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メンタルヘルスにフォーカスしたドキュメンタリー『あなたに見えない、私のこと』がAppleTV+で配信中。ヘンリー王子やレディー・ガガといったセレブたちが、胸の内を明かすドキュメンタリーはまるで“観るセラピー”のよう。同シリーズが必見な理由やセレブたちが語ったストーリーの一部を紹介。(フロントロウ編集部)

メンタルヘルスに焦点を当てたドキュメンタリー
『あなたに見えない私のこと』

 イギリス王室のヘンリー王子と米大物司会者のオプラ・ウィンフリーが共同でプロデュースしたドキュメンタリーシリーズ『あなたに見えない、私のこと(原題:The Me You Can’t See)』。日本でもApple TV+で視聴できる同番組では、計5話(記事執筆時点では4話までが配信)から成るメンタルヘルスにフォーカスしたシリーズ。

 メンタルヘルスの問題を語ることは「恥ずかしいこと」「弱さを露呈すること」といった偏見をなくすために生まれた同シリーズでは、ヘンリー王子とオプラはもちろん、シンガーのレディー・ガガや俳優のグレン・クローズ、NBAのサンアントニオ・スパーズに所属するデマー・デローザン選手、東京五輪の女子ボクシング米代表選手であるヴァージニア・フックス選手、有名シェフのラシャド・アームステッド、俳優の故ロビン・ウィリアムズの息子でありメンタルヘルス活動家のザック・ウィリアムズといった各界の著名人たちが、自身の心に抱えている痛みや過去のトラウマなどを赤裸々に告白。それぞれの対処法や気づきなどについて語っている。


ヘンリー王子にとっては「セラピー」の一環

 オプラとともに『あなたに見えない、私のこと』のホストも務めるヘンリー王子は、生まれた時から世界中の視線を集めるロイヤルファミリーという特殊な環境で育ち、12歳という多感な時期に母親のダイアナ元妃を交通事故で失うという悲劇を経験した。

 心の痛みを口にすることはタブーとされ、然るべきサポートを得られないままポーカーフェイスで公務に取り組む裏で、悲しみや怒り「自分は本当にここにいて良いのか?」という疑念を抱いたまま大人になったヘンリー王子は、妻であるメーガン妃との口論の最中に「誰かに相談するべきだと思う」と助言されたことがきっかけで、ようやく過去のトラウマと向き合い、メンタルヘルスをケアすることの重要性に気づいたという。

画像: ヘンリー王子にとっては「セラピー」の一環

 以来、専門家によるセラピーを受けるようになったというが、ヘンリー王子にとっては、『あなたに見えない私のこと』のカメラの前で語ること自体がセラピーの一環となっていると同作の監督を務めたドーン・ポーターは米Town&Countryに語る。

 「ハリーはボランティアを買って出てくれました。彼は新しい何かに挑戦することに乗り気なんです。だから私たちは、この“セラピー”をカメラに収めない手はないと思いました。もしかしたら、それがほかの人たちの役に立つかもしれないと」。

 ヘンリー王子は、同シリーズで母ダイアナ妃を突然奪われてしまった喪失感から逃れるため、アルコールや薬物に手を出した時期があったことや、「ロイヤルファミリーだから」と特別扱いされない兵役時代が最も開放的な気分で生きられたこと、王室で生きるプレッシャーに押し潰されそうになる自分と兄のウィリアム王子に対し、父であるチャールズ皇太子が救いの手を差し伸べてくれなかったことなども明かしている


レディー・ガガが語る「完全なる精神崩壊」

 押しも押されもせぬ大スターのレディー・ガガは、同シリーズの初回エピソードで19歳の頃に経験した20歳以上年上の音楽プロデューサーから性的暴行(レイプ)が、人生に暗い影を落としていると掘り下げた。

 望まない妊娠までさせられ、精神的にも肉体的にもボロボロになった当時の痛みを、持病である線維筋痛症の発作である慢性的な体の痛みを感じるたびに今でも思い出してしまうと涙ながらに語ったガガ。

画像: レディー・ガガが語る「完全なる精神崩壊」

 数年前にも、慢性痛とレイプによるPTSD(心的外傷後ストレス障害)が原因で「完全なる精神崩壊を経験しました」「2年くらいの間、私はまるで別人のようでした」とひどい苦痛に耐えなければならない時期があったことを明かしたガガは、「もう二度と顔を合わせたくない」という理由から加害者の名前は絶対に明かしていないが、それでも自身がメンタルヘルスについて発言を続けるのは、少しでも自分と同じように苦しんでいる人の力になりたいという想いからだと明かしている。


「カルト育ち」の過去を告白したグレン・クローズ

 アカデミー賞に通算8回ものノミネートを果たした経歴を持つ実力派俳優のグレン・クローズは、『あなたに見えない、私のこと』で、両親がハマってしまった“カルト宗教団体”で過ごしたつらい幼少期について振り返っている。

 グレンの家族は彼女がまだ7歳の頃、道徳再武装(Moral Re-Armanent / MRA)に傾倒するようになったそう。1921年にメソジストのフランク・ブックマン牧師率いるオックスフォード・グループが発展する形で発足したMRAは「一人ひとりの人間の意識が変われば、世界を苦境から救うことができる」という理念のもとに立ち上げられた運動。一般的にはカルトとは定義されていないものの、グレンは自らの経験からMRAを「カルト」と表現している。

画像: 「カルト育ち」の過去を告白したグレン・クローズ

 「みんなが同じ事をまくしたてていた。ルールや規制がたくさんあってね。自分のために何かをすることは、すべて自己中心的だと教えられた」と語るグレン。家族旅行に出かけた楽しい思い出もなければ、MRAの活動以外で何かした記憶は無いという。

 特殊な環境で育ったおかげで、大人になってからも人間関係を築くのにとても苦労したそうで、「カルトによる精神的、心理的な荒廃により、私は人との関係に失敗してばかり。永続的なパートナーを見つけることもできない。自分を哀れに思う」と、幼い頃の経験が人格形成に大きな影響を与え、今でも孤独を味わい続けていると語った。


『あなたに見えない私のこと』の目的は?

 ヘンリー王子とともにホストを務めるオプラ自身も、母から愛されずに育った孤独な子供時代や、10代前半から親族の男性から受け続けた性的暴行などについてあらためて言及しているほか、金メダル候補であるボクシングのフック選手は日常生活に支障をきたすほどの強迫神経症(OCD)と共生していること、有名料理コンテストの優勝者で、黒人コミュニティの食文化を奨励する活動を行なっているシェフのラシャドは、明るく陽気で人望も厚い人物像とは裏腹に、つねに不安や孤独に押しつぶされそうになっていることなど、それぞれのメンタルヘルスに関するストーリーをエモーショナルに語っている。

画像1: 『あなたに見えない私のこと』の目的は?

 しかし、この番組の本来の目的は、“選ばれし者”であるセレブたちの身の上話を視聴者たちに切々と聞かせることではない。

 彼らはあくまでも、どんな人でもメンタルヘルスの問題を抱え、日々苦しんでいるということを知るための事例。お金や地位、名声を持っていても、もとを辿ればみんな1人の人間であり、誰しもが少なからず何かしらのトラウマを抱え、心の問題と対峙しながら生きている。心に言葉にしがたい闇を抱えているのは、ごく普通のことだとを伝えることを本題としている。

 同シリーズは、もともと新型コロナウイルスが世界中に蔓延し、人々の生活がガラリと一変してしまうよりも以前に企画されていたもの。パンデミック禍でよりストレスや不安を感じる人が増え、心の問題が深刻化するなか、「メンタルヘルスを取り巻く恥の意識は、今まで以上に早急に、知恵や思いやり、誠実さで上塗りされなければなりません」「私たちのシリーズの目的は、(メンタルヘルスに関する)世界的な会話に拍車をかけることです」とオプラは語る。

画像2: 『あなたに見えない私のこと』の目的は?

 『声に出して語ろう』と題されたエピソード1は、まず、メンタルヘルスに関する沈黙を破り、第一歩を踏み出すことの大切さを、エピソード2『助けを求めて』は、救いを求めるために勇気を出すこと、エピソード3の『特効薬を探す』は心の健康を回復し維持するための多様なアプローチについて、エピソード4『互いが必要』は、1人で悩むのではなく、同じような悩みを持つ誰かと支え合うこと、そして、エピソード5『This is Me(原題)』は、メンタルヘルスの問題と向き合うことで出会える本当の自分と、段階的にテーマを分けて特集している。

 ヘビーなストーリーが続くものの、登場人物たちが抱える問題をどこか自分と重ね合わせ、生きるうえでの小さなヒントを見つけることができる『あなたに見えない、私のこと』。自分自身も気づかなかったメンタルヘルスの問題と自然と向き合える“観るセラピー”のような内容となっている。

【作品詳細】
ドキュメンタリー『あなたに見えない、私のこと』(全5話)
Apple TV+にて配信中

(フロントロウ編集部)

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