ニューアルバム『All 4 Nothing』のシングル「26」で悩みを赤裸々に歌うLAUV
「バカバカしくて(Silly)、ややこしくて(Confusing)、愛に溢れてる(Loving)」。自身のスタジオからインタビューに応じてくれたLAUVに、“自分の性格を表す形容詞を3つ挙げるとしたら?”と訊いてみると、即答でそう返ってきた。
現在27歳のLAUVは、彼自身が自己分析するように、「愛に溢れてる」楽曲を書くことができるということにおいてこの世代屈指のソングライターであり、「バカバカしくて、ややこしい」と恥じらうことなく表現するように、自分の弱みとも正面から向き合い、それらも含めて自分の人間らしさだと楽曲を通して表現してきた。
メンタルヘルスの問題についても積極的に発信するなど、自身が抱える悩みや不安を隠すことなくファンとシェアしてきたLAUVは、2022年8月25日にリリースするセカンドアルバム『All 4 Nothing(オール・フォー・ナッシング)』からのファーストシングル「26」でも、若くして名声を得たことに葛藤していた26歳当時の心境を、赤裸々な歌詞に落とし込んでいる。「ああ、カネで幸せは買える/でも、ああ、時間は買えない/年を取れば取るほど シラフに戻るのが嫌になる」「こんなこと思いたくないけど もっと若かったらいいのに/ああ、26歳で金持ちさ/どうしてこんなことになったんだ?」
自分の心情をエモーショナルな楽曲へと昇華させて、聴く人たちの感情に訴えるような楽曲の数々を世に送り出してきたLAUVは、シンガーソングライターとしてのその確かな手腕で、ファンのみならず、BTSやLANY、アン・マリーといった同世代のアーティストたちからも支持を集めてきた。
今回、フロントロウ編集部ではLAUVが来たる新作からのタイトルトラック「All 4 Nothing (I’m So In Love)」をリリースしたタイミングで彼にインタビューする機会があったので、彼と同い年であるエディターがインタビューを実施。アルバムや楽曲のことについてはもちろん、今、27歳として抱えている悩みや、メンタルヘルスやソーシャルメディアなどとどのように向き合っているかなどについて訊いた。
LAUVにインタビュー
自分はあなたと同い年なのですが、「26」の歌詞にはすごく共感できる部分があって、特に“お金で時間は買えない”というパートが今の自分には刺さりました。
LAUV「同い年ですか! 『26』は、自分の人生を26歳の地点から振り返ったような曲になっています。この曲は(アルバムの)大きな出発点となって、残りの曲たちにとっての前奏曲のようなものになりました。自分の人生を外側から見ることはできても、内側から見ることができない。そして内面では、大丈夫じゃないと感じている。内面から調子を整えて、大丈夫だと感じられるようにするにはどうすればいい? という、そういう曲になっています」
この楽曲では、26歳までに手にした成功や名声と葛藤する思いが歌われています。多くのヒット曲を生み出してきたあなたですが、初めて成功を実感した瞬間はいつだったのでしょう?
「自分の人生が最も大きく変わった瞬間の一つは、(2017年に)エド・シーランが一緒にツアーを回ろうと誘ってくれた時でしょうね。あれは最高でした。自分が尊敬していた人が、一緒にツアーを回ろうと言ってくれたわけです。特に当時は、それがすごく大きな意味を持っていました。あれは人生が大きく変わった最初の瞬間の一つとだと言えると思います」
日本には英語を基にしたオリジナルの言葉がたくさんあるのですが、その中の一つに、「around thirty years old」を略した「アラサー」という言葉があって。
「へえ、そうなんですね!」
そういう言葉があることが象徴しているのですが、私たちは30歳を一つの節目として意識しがちで、プライベートであれ仕事であれ、30歳までに何を成し遂げたいかということを漠然とでも目標として設定して、これは自分も含めてなのですが、それがプレッシャーになってしまっているという人も多いです。27歳のご自身としては、そのような“アラサー”的なプレッシャーを感じていますか?
「間違いなく意識していますね。僕は自分自身に、取り組んできた方向に進み続けるように多くのプレッシャーをかけてきました。正直、僕がこのような道を進んできたことで、かなりのストレスになっていたところはありましたね。30歳になるまでには、人生におけるバランスを取れるようにしたいです。もっと成功して、充実させて、音楽面でワクワクするようなこともしたいですが、同時に、仕事以外のところでも人生を楽しみたいです。というのも、僕はしばらくの間、自分に仕事以外のことをさせてあげてこなかったので。ずっと、音楽、音楽、音楽って感じでしたから。なので、今は『バランス』を大切にしたいですね」
私たちの世代はメンタルヘルスについてオープンなことも特徴だと思っていて、ご自身を筆頭に、あなたがこれまでにコラボしてきたBTSやコナン・グレイ、アン・マリー、トロイ・シヴァンといった同世代や若い世代のアーティストたちは、これまでの世代に比べてメンタルヘルスの話題にオープンなように自分は感じています。世代間の違いはどこにあると思いますか?
「人類として、すべての世代において新しい気づきというものがあると思っています。おかしな感じに聞こえてしまうかもしれないのですが、テクノロジーの進歩や文明の進歩があって、何かしらの点で、常に前の世代よりも前進していることがあると僕は思っています。個人的にはと言うと、自分が実際に抱えるまで、メンタルヘルスの問題があることに気がついていませんでした。周りの人たちから、『君はこういう問題を抱えているかもしれないよ。セラピストに診てもらったほうがいい』ということを言われたんです。実際はセラピストには既に診てもらっていたので、『精神科医に診てもらったら?』とも言われましたけど。その時に、(メンタルヘルスが不調をきたすと)どう変わるんだろうと知りたくなりました。『みんな“不安”っていうけど、それってどういう意味だろう?』『憂鬱ってどういう意味だろう?』『それってどういうもので、どういう変化が起きるの?』って。少なくとも、今は以前よりもそういう(メンタルヘルスについての)会話は広くされるようになってきていて、自分もその一部になれていることを嬉しく思っています。自分自身こそ、自分にとっての最悪の敵になり得るわけですからね」
ソーシャルメディアもこの世代における問題の温床の1つですよね。あなたは「Drugs & The Internet」やコナン・グレイとの「Fake」でソーシャルメディアの問題点について歌ってきましたが、今はソーシャルメディアとはどのように向き合っていますか?
「今はただ楽しむようにしています。純粋に使いたいと感じる時に、あまり考えすぎずに、みんなの投稿にリプライするために使っているという感じですね。使いたくないという気持ちの時に、無理してまで使い続けるということはしていません」
ここからは、ニューアルバム『All 4 Nothing』について訊かせてください。セカンドシングル「All 4 Nothing (I’m So In Love)」は、「26」からは一転して、こちらは比較的ポジティブなラブソングになっています。
「「All 4 Nothing (I’m So In Love)」は、コーラスで歌われているように、『失ってしまったらどうしよう?』『失ったらどうなるのだろう?』という意味合いを持ったラブソングになっています。実はこの曲はガールフレンドと一緒に書いたのですが、書きながら、『どうしよう。僕はすごく恋しているし、最高の気分だ。人生がすごく好転している』と感じたのを覚えています。こんなにも気分が良かったのは久しぶりで、僕はそれを終わらせたくなかったし、失いたくなかった。事実、個人的にもそういう感情はものすごく貴重なもので。キャリアがクレイジーなものになっていくにつれて、僕の中での不安は大きくなっていき、ずっと不安を抱えるようになったことで、恋をすることが難しくなっていたんです。それもあって、そうしたことを乗り越えさせてくれて、不安や恐れを抱えている時にも一緒にいてくれて、ずっと愛し続けてくれるような人を見つけられたことを、本当に嬉しく思っています」
「All 4 Nothing (I’m So In Love)」はアルバム全体の雰囲気や感情を表現しているようなものになっているのでしょうか?
「この曲は、アルバムを通してこのページに何度も立ち返るような、心強いブックマークのような曲になっていると思います。このアルバムで表現されているのは、多くのアップダウンや浮き沈み、光と闇、恋心と失恋への恐怖という、相反するものたちです。人生において路頭に迷い、幼少期に戻りたいと願いながらも、自分の中に光を見つけようとする。アルバムの流れとしてはそういうものになっています」
アルバムにも、「全部無駄になってしまう」を意味する同じタイトル『All 4 Nothing』が付けられていますが、このタイトルにした理由はなぜでしょう?
「最も適したタイトルだと思ったからです。実を言うと、他にも候補はたくさんあったのですが、全体的な雰囲気を最も表していたのがこのタイトルだったので。このタイトルを付けて、それぞれの楽曲を聴いてみた時に、様々な点で繋がっているように感じました。もちろん、シングルの「All 4 Nothing (I’m So In Love)」がアルバムにおいて重要な役割を担っているというのもあります」
アルバム『All 4 Nothing』は、新型コロナウイルスによるパンデミックが起きてから書き始めたものとのことですが、パンデミックはご自身の生活やメンタルヘルスにどのような影響がありましたか?
「いつも以上に、考え過ぎてしまうようになりましたね。頭の中に少しだけ自己破壊的な考えも浮かぶようになりました。そうした中でも、多くの音楽を作ることができたのには感謝しています。時間がたっぷりあったので、色々と探求して、荷物を下ろして自分自身に追いつくことができました。パンデミック前までは、常に1時間に100万マイル進み続けていたような感覚だったので。楽しい時間ではありましたが、同時に、内面に葛藤も抱えることにもなって、多くの不安を抱えていました。なので、ありがたいことに必要としていた時間が手に入ることになり、腰を据えて自分と向き合って感情を表に出すことができて、結果としてこのアルバムにつながりました」
ちなみに、人生において大切にしている座右の銘はありますか?
「最近は、『自分がどこへ行こうと、自分は自分』という言葉ですね。なぜこの言葉が好きかというと、人はしばしば、自分以外の場所に答えや解決策を求め、『これをすれば解決する』と考えがちですが、それは間違いで、『自分がどこへ行こうと、自分は自分』なんです。自分が問題を抱えた時にこの言葉を思い出すと励みになります。自分の感情には自分で対処できるから、逃避する必要はないって思えるんです」
先日、『All 4 Nothing』のツアーを発表されていましたが、日本での公演も発表されることを願っています!
「もちろんです! さらなるツアー日程もこれから発表されます。まだ、最初の日程の一部が発表された段階なので。全員にとってツアーに戻ることが難しい状況ではありましたが、僕はツアーを心待ちにしていますし、日本も含めて、もっと多くの場所に行けることを楽しみにしています」
これまでに二度、来日公演を行なっていますが、日本で印象に残っている思い出はありますか?
「歩き回ったことが思い出ですね。大阪や名古屋にも行きましたが、東京には何度か行ったので、特に東京での思い出が印象に残っています。初めて東京に行った時に、ビルやバー、レストランに魅了されたのは今でも覚えていますね。すごくシンプルに聞こえてしまうかもしれませんが、すべてに圧倒されました。すごくキュートだと思いましたし、活気に満ちていました。すごくクールでしたね」
ところで、2019年にインタビューさせていただいた時に、コールドプレイのクリス・マーティンとコラボしてみたいとおっしゃっていました。今もクリスはあなたにとってのアイドルですか?
「もちろんです。自分にとってはタイムレスな存在で、今なお僕の心の中で大きな存在ですよ」
今、改めてコラボしてみたい人を挙げるとしたら、他に誰を思い浮かべますか?
「難しい質問ですね。コールドプレイ(とのコラボに)に賭けたいと思います」
インタビューの最後の質問として、メンタルヘルスの問題について積極的に発信してきたアーティストの1人であるLAUVに、「自分に自信が持てず悩みを抱えている人へのアドバイスをお願いできますか?」と訊いてみると、こうメッセージを送ってくれた。
「まず最初に、僕は自己嫌悪の感情がどのようなものなのか知っています。だから、あなたには、『僕は自己嫌悪がどんなものか知っているし、それで大丈夫だよ』ということを伝えたい。立ち向かおうとすると、余計に悪化してしまうということを僕は学びました。感情と友達になろうとしてみてください。疑念と友達になって、腰を据えて向き合ったことで、僕は救われました。自分の人生を見つめ直したことで、そうした疑念は間違いだということに気がつきました。だから、そうしたものに立ち向かって戦争を起こそうとするのではなく、『大丈夫。気にしていいよ』と伝えてあげること。そういう疑念を持っている自分の頭の中で、『それでいい。このまま共存して、どうなるか見てみよう』と伝えてあげるんです。とにかく、自分に自信が持てなくても、あなたは1人じゃない。それは僕が保証します」
<リリース情報>
LAUV
ニュー・アルバム『All 4 Nothing』
2022年8月5日リリース予定
シングル「26」「All 4 Nothing」
配信中
(フロントロウ編集部)