最も多くのトランスジェンダーの人々が殺された1年になってしまった。
これまで最多だったのは2017年の31名だったけれど、今年2020年は、現時点ですでにそれを大きく上回る41名の事件を確認。そしてHRCは、報告されていない事件がある可能性は高いとして、少なくとも41名とした。
また、その多くは黒人かラテン系の人々が占めているという。このことは、差別には色々な面があり、トランスジェンダーの人々のなかでも直面する困難が多岐にわたることを意味する。
2019年にはThe American Medical Associationが、社会の状況のことを、「トランスジェンダーコミュニティに対する暴力の流行」と呼んで危機感を募らせていたけれど、HRCは2020年も「暴力の流行」の年だったとした。
トランスジェンダー俳優たちも怒り
12月の初めにトランスジェンダーであることを公表した俳優のエリオット・ペイジは、その際に、社会に影響を持つ立場の人々がトランスジェンダーの人々への嫌悪を隠そうともしないことを強く批判。トランスジェンダーコミュニティにおける自殺率が高いことにも触れ、そういった社会に黙ることはないと宣言した。
「トランスジェンダーの人々のヘルスケアを犯罪化し(法律によって禁じ)、存在する権利を否定しようとする政治指導者たちや、トランスコミュニティに対して敵意を剥きだしにし続けているインフルエンサーのみなさんに言いたい。あなたたちには彼女たちの死に対して責任があると。あなたたちが解き放つ卑劣な猛威や屈辱的な怒りは、自殺を試みたことがあるという大人の割合が40%を超えるトランスコミュニティの肩に降りかかっています。もう限界なのです。あなたたちは“キャンセル”されているわけじゃない。人々を傷つけているのです。私もそんなコミュニティに属する人の1人です。あなたたちからの攻撃に直面するなか、私たちはこれ以上、黙ってはいられません」
また、Netflixドキュメンタリー『トランスジェンダーとハリウッド: 過去、現在、そして』では、これまで多く創作されてきた物語のなかで、どれだけのトランスジェンダーやクロスドレッサーが笑いの対象や危険な人物として描かれ、視聴者にネガティブな印象づけが行なわれてきたかを指摘した。
例として取り上げられた作品には、巨匠アルフレッド・ヒッチコック監督による多数の作品や、アカデミー賞を総なめにした『羊たちの沈黙』、さらには1900年代という映画史の超初期の映像まであり、映画はその歴史と同じ長さでトランスジェンダーへの偏ったレプリゼンテーションを行なってきたことが分かる。
本作のエグゼクティブプロデューサーを務めた、ドラマ『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』への出演で知られるラヴァーン・コックスは、彼女自身、2020年11月に見知らぬ男性に暴力を振るわれたことを明かしている。そしてその際に、「でもこれは私にとってショッキングな出来事じゃない。私の人生はずっとこうだったから。私はずっとこういうことに対処していかなくてはいけなかった」と、トランスジェンダーの人々が直面する問題を話した。
トランスジェンダーの人々をサポートする方法はいくつもある。自分の家族や友人がトランスジェンダーであったとしても拒絶しないことは大前提だけれど、サポート団体へ寄付を行なったり、差別について様々な角度から学んだり。そして、私たちの生活はすべて政治によって成り立っていて、社会を良くするためには投票に行くといった行動を起こすことが重要だと理解することも大切。
その人がその人であるだけで命を落としている。早急な社会の変化が求められている。(フロントロウ編集部)