アマゾンが映画会社MGMを1兆円近い額で買収する話が協議されていると報じられている。動画配信サービス(SVOD)はこれからどこに向かっていく? フロントロウ編集部が解説。

アマゾン、約1兆円でMGMを買収と報道

 Amazon PrimeVideoを展開するアマゾンが、177のアカデミー賞(うち12が作品賞)の受賞歴を誇る、ハリウッで最も有名な映画会社のひとつであるMGMを90億ドル(約9,900億円)で買収するための協議を進めていると報じられている。

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 映画フィルムで作られた丸枠の中でライオンがガオーと雄叫びをあげるロゴでお馴染みのMGMは、1924年創業の老舗。100年近い歴史の中で、ハリウッド黄金時代を代表する映画『ベン・ハー』や『オズの魔法使い』などの名作から、映画『ロッキー』や『羊たちの沈黙』といったカルト的人気作、そして近年の映画『007』やドラマ『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』まで、時代を通してハリウッドを代表する人気作を生み出してきた。2021年以降にも、映画『キューティ・ブロンド3』や、『羊たちの沈黙』の続編ドラマ『クラリス』など、注目作が多数控えている。

画像: ©︎ ORION PICTURES

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 アマゾンでは2020年に映画・テレビ・音楽のコンテンツ予算に前年比41%増の110億ドル(約1兆2,000億円)を費やすなどエンタメコンテンツの強化に力を入れており、この契約が終結した場合は、MGMが所有する映画4,000本・テレビ番組1万7,000時間という莫大なライブラリーを一気に手に入れることとなる。

HBO MaxのワーナーとDiscovery+のディスカバリーが統合

 アマゾンとMGMのニュースが飛び込んできた同じ週には、映画『ハリー・ポッター』やDCコミックス作品を所有するワーナーメディア(AT&T)と、ネイチャー番組やライフスタイル系番組に強いディスカバリーの統合が発表された。米Financial Timesいわく、今回の統合によって、売上高ではディズニーに次ぐ世界第2位のメディア企業が誕生するという。

画像: HBO MaxのワーナーとDiscovery+のディスカバリーが統合

 ワーナーメディアとディズカバリーは、それぞれがSVODを所有している。ワーナーメディアが2020年5月にローンチしたHBO Maxは約6,400万人のユーザー数を誇り、ドラマ『フレンズ』特別番組、『ゴシップガール』新作、『セックス・アンド・ザ・シティ』続編などのオリジナルコンテンツの配信が控えている。一方でディスカバリーが2021年1月にアメリカでローンチしたDiscovery+は約1,500万人のユーザー数を誇り、『90Day フィアンセ』や『Say Yes to the Dress』などの人気コンテンツを配信している。

画像: ワーナーメディアが所有するHBO Maxでは、2021年7月にドラマ『ゴシップガール』の新作が配信予定。

ワーナーメディアが所有するHBO Maxでは、2021年7月にドラマ『ゴシップガール』の新作が配信予定。

 統合によって同じ傘の下に入るこの2つのストリーミングサービスが1つのサービスにまとめられるかどうかは明かされていない。

サービスの「乱立」→「統合」の時代へと突入

 2社が統合や買収によって1つになるこういった動きは、SVODのトップを走るNetflixやDisney+を意識してのこと。

画像1: サービスの「乱立」→「統合」の時代へと突入

 2006年にピクサー、2009年にマーベル、2012年にルーカスフィルムを買収で傘下に置いたディズニーは、Netflixなどとのコンテンツ競争を見据えて、2019年に21世紀フォックスを買収。これによって動画配信サービスHuluの持ち株6割を所有し、実質的な権利を獲得した。自社コンテンツの強化の結果、ディズニーの動画配信サービスDisney+は2019年11月のサービス開始からユーザー数を伸ばし、2021年2月の発表でのユーザー数は9,490万人。2024年には2億3,000万〜2億6,000万人に達すると予測している(Netflixのユーザー数は2021年4月発表で2億800万人)。

画像2: サービスの「乱立」→「統合」の時代へと突入

 億レベルのユーザー数を誇るNetflixやDisney+と同じ業界で闘うためにはコンテンツ力は重要。大量のコンテンツを消費することに慣れた現代のユーザーたちは、早く、たくさん、良質な作品を提供することをSVODに求めている。そんななか、統合や買収には、コンテンツを短時間で飛躍的に拡大できるという魅力がある。さらにその先には、2ブランドのユーザーが合体することで相乗効果が生まれる→収益が上がる→番組制作や買収・投資にもっとお金をかけられる→ユーザー数が増える、という理想的なサイクルを生み出す可能性さえ秘めている。

 さらに言うと、ストリーミングサービスはお金のかかるビジネス。2011年から総額約1兆5,000億円の負債を抱えてきたNetflixが、「日々の業務のために外部から資金を調達する必要性はもはやない」と言えるようになったのは、2021年1月のこと。資金面で1社では競争についていけなくなったブランドがギブアップして、他社と協力しあうというシナリオも十分ありえる。

 ちなみにユーザーとしては気になる指摘を、ロヨラメリーマウント大学経営学部エンターテインメント・ファイナンス学科准教授のデヴィッド・エフェンバーグ氏が米Observerでしている。

 それは、統合などが続いて、アメリカでシェアを争う大手ストリーミングサービスが現在の10社弱ほどから4〜5社に絞られた時に起こる、コンテンツ量の低下。エフェンバーグ氏は競争率が高い“戦国時代”の今こそ選択肢が多くて「消費者にとって最高の状態」だとしており、「成熟した業界の中では、既存の企業はコンテンツの制作量を減らし、業界全体で制作量が半分になると予想できます」と断言。そしてこう付け加えた。「皆さん、楽しんでください。ここから先は下り坂です」。

 ストリーミング業界は乱立ステージから、統合のステージに突入。ユーザーに支持されて最後に生き残るのはどこになるのか?(フロントロウ編集部)

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