第63回グラミー賞で最も栄誉ある賞の1つである「年間最優秀レコード賞」を受賞したビリー・アイリッシュ。受賞スピーチで、自分が受賞するのは「恥ずかしい」、別の候補のほうが「相応しい」と語る光景に“既視感がありすぎて考えさせられる”と視聴者たちの間で意見が交わされている。(フロントロウ編集部)

ビリー・アイリッシュ、最優秀レコード賞受賞するも「恥ずかしい」

 シンガーのビリー・アイリッシュは、コラボレーターで兄のフィネアス・オコネルとともに、「Everything I Wanted(エヴリシング・アイ・ウォンテッド)」で第63回グラミー賞の年間最優秀レコード賞を受賞。

 前年のグラミー賞では、18歳の若さで、女性として史上最年少で主要4部門を制覇したビリーにとって、2年連続での同部門での受賞は紛れもなく素晴らしい快挙だが、ビリー本人は、自分の名前がアナウンスされた瞬間、フィネアスとそろって体をのけ反らせて“まさか自分たちが⁉ ”と意表を突かれたリアクションを見せ、スピーチに登壇すると苦笑いしながら、真っ先に「すごく恥ずかしい」とコメントした。

画像: ビリーとフィネアスは映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』のテーマ曲である「ノー・タイム・トゥ・ダイ(NoTimeto Die)」で映画テレビ・その他映像部門の最優秀楽曲賞も受賞した。

ビリーとフィネアスは映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』のテーマ曲である「ノー・タイム・トゥ・ダイ(NoTimeto Die)」で映画テレビ・その他映像部門の最優秀楽曲賞も受賞した。

 自分よりも、ラッパーのメーガン・ジー・スタリオンのほうが、この賞に相応しいと、メーガンに向かって「あなたこそが相応しい。あなたが過ごした1年は誰にも超えることができないものだったと思う。あなたのことがいかに大好きかって考えると、泣きたくなるくらい。あなたは本当に素敵だし、才能に溢れてる」と賛辞を贈ったビリー。「純粋に、この賞は彼女のものだよ。彼女を祝福してもいい?」と会場にいる参加者たちにメーガンへの拍手まで募った。


デジャヴのような光景

 受賞できたことには「感謝している」と口にしたビリーは、早口で主催のザ・レコーディング・アカデミーや自身のチーム、フィネアスらにお礼を告げてステージを後に。

 この模様を見ていたビリーのファンたちからは、自分の思ったことを素直に口にする、いつもの“ビリー節”に感嘆の声が上がり、その謙遜ぶりが称賛されたが、一部にはビリーのスピーチの内容を「ものすごく気まずかった」、「変な空気が流れた」と評価する人たちもいた。

画像: 右:メーガン・ジー・スタリオン。メーガンは、今回のグラミー賞で新人賞、最優秀ラップソング、最優秀ラップパフォーマンスの3冠に輝いた。

右:メーガン・ジー・スタリオン。メーガンは、今回のグラミー賞で新人賞、最優秀ラップソング、最優秀ラップパフォーマンスの3冠に輝いた。

 彼らはただ単に、受賞をあまり喜んでいるようには見えなかったビリーに難癖をつけているわけではなく、同様の光景を「これまで何度も見てきた」と過去の例を引き合いに出して比較している。


過去にも起きていた似たような出来事

 2017年、主要部門にそろってノミネートしたビヨンセに圧勝したアデルは、自分よりもビヨンセの受賞のほうが相応しいと、「私はこの賞を受け取れない」、「とても恐縮だし、感謝しているし、恵まれていると感じるけど、私にとって生涯最高のアーティストはビヨンセ」と受賞スピーチの度にコメント

画像: 左:アデル、右:ビヨンセ

左:アデル、右:ビヨンセ

 2014年に最優秀ラップアルバムを受賞したラッパーのマックルモアは、同部門にノミネートしたケンドリック・ラマーに対して、授賞式後に「君は(賞を)盗まれた。君に勝って欲しかった。君が勝つべきだった。俺が君から賞を盗んじまったのは最悪だし奇妙だ。その事をスピーチの最中に言いたかったけど、(時間が足りず)言えなかった」とメールを送ったことで知られる。

画像: 左:マックルモア、右:ケンドリック・ラマー

左:マックルモア、右:ケンドリック・ラマー


グラミー賞の「白人優位体質」を表しているとの意見も

 ビリーがメーガンのほうが相応しいと語ったケースと、過去の2例には共通点がある。それは、いずれも、受賞者が白人で受賞を逃したアーティストが黒人だということ。

 アカデミー賞やゴールデングローブ賞といったショービズ界のほかの大規模アワードと同じく、白人のアーティストのほうが受賞やノミネートを果たしやすい、“白人優位”が疑われているグラミー賞。

 近年、少しずつ変化の兆しが見られており、今回のグラミー賞では、ブラック・ライヴズ・マター(黒人に対する人種差別撤廃運動)にスポットライトを当てたパフォーマンスも目立ったものの、世間には、白人であるビリーが黒人であるメーガンが「受賞するべきだった」と口にする光景が、まさしく、グラミー賞、もとい、音楽界に根強く残る白人優位を表しているようだと読み取る人もいる。

「マックルモアからケンドリックへ、アデルからビヨンセへ、ビリーからメーガンへ:トレンドは続く!」

「ビリーの音楽は大好きだし、受賞に対して素晴らしい対応をした彼女を侮辱するつもりはまったく無いけど、あれは最もグラミー賞らしい場面だったね。ビヨンセに何度も受賞させたかことを自画自賛しておいて、大きな賞は取らせなかった。完全に常軌を逸してる」

「マックルモアもアデルもビリー・アイリッシュもみんな『私が勝ったけど、黒人アーティストのほうが相応しかったと思う』って言ったね。彼らの言う事が正しかったとしても、アワードに関わっている人みんなにとって、これは恥ずかしいことだと思う」


別の見方も 「ビリーにもっと自信をもって受賞して欲しい」

 ビリーが、前回のグラミー賞で最優秀アルバム賞を受賞した際にも、自分は受賞に相応しくないとスピーチしたことを覚えている人も多いだろう。

 その際、ビリーが自分よりも受賞すべきだったアーティスとして挙げたのは、『サンキュー、ネクスト(ThankU, Next)』が惜しくも受賞を逃してしまったアリアナ・グランデだった。

画像: 別の見方も 「ビリーにもっと自信をもって受賞して欲しい」

 ビリーが受賞を素直に喜べないのは、人種にはまったく関係なく、受賞を逃してしまったほかのアーティストたちのファンにバッシングされるのがツラいからなのではないかという見方も。

 ビリーの本当の胸の内はわからないが、ファンたちの間では、どんな理由にせよ、「ビリーが素直に受賞を喜べないのが、とにかく悲しすぎる」「ビリーが自信を持ってアワードの受賞を受け入れてくれる日が来ることを祈ってる」といったコメントも多い。

 ビリーのスピーチが議論を巻き起こしていることに関して、黒人で初めてEGOT(※)を達成したシンガーのジョン・レジェンドを夫に持つ、ご意見番モデルのクリッシー・テイゲンが、こうつぶやいてビリーを擁護している。

「最優秀レコード賞を獲るのって最悪なんだよ。だって、たくさんの人たちから自分がいかに受賞に相応しくないかっていう理由を教えられたら、全然喜べないよね。最悪だよ。人って最悪。悪いのは最優秀レコード賞の受賞者じゃないよ」。

画像: クリッシー・テイゲン&ジョン・レジェンド。※EGOTとは:エンタメ界最高峰の4大アワードであるエミー賞(E)、グラミー賞(G)、アカデミー賞(O)、トニー賞(T)のすべてで受賞を果たすこと。

クリッシー・テイゲン&ジョン・レジェンド。※EGOTとは:エンタメ界最高峰の4大アワードであるエミー賞(E)、グラミー賞(G)、アカデミー賞(O)、トニー賞(T)のすべてで受賞を果たすこと。

 ちなみに、ビリーとメーガンは授賞式後、舞台裏でお互いを労うようにハグを交わす様子が目撃されている。

 (フロントロウ編集部)

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