ビリー・アイリッシュのライブ映像作品『ハピアー・ザン・エヴァー:L.A.へのラブレター』がディズニープラス(Disney+)にて9月3日より配信スタート。同名のタイトルがつけられたセカンドアルバム『ハピアー・ザン・エヴァー』を全編演奏するライブの形式で描かれる同作をフロントロウ編集部がレビュー。(フロントロウ編集部)

『ハピアー・ザン・エヴァー:L.A.へのラブレター』が配信

 そのタイトルにもある通り、『ハピアー・ザン・エヴァー:L.A.へのラブレター』の舞台は、アメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルス。「ロサンゼルスの象徴」だとビリー・アイリッシュ(19)が話す、ハリウッド・ボウルのステージで7月30日にリリースしたセカンドアルバム『ハピアー・ザン・エヴァー』の楽曲を順番に披露していく形でストーリーは進んでいく。

画像: 『ハピアー・ザン・エヴァー:L.A.へのラブレター』が配信

 ロサンゼルスといえば、ハリウッドに象徴されるように世界のエンターテイメントの中心地であり、多くのアーティストたちが目標としている都市だが、ビリーにとってロサンゼルスは、現在の拠点となっているだけでなく、生まれ育った故郷でもある。

 「故郷のロサンゼルスでライブができてワクワクする」とビリーは作品のなかでロサンゼルスへの思いを語っている。「今の私を作った街なのに、価値に気づいていなかった。大人になるにつれて、ロサンゼルスへの愛が増した。この街で子供時代を過ごし、人として成長できた。LAが私を育てた」。

 映画『シン・シティ』シリーズや『スパイ・キッズ』シリーズなどで知られるロバート・ロドリゲスと、『愛犬とごちそう』でアカデミー賞短編アニメーション賞を受賞したパトリック・オズボーンが共同で監督を務める本作は、アニメーションと実写のミックスで描かれており、アニメーションで描かれたビリーが、ポルシェに乗り込むシーンから幕を開ける。そして、実の兄でコラボレーターであるフィニアスと実写のビリーがいるハリウッド・ボウルへと舞台を移し、アルバムの1曲目である「Getting Older」のパフォーマンスからステージはスタートする。

故郷のロサンゼルスにオマージュを捧げたビリー・アイリッシュ

 「Getting Older」には、アルバムやこの映像作品のタイトルにもなっている「happier than ever(今までにないほど幸せ)」というフレーズが登場する。セカンドアルバムをリリースするまでのビリーのキャリアは改めて紹介するまでもないかもしれないが、2019年3月にリリースしたデビューアルバム『ホエン・ウィ・オール・フォール・アスリープ、ホエア・ドゥ・ウィ・ゴー? 』をもって弱冠18歳でグラミー賞の主要4部門全制覇を達成したビリーは、一躍スターの座に登り詰め、世界中から注目されるような存在に。すっかり世界を代表するスターとなったビリーの目には、生まれ育ったエンターテイメントの聖地ロサンゼルスの景色も、180度変わって写るようになったはず。

画像1: 故郷のロサンゼルスにオマージュを捧げたビリー・アイリッシュ

 デビューアルバムの成功で生活が一変したなかでも、「今までにないほど幸せ」と宣言し、日本を含む世界92ヵ国で1位を獲得するなど周囲の高いハードルを見事に乗り越えてみせたのが、セカンドアルバム『ハピアー・ザン・エヴァー』だった。

 『ハピアー・ザン・エヴァー:L.A.へのラブレター』は文字通り、自らが生まれ育ち、今は見え方が変わってしまったかもしれないロサンゼルスへの愛を表現した作品となっている。兄で、唯一の共同制作者であるフィニアスや、世界的音楽家であるグスターボ・ドゥダメルが指揮するロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団の演奏をバックにアルバムの楽曲が披露されるこの作品は、コロナ禍でなかなか来日が実現しづらくなってしまった状況のなかでビリーの最新パフォーマンスを観ることができる貴重な機会であることも間違いないが、ここで観ることができるのはむしろ、1人のビリー・アイリッシュという人間が観客のいない故郷のステージですべてを晒け出した、最も無防備な姿。

画像2: 故郷のロサンゼルスにオマージュを捧げたビリー・アイリッシュ

 アルバム『ハピアー・ザン・エヴァー』で歌われるのは、年齢を重ねること(「Getting Older」)や未来の自分への愛(「My Future」)、どうしようもない人との恋愛(「Lost Cause」)など、等身大のビリーがこれまでに経験してきたこと。ビリーは故郷にあるハリウッド・ボウルのステージで、「Goldwing」では自身が幼少期に所属していた地元のロサンゼルス児童合唱団にオマージュを捧げるなど、アルバムに収録されている全16曲の等身大の楽曲たちを伸び伸びとした様子で順番に披露していく。

自分自身との対話をアニメーションとの融合で表現

 そして、楽曲間に映像が挟み込まれるような形で登場するのが、アニメーションで描かれたもう1人のビリーで、彼女は、見え方が変わってしまったかもしれない故郷の光景を改めて見つめ直すかのように、高級車に乗りながらロサンゼルスの街中を移動していく。ビリーは誰にも邪魔されることなくロサンゼルスの街並みを目に刻んでいくのだが、クライマックスには、パパラッチに囲まれてしまう場面も。

 その後、アニメーションのビリーはパパラッチから逃れるように入ったハリウッド・ボウルで、実写のビリーのパフォーマンスを鑑賞する。2人はライブの終盤で初めて合流するのだが、2人はやっとお互いを見つけられたことに安堵したかのように、微笑みを交わし合う。それはまるで、名声によって周囲からの見られ方が変化したなかでも、ビリーが自分自身を心の底から信頼してここまで突き進んできたことを象徴しているかのよう。

 『ハピアー・ザン・エヴァー:L.A.へのラブレター』で描かれるのは、ハリウッドの超大作で観られるようなフィクションの物語ではない。けれど、ただアルバムの楽曲を高いクオリティで順番に演奏するというだけのライブフィルムでもない。ここで描かれるのは、アルバム『ハピアー・ザン・エヴァー』でも綴られている、ロサンゼルスで生まれ育ったビリー・アイリッシュという女性が、名声を得て、周囲が期待する自分のイメージと本来の自分自身との間で葛藤し、もう一度ロサンゼルスという地で自分を受け入れるようになるまでの物語。故郷であるロサンゼルスへのラブレターとは、ビリーが自分を肯定するために、大人になろうとしている自分自身に向けて綴ったラブレターなのだ。

作品情報
『ハピアー・ザン・エヴァー:L.A.へのラブレター』
ディズニープラス(Disney+)にて9月3日より配信中

(フロントロウ編集部)

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