アメリカのアーカンソー州で、トランスジェンダーの若者にホルモン療法などを受けさせないようにする法案が問題となっている。エリオット・ペイジやリリー・ウォシャウスキー監督らが意見を提出した。(フロントロウ編集部)

トランスジェンダーの若者にヘルスケアを受けさせない法案

 アメリカのアーカンソー州でトランスジェンダーの若者にホルモン療法などのヘルスケアサービスを受けさせることを禁止する法案が可決され、それに対して裁判が起こっている。

 この法案は2021年3月に可決されたが、これに対してアメリカ自由人権協会が同年8月に裁判を起こし、裁判官によって施行が差し止められた。

 この法案では、医師などがトランスジェンダーの若者にホルモン療法などを施すことを禁止する。「puberty blocker」と呼ばれるこのホルモン療法は、思春期に訪れる身体的な変化(二次性徴)を一時的に止めるもので、月経が来ることや、声が低くなること、胸が大きくなることなどを止めることができ、薬を飲むのをやめれば二次性徴が訪れる。

 トランスジェンダーの若者の自殺率が問題になるなか、2020年のハーバード大学医学大学院の研究では、puberty blockerを使った療法を行なった若者の自殺願望は行なわなかった若者に比べて著しく低かったことがわかっている。そのため、トランスジェンダーの子供を持つ親の間では、手術という大きな決断を先延ばししたうえで、子供のメンタルヘルスを守る方法として、選択肢のひとつとされている

 法案を提出した1人である下院議員のロビン・ランドストラム氏は、「大人になってから、トランスジェンダーであることを選ぶ人もいます。それはオーケーです。それはその人たちの選択です。しかしそれが18歳以下だった時、まずは成長する必要があるでしょう。それは大きな決断であり、元には戻れないのですから」と、その考えを話した。

 しかし複数の医学会がこの法案に反対を表明しており、アメリカ精神医学会は、ケア方針は政治家が決めるものではないと批判。「(ケアに関する)決定をするのは政治家でなく、患者とその医師らが、ともに、どのようなケアが最適かを決めるべきである」としている。


エリオット・ペイジらが法案に反対意見を表明

 そして先日、裁判のために第三者意見が提出された。そのなかで、俳優のエリオット・ペイジや映画監督のリリー・ウォシャウスキー、アクティビストのジャズ・ジェニングスらが、自身の経験を語った。

 9歳の頃には自分が男であると感じており、2020年12月にトランスジェンダー男性であることを公表したエリオットは、乳房を切除して胸を平らにする手術であるトップサージェリーを受けた後の経験について、こう述べた。

画像1: エリオット・ペイジらが法案に反対意見を表明

 「(手術によって)どれだけのエネルギーを得たか、自分でも信じられないほどでした。そしてアイディア、想像力がどれだけ沸き上がったか。自分の身体に常にまとわりついていた不快感、そして苦痛がなくなったのですから」

 LGBTQ+の権利のアクティビストであり、YouTuberとしても活躍する21歳のジャズ・ジェニングスは、11歳の頃からホルモン療法を受け、幼少期から女の子として生きることができたことについて、その重要性を話した。

画像2: エリオット・ペイジらが法案に反対意見を表明

 「私は男らしく見えたことがありません。女性のティーンエイジャーとして、仲間とともに育ちました。自分はそうだと分かっていたとおり、女の子として生きることができたから、幸せな幼少期を過ごすことができたのです」

 映画『マトリックス』シリーズなどを手掛け、その後、性別適合手術を受けたリリー・ウォシャウスキー監督。姉のラナ・ウォシャウスキー監督もトランスジェンダー女性であるリリーは、女性として生き始めた後の経験を、こう綴った。

画像3: エリオット・ペイジらが法案に反対意見を表明

 「本当の自分として生き始めた時、歩いている時や自転車に乗っている時に、自分が窓や車に映ることがありました。それは私の心を躍らせることでした。午後の太陽に映し出された自分の影のシルエットはワクワクするもので、人生を肯定してくれるものでした。誰も見ていなくても、太陽は本当の私を見てくれた」

 また、第三者意見に名前は連ねていないが、俳優でトランスジェンダーのラバーン・コックスや、トランスジェンダーの娘を持つ元プロバスケットボール選手のドウェイン・ウェイド、ドラァグクイーンのシモーン、そして俳優のダニエル・レヴィやジャミーラ・ジャミル、コメディアンのデヴィッド・クロスなどは、法案が可決された時に反対を表明している。

 LGBTQ+コミュニティの若者の自殺を防ぐために活動しているNPO団体The Trevor Projectは、13歳から24歳の34,759人のLGBTQ+当事者を調査した結果、ホルモン療法を受けられた若者は、受けられなかった若者よりもうつや自殺を図る可能性が40%も低いと結論づけた。

 同団体のCEOでエグゼクティブディレクターであるアミット・ペイリー氏は、「この国のすべてのトランスジェンダーとノンバイナリーの若者が、肯定的で、患者を中心に置いた、根拠が基になっている医療ケアにアクセスできることが重要です」と指摘。医療ケアについて政治家が決定することを批判している。

(フロントロウ編集部)

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