南カリフォルニア大学アネンバーグ・コミュニケーション・ジャーナリズム大学院が毎年発表している、年間のヒット曲におけるジェンダーや人種の割合を調査したレポートの2021年版が公開に。それによれば、2012年から2020年に、米Billboardの年間シングルチャートであるHot 100 Year Endチャートにランクインした900曲を制作したクリエイターのなかで、女性ソングライターが占める割合は12.6%、プロデューサーは2.6%だったという。(フロントロウ編集部)

過去9年間の人気曲における女性クリエイターの割合の調査結果が発表

 2020年に開催された第62回グラミー賞では、当時18歳だったビリー・アイリッシュが女性として初めて、最優秀レコード賞、最優秀アルバム賞、最優秀楽曲賞、最優秀新人賞の主要4部門を制覇。そして、米Billboardにおける最新の全米シングルチャートに目を向ければ、こちらも18歳になったばかりのオリヴィア・ロドリゴが、「drivers license」がデビュー曲にして8週にわたって1位に君臨し続けているなど、音楽業界における女性クリエイターたちの未来は、一見すると明るいように思えるかもしれない。

画像: 過去9年間の人気曲における女性クリエイターの割合の調査結果が発表

 けれど、音楽シーン全体を見てみると、まだまだ女性クリエイターの割合が男性に比べて圧倒的に少ないことが分かる。米現地時間3月8日、南カリフォルニア大学アネンバーグ・コミュニケーション・ジャーナリズム大学院(以下、USC Annenberg)が毎年発表している、年間のヒット曲におけるジェンダーや人種別の割合を調査したレポートの2021年版が発表された。

 それによれば、2012年から2020年に、米Billboardの年間シングルチャートであるHot 100 Year Endチャートにランクインした900曲を送り込んだ388組のアーティストのなかで、女性アーティストが占めた割合は21.6%だといい、ソロアーティストに限れば30%まであがるものの、デュオでは7.1%、バンド(※)では7.3%しか占めていないという。

※メンバーが3人以上いるグループをバンドとしてカウント。調査対象の9年間のチャートでランクインしたのは51組で、女性だけがメンバーのバンドは2組、男性と女性それぞれのメンバーがいるバンドは13組。

ソングライターで女性が占める割合は12.6%

 近年では1曲を分業で手がけることも多く、1曲に10人のソングライターやプロデューサーが携わっているということも珍しくない。1曲を複数のクリエイターで手がけるとなれば、分母も大きくなるので、ソングライター/プロデューサーの領域では女性の割合が増えるかと思いきや、楽曲をパフォーマンスするアーティストにおける女性の割合よりもはるかに低いという結果に。

 USC Annenbergのレポートによれば、過去9年でヒットした900曲にクレジットされた4,322人のソングライターのうちで、女性のソングライターはそのうちの12.6%となる543人。対する男性は3,779人で、比率で表すと男性7人に対して女性が1人という計算になる。

画像: ソングライターで女性が占める割合は12.6%

 具体的なソングライターの名前に目を向けると、過去9年で最もヒット曲を年間チャートに送り込んだのは、ブリトニー・スピアーズやバックストリート・ボーイズを筆頭に、20年以上にわたってポップミュージックのシーンを動かし続けている敏腕ソングライター、マックス・マーティンの44曲。次いで、ドレイクの42曲、エド・シーランやジャスティン・ビーバーらとのコラボで知られるベニー・ブランコの25曲と続いている。

 一方で、女性のトップは19曲を送り込んだニッキー・ミナージュ。続けて、リアーナとテイラー・スウィフトの2人がそれぞれ14曲を送り込んでいるほか、次いでカーディ・Bの13曲、アリアナ・グランデの12曲となっている。

 また、より顕著なデータとして、過去9年にヒットした900曲のうちで、女性のソングライターだけで手掛けた楽曲はたったの4曲だったことも明らかになっている。一方で、女性が1人もクレジットされていない楽曲は57.3%を占める466曲、女性が1人しかクレジットされていない楽曲は30.6%を占める249曲だという。

女性プロデューサーの割合はわずか2.6%

 一方、プロデューサーに占める女性の割合に目を向けると、さらに低い数字となっており、2012年、2015年、2017年、2018年〜2020年の6年間でHot 100 Year Endチャートにランクインした600曲には、1,291人のプロデューサーがクレジットされたものの、女性のプロデューサーはそのうちのわずか2.6%で、比率で表すと男性38人に対して女性が1人という計算になる。

 グラミー賞を主催するザ・レコーディング・アカデミーは2019年、プロデューサーにおける女性クリエイターの割合が低いことを問題視し、「WOMEN IN THE MIX: PRODUCER & ENGINEERING INCLUSION INITIATIVE」と銘打ち、女性のプロデューサーとエンジニアを現場に増やすプロジェクトを立ち上げている。これは、音楽プロデューサーやエンジニアを起用する際に、「少なくとも2名の女性クリエイターの起用を検討する」というもの。さらにこのプロジェクトでは、誰にスキルを教えて誰を起用するかを決める際に、業界が抱えるジェンダー差を考慮に入れてほしいと、プロデューサーらにお願いしている。

 「WOMEN IN THE MIX」は音楽業界全体に向けて呼びかけられたもので、アーティストやプロデューサーら個人や、ユニバーサル・ミュージック・グループやワーナー・ミュージック・グループ、ソニーATVミュージックパブリッシングら大手レーベルなども賛同している。

画像: 女性プロデューサーの割合はわずか2.6%

 USC Annenbergのレポートによれば、2020年にHot 100 Year Endチャートに曲がランクインした「WOMEN IN THE MIX」賛同者の中で、女性のプロデューサーをクレジットに加えたのは1人もいなかったと言う。また、同じグループの中で女性のエンジニアをクレジットに加えたのはアリアナ・グランデのみだという。

 レポートでは、Hot 100 Year Endチャートに楽曲を送り込んだ「WOMEN IN THE MIX」に賛同した38人のクリエイターについて、彼らは他の楽曲でこそ女性のエンジニア/プロデューサーを起用したものの、ヒットした楽曲ではそもそも起用しなかった可能性を指摘している。

 過去9年間のヒット曲を書いたソングライターで女性が占める割合が12.6%という数字も極めて少ないものだけれど、「少なくとも2名の女性クリエイターの起用を検討する」ことを前提にした「WOMEN IN THE MIX」プロジェクトが立ち上がったにもかかわらず、女性プロデューサーが占める割合がわずか2.6%というのは、由々しき事態。改善が求められている。(フロントロウ編集部)

 

 

 

 

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