日本のなかでもダイバーシティを推進する企業に共通する制度とは?6月のプライド月間を祝して開催された『Indeed Rainbow Voice 2021』に参加した企業をフロントロウ編集部が取材。(フロントロウ編集部)

9割がカミングアウトしていない日本の職場

 2020年に厚生労働省が発表した、日本国内でのレズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの人々の雇用に関する課題を集めたデータによると、職場で誰か1人にでもカミングアウトしている人は、レズビアン(8.6%)、ゲイ(5.9%)、バイセクシャル(7.3%)、トランスジェンダー(15.3%)と、それぞれ1割程度。

画像: ※写真はイメージです

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 この調査ではほかにも、ジェンダー移行を機に社内ハラスメントにあって適応障害や離職につながったといった在職中の課題から、学校でイジメにあっていた背景が就職への壁となったり、当事者のロールモデルがいないためキャリア展望が描きにくかったりと、就職前の困り事も多いことがわかった。

 「日本ではLGBTQ+の方々が仕事に関する場面で悩みを抱える状況がまだまだあるので、6月のプライドマンスに直接そういったお話をお聞きしたり、声を集めたりすることで、あらゆる人々が公正に仕事を得られるような社会を実現していくための一つのきっかけになるような取り組みができればと思い、プロジェクトを立ち上げました」。そう話すのは、『Indeed Rainbow Voice 2021』を主催した世界No.1*求人検索エンジンIndeed Japan広報の吉村咲紀氏。 *comScore 総閲覧数, 2017 年 3 月調べ

画像: 9割がカミングアウトしていない日本の職場

 特設サイトでLGBTQ+当事者から仕事に関する悩みや想いを募集したこのイベントでは、6月3日と4日の2日間、社会で活躍するLGBTQ+当事者や、ダイバーシティを推進する企業の担当者・従業員と対話できるオンライントークが開催。1on1かつ非公開で行なわれたトーク企画では、会社での服装にまつわる悩みや、面接についてのアドバイス、日本に古くからある“社会人たるもの”という考えに対する疑問など、多くのテーマで会話が交わされた。

LGBTQ+社員に対する福利厚生

 そんなイベントに、日本において“ダイバーシティを推進する企業”として参加した企業にはいくつかの共通点があった。

画像1: LGBTQ+社員に対する福利厚生

 まずは、平等な福利厚生制度。総合コンサルティング会社のアクセンチュアでは、同性のパートナーも異性の夫婦と同じように福利厚生を活用できるライフパートナー制度があり、ここに登録すれば、結婚お祝い金や慶弔休暇、健康診断受診費の会社負担や生命保険の受取人指定も可能になるなど、異性の夫婦と同じ平等な権利が与えられる。

 福利厚生の制度で異性カップルも同性カップルも平等に扱われるという点では、ほかの企業も同じ。H&Mでは、慶弔休暇の中でも「配偶者」に対して与えられる休暇は、性別にかかわらず同居しているパートナーにも適用される。また、アパレル企業らしく、同じ住まいに住んでいれば同性カップルでもファミリーディスカウントが適用されるという制度も存在する。

画像2: LGBTQ+社員に対する福利厚生

 さらにアクセンチュアにおいては、日本企業ではまだまだ導入が少ない、トランスジェンダー向けのサポート制度も手厚い。「性別移行の際に会社と本人双方にとって最善な対応ができるよう、性別移行ガイドラインを整備しています」と、同社のシニア・マネジャーの佐藤守氏。同じくシニア・マネジャーの木村順子氏は、「ドレスコードに関しても、性別にかかわらず全社員共通のガイドラインがあり、性別に対して典型的に期待されるような服装であるかどうかではなく、プロフェッショナルとして相応しい服装であるかどうかを重視しています」と続けた。

理解を深める従業員リソースグループは、社員もビジネスもエンパワーする

 また、ダイバーシティを推進しているこういった企業では、従業員リソースグループやそれに近い活動が社内にあるという点でも共通していた。

 英語ではエンプロイーリソースグループ(ERG)やインクルージョングループ、アフィニティグループなどと呼ばれるこのグループは、LGBTQ+、障がい者、親や介護者など、社会でニーズが置き去りにされがちな人々や特別なニーズを抱える人々のための社内支援グループ。当事者の声を直接聞いて、社内での理解を深め、より働きやすい会社へと成長させていくための有効なツールとして、欧米の会社では導入が広がっている。

画像1: 理解を深める従業員リソースグループは、社員もビジネスもエンパワーする

 例えば、アクセンチュアではジェンダー、障がい者、LGBTQ Pride、クロスカルチャーという4つのカテゴリーでのダイバーシティ推進に力を入れており、カテゴリーごとに活動するコミッティというものが存在する。

 LGBTQ Prideコミッティのリードも務める佐藤氏は、「各領域のコミッティは有志社員で構成されており、その領域の理解推進や権利向上のために、毎年どんなことをやれば良いのか考え、ダイバーシティ統括リードや経営陣と協力しながら進めていきます。LGBTQの分野では、まずは社内理解や認知向上活動の活性化、アライ(支援者・理解者)を増やすこと、前提にある背景を理解することが大事なので知識や理解を深めるイベントを行う取り組みなどをしています」と語る。

 部門長から店長に至るまで、リーダーは「I&D(インクルージョン&ダイバーシティ)」や「無意識の差別(アンコンシャス・バイアス)」についてのトレーニングやワークショップに参加することが義務づけられているH&Mでは、店舗のスタッフも参加できるI&Dグループがある。このグループでは、社内で起きている困りごとを洗い出し解決法を考えるディスカッションが毎月行なわれ、参加者はコミュニケーションツールのSlack上に、生活の中で目にしたI&Dに関するニュースやそれに対するコメントなどをいつでも投稿できるなど、社員の問題意識向上を図っている。LGBTQ+であるH&Mプレスの下久保文太氏は、同社のI&Dグループで、異なるアイデンティティを持つ人々の経験やニーズを聞くことで新たな気づきを得ることも多いと話す。

 「日本人だけではなく多国籍な環境、また部門や役職の異なる社員間で体験をシェアし合うことで、自分の持っていない視点を得ることができて面白いです。ディスカッションを通して様々な背景を持つ社員のストーリーを聞けることがまず貴重な機会だと思っています。マイノリティへの差別を想像する時はセクシャリティや人種が話題になりやすいですが、年齢や性別が似通い、100%日本人で構成されたチームであっても、想像力を働かせることが重要だと思います。例えば人事部での話ですが、お母さんが何人かいるチームでご飯に行こうとなったときに、お母さんだから夜は無理だよねと無意識に思い込んで選択肢から夜を外していたのですが、実際には当事者のお母さんたちは『そういう機会がないと夜に出かけられないから夜誘ってくれる方が嬉しい』と思っていたことが後から分かったそうです。それを聞いたときに、気づかないだけでこういうことは色々な場面で起こっているのだろうなと、自分でもより意識するようになりました」

画像2: 理解を深める従業員リソースグループは、社員もビジネスもエンパワーする

 インクルージョングループは、会社のサービスやプロダクトに良い影響を与えるというパワーも持つ。

 日本においては4つのインクルージョンリソースグループ、iPride Inclusion Group(LGBTQ+グループ)、Access Indeed(障がい者支援グループ)、International Inclusion Group(多文化交流グループ)、Women at Indeed(職場においての女性の活躍支援グループ)が存在するIndeedでダイバーシティ・インクルージョン&ビロンギングのシニア・ビジネス・パートナーを務めるAnthony Daisuke Estrella氏は、障がい者支援グループからのコメントの影響を受けた事例をあげた。「カラーブラインド(色盲)の方がいるから製品で使用する色に気をつけたり、左利きの方のためにボタンの位置をどこに置くかを検討したりなど、リソースグループからの意見がプロダクトにインプットされることもあります」。

 同社では今後は、子育てや介護をしている従業員が安心して働き活躍できる環境を支援するParents & Caregiversという、既に他国では活動しているグループの日本への導入を検討しているそう。「社員の平均年齢が20代後半くらいと若いため、性別にかかわらず少しずつ産休育休を取られる方が増えてきています。そういった方が職場復帰したときに不安を抱える面も多いと思うので、そういったグループを作るのは大事だと感じています」とEstrella氏。

 LGBTQ+を含め、多様なニーズや事情を抱える人が存在する会社の中では、当事者の本音を聞いて、そのニーズへの理解を社内で広げることは大切なこと。それを通して作られた働きやすさが、各社員の生産性の向上や、離職率の低下、さらにはイノベーションにあふれたプロダクトやサービスなど、事業へのプラスにもつながる。

 今回のイベントに参加した企業担当者やLGBTQ+当事者が、互いを尊重しながら働ける社会の実現に向けて話し合う「Rainbow Voiceアフタートーク」は、後日、Indeedの公式YouTubeチャンネルにて公開予定。ここでは、LGBTQ+の人々の仕事や職場に対する想いや意見、さまざまな企業の取り組みなどが紹介される。(フロントロウ編集部)

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