シングル「Heat Waves」が5週連続で全米シングルチャートの首位を獲得し、イギリスのグループとしては実に29年ぶりの快挙を達成したグラス・アニマルズにインタビュー。フロントマンのデイヴ・ベイリーに、大ブレイクを受けての心境や、偶然にもこの楽曲のデモを最初に聴くことになったという俳優ジョニー・デップとの秘話について話を訊いた。(フロントロウ編集部)

「Heat Waves」が英バンドとして歴史的なヒットとなっているグラス・アニマルズ

 デイヴ・ベイリー率いるイギリス出身のバンドであるグラス・アニマルズが2020年6月にリリースしたシングル「Heat Waves」の勢いが、留まるところを知らない。

画像: (左から)ドラマーのジョー・シーワード、フロントマンのデイヴ・ベイリー、ギターのドリュー・マクファーレン、ベースのエドモンド・アーウィン・シンガーからなるグラス・アニマルズ。

(左から)ドラマーのジョー・シーワード、フロントマンのデイヴ・ベイリー、ギターのドリュー・マクファーレン、ベースのエドモンド・アーウィン・シンガーからなるグラス・アニマルズ。

 サードアルバム『Dreamland(ドリームランド)』からのシングルである「Heat Waves」は、TikTokでバイラルになったことなども手伝って、全米シングルチャートに初ランクインしてから59週目に初めて1位を獲得し、“史上最も時間をかけて”全米1位を獲得した楽曲になると、その後、5週にわたって首位をキープ。これは、イギリス出身のグループとしては、1993年にUB40が「好きにならずにいられない(原題:Can't Help Falling In Love)」で記録して以来、29年ぶりの快挙となった。

 イギリスのグループとして歴史的な記録を樹立したグラス・アニマルズだが、ここに至るまでの道のりは決して平坦ではなかった。2019年には、セカンドアルバム『How to Be a Human Being(ハウ・トゥ・ビー・ア・ヒューマン・ビーイング)』を引っ下げたツアーを行なっていた最中には、ドラマーのジョー・シーワードがバイク事故に遭い、最終的には一命を取り留めたものの、彼が生死を彷徨うほどの怪我を負ったことで、一時はバンドの存続の危機に陥ったこともあった。

 「ときどき 君のことばかり考えてしまう/六月中旬の夜更け/熱波に惑わされて/これ以上君を幸せにはできない」と歌われる「Heat Waves」をはじめ、2020年8月にリリースした4年ぶり通算3作目のアルバム『Dreamland』には、ジョーがバイク事故に遭った時に感じたことを含め、バンドが存続危機に陥ったなかでデイヴが抱くことになった心境が反映されている。

 今回、フロントロウではバンドのフロントマンにして、「Heat Waves」の作詞作曲を手がけたデイヴ・ベイリーにインタビューを実施。自宅のスタジオから、映画『トイ・ストーリー』シリーズにちなんで名前がつけられたという愛犬ウッディと一緒に取材に応じてくれたデイヴに、大ヒットを受けての心境や、偶然にもこの楽曲のデモを初めて聴いた人物となった俳優ジョニー・デップとの笑えるエピソード、そして、まだ来日公演が実現したことのない日本への思いなどについて訊いた。

グラス・アニマルズのデイヴ・ベイリーにインタビュー

画像: グラス・アニマルズのデイヴ・ベイリーにインタビュー

まずは、「Heat Waves」での5週連続での全米1位獲得おめでとうございます! 2年前にリリースした楽曲が今年に入ってから全米1位を獲得したわけですが、このヒットをどう受け止めていますか?

「すごくサプライズでしたし、とても嬉しく思っています。どうしてこうなったか、自分なりに考えては見たものの、まだその理由はハッキリとは分からないのですが。この曲では、誰かを恋しく思うことについて歌っています。愛する人や大切な人を恋しく思うことについての曲で、その人たちのことを恋しく思うことを肯定するような、愛する人を恋しく思うことを楽観視する曲になっています。世界各地でロックダウンになって、移動できなかったり、大切な人や愛する人たちに会うことができなかったりという状況に置かれたことで、偶然、誰もがこの曲の歌詞で描かれている感情を経験したことがある、というような状況になったのではないかと思っていますね」

「Heat Waves」のデモを初めて聴いたのはジョニー・デップだったそうですが、この曲を聴いた時のジョニーの反応はどんなものだったのでしょう?

「彼は確か、ノー・リアクションだった気がします(笑)。ある日の深夜に、僕が1人で大音量で曲を流していた時があって。スタジオが3つくらい入っている建物で作業していたんですが、深夜だったので自分しかいないと思い込んで、大音量で作業していたんです。というのも、僕はみんなが家に帰った後で、周囲に誰もいないような環境で1人で作業するのが好きなので。その夜も大音量で作業していたのですが、楽曲を仕上げたところで、後ろから音がしたんです。僕としては、『え、何!?』と思って、後ろのほうを見てみると、ハットを被った長髪の男性が後ろ向きに立っていたんです。『どちら様ですか?』って訊いたら、その男性が『ジョンです』と言って、こちらのほうを向きました。それで僕は、『マジかよ、ジョニー・デップだ』ってなって。『そうですか。何をしにこちらへ?』と訊いたら、道に迷ったと言うんです。トイレに行こうとして、間違ってその部屋に入ってきてしまったみたいで。彼は上の階で他のアーティストと作業していたところらしいのですが、道に迷ったと言っていました。彼とは2〜3分、会話をしましたね。『トイレをお探しなんですか?』と訊いて、それで、探していると言っていたので、彼をトイレまで案内しました。そういうシンプルなエピソードですよ。曲については何も言ってくれなかった気がします(笑)」

テイラー・スウィフトについてはいかがでしょう? この曲はTikTokでもバイラルになって、テイラーもこの曲を使った動画をアップしていました。テイラーの投稿はご覧になりましたか? また、テイラーには連絡を取るなどしたのでしょうか?

「人から見せてもらって、動画は観ましたよ! でも、彼女にコンタクトは取っていないですね。僕はシャイなので(笑)。シャイすぎて、誰かにコンタクトを取るのが苦手なんです。今、僕がいるのは自分のスタジオからあなたと話しているのですが、僕はこのスタジオで作業ばかりしているような人間なので。テイラーの大ファンですし、とても嬉しい瞬間になったことは確かです。ロックダウンという状況になって、音楽に対する人々のリアクションを感じるのが難しくなっていましたから。いつもであれば、ライブで曲を演奏して、良い反応であれ悪い反応であれ、オーディエンスのリアクションを見ることができますけど、パンデミックのせいでそれができなくなっていました。それもあって、この1年、自分が尊敬している(テイラーのような)人たちを含め、みんなが自分たちの音楽を使ったり楽しんだりしてくれているのを見られたのは、自分たちにとって大きな意味がありましたね。そういうわけで、どうもありがとう、テイラー!」

この曲やアルバム『Dreamland』は、ドラマーであるジョー・シーワードのバイク事故をきっかけに書いた楽曲だそうですね。

「その通りです。ジョーの事故がきっかけとなって、僕らはこのアルバム作りのプロセスに取り掛かり始めました。というのも、僕らがセカンドアルバム(『How to Be a Human Being』)のツアーをしていた真っ只中にあの事故が起きて、僕らはツアーをキャンセルし、彼を看病することになりました。僕自身も多くの時間を病院の椅子の上で過ごして、ただただ、報せを待っていました。というのも、彼が生存できるのかどうかすら、不確かでしたから。彼が完治して、またドラムを叩くことができるのか、そして、僕らがこれからもバンドを続けられるのかすら分からない状況でした。実を言うと、僕自身は彼が助からないんじゃないかと思っていました。僕は医学部の出身なのですが、脳や神経科学が特に好きな分野だったので、彼が患ったような脳の損傷は、回復が難しいものだということを知っていたんです。実際、ほとんどの人は回復できません。そうした状況下で、見事に手術は成功して、今では奇跡的なまでに彼は元気になりました」

画像1: テイラー・スウィフトについてはいかがでしょう? この曲はTikTokでもバイラルになって、テイラーもこの曲を使った動画をアップしていました。テイラーの投稿はご覧になりましたか? また、テイラーには連絡を取るなどしたのでしょうか?

「ただ、病院にいた時はと言うと、病院というのはものすごく奇妙な場所で、過去のことに考えを巡らせてしまうんです。それにはいくつかの理由があって、ちょっと暗い話になってしまうかもしれませんが、死に直面して、自分が愛するあらゆることについて思いを巡らせる中で、病院では、普段は考えもしないような形で過去のことを考えてしまいます。これまでの人生で自分が心から気にかけてきたような物事や人々についての思いが、今回のアルバムに影響を与えました。それから、病院にずっと滞在して、外出しないという状況は、ロックダウンのようでもありましたね。ただ建物の中でじっと、どんなものになるか分からない未来を待ち続けるんです。まさに、僕らの誰しもがここ数年、未来がどんななるか分からないまま過ごしてきたのと同じように。何もかもが不透明で、そうなると、新しい思い出も作れませんし、友人に会うこともできなくなります。それで、過去を生きることを余儀なくされるんです。僕自身も当時は過去に生きていたような状況で、あらゆる思い出や、自分が大切にしてきたことへの思いがこのアルバムには詰まっています。『Heat Waves』についても、自分が愛し、過去に恋しく思った相手についての曲ですしね」

バンドとして、パンデミックによってツアーができないという状況や、ジョーというドラマーの入院はどのような影響がありましたか?

「すごく辛かったですよ。僕らはライブ・バンドでしたから。アルバムをリリースしたらライブをたくさんやるというのが、僕らのやり方でした。そうやって生き延びてきました。アルバムをリリースしたら、(ライブをすることで)それを意味のあるものにして、アルバムに文脈を与えてきました。繰り返しになってしまいますが、ライブがなければ、僕らは生き延びられないんじゃないかとまで思っていました。僕らにとっての収入源でしたからね。それがなくなってしまって、『Dreamland』のプロモーションも白紙になりました。実は、巨大なプロモーションの計画があって、コロラド州にあるレッド・ロックス野外劇場という、僕が今まで観てきた中で最も美しいライブ会場で最初のショーを行なって、友人たちも呼んでアルバムをローンチしようと計画していました。なので、このアルバムについてもライブを行なおうと考えていたのですが、その計画は破れてしまいました。すごく怖かったですね。本当に恐ろしくて、まるで自分たちの足元から足を引っ張られているような気分でした。僕自身、すごく困惑していましたよ。というのも、アルバムというのは自分にとって子供のような存在で、子供には出来る限り最高の人生を歩んでほしいと願うものですからね。僕としては、ライブなしにはそれが実現しないのではないかと思っていました」

「なので、(ライブができなくなってから)2週間は悲しみに沈みましたが、その後で、他にも方法はあるということに気づくことができました。今の時代、インターネットを使えるわけです。その点は非常に幸運だと思いました。なので僕たちは、インターネットを使ってできる限りのことをすることにして、ライブでできるような交流をできる空間を創り出すことにしました。アルバムに使用しているすべてのサウンドを無料で公開したんです。みんなにダウンロードしてもらって、リミックスするなり好きに使ってもらうために、ボーカルラインをはじめ、あらゆるサウンドをアップしました。アートワークに関してもそうです。グラフィックのデザインから、フォトショップのファイル、レイヤーに至るまですべて公開しました。実はこのアートワークは3Dで作ったものになっていて、僕の自宅にあった物や、僕の頭部を3Dスキャナーでスキャンしたものになっています。それでも遊んでもらえたらと思って、3Dのファイルもすべてウェブサイトにアップしました。それから、オンラインでバーチャル・ライブもやりましたし、あらゆることをやりましたよ。Zoomを使ったショーもやりましたしね。今、こうやってあなたとお話しているように、Zoomでミート&グリートもしました。ライブと同じような交流ができるように、僕たちはあらゆる手を尽くしました」

今やグラミー賞で新人賞にノミネートされて、全米シングルチャートで1位も獲得しました。グラス・アニマルズとしての今後の目標はどんなものになるでしょう?

「目標はずっと変わらないですよ。今のような状況は興味深くて、今までにはなかったような新鮮で真新しい状況ではありますけど。願わくば、この状況をもう一度起こしたいですね。これからも音楽を作り続けられることに胸が躍っていますし、今後控えているコラボレーションも楽しみです。実はちょうど、ザ・ストロークスのアルバート(・ハモンド・ジュニア)とコラボしたところなんです。最高でしたよ。僕はザ・ストロークスの大ファンで、実はまだ16歳か17歳だった頃にやったグラス・アニマルズとしての最初のショーでは、ザ・ストロークスの楽曲をカバーしたほどで。なので、そんな人に僕らの楽曲に参加してもらえたことは、この上ない名誉でした。それから、今後リリースされるフローレンス・アンド・ザ・マシーンのニューアルバムでも、僕が何曲かフローレンスと書いています。彼女は素晴らしいですよ。そのうちのいくつかの楽曲はもうリリースされています。そういうわけで、たくさんのリリースが控えていますよ」

デイヴはフローレンス・アンド・ザ・マシーンが5月13日にリリースするニューアルバム『Dance Fever』で「My Love」などをフロントウーマンであるフローレンス・ウェルチと共作している。

まだグラス・アニマルズとして来日公演を行なったことはありませんが、日本に来てしてみたいことや、見てみたい場所はありますか?

「僕は食べ物の大ファンなんです。お気に入り度を表すピラミッドがあるとしたら、トップに音楽があって、そのすぐ下に食べ物がランクインするくらい。それから、ここにいる犬も大好きですけど。なので、日本ではたくさんの食べ物を食べて、たくさんの人たちに会いたいですね。それが僕の目標です。誰かに会うのも好きですし、日本食は僕のお気に入りなんです。日本で日本食を食べたことはありませんが、それでも日本食は僕のお気に入りなので、日本で食べたら一層好きになるんだろうなと思っています。なので、もしおすすめのお店などあったら、ぜひ僕に教えてください! 間違いなく、僕はまるまる太って日本を出国することになるでしょうね」

日本のファンにメッセージをお願いします!

「バンドを結成してから今まで、もう何年になったかは分かりませんが、その間ずっとサポートしてくれていたことに感謝しています。まだ日本でライブをしたことが無いだなんて、信じられないくらいです。日本は僕の行きたい国リストのトップにあります。日本に行くことができたら、それはもう素晴らしい体験になるだろうなと確信しています。たくさん食べて、大いに楽しむつもりです。日本に行ったら、もう日本から出て行かないつもりです!」

<リリース情報>
グラス・アニマルズ
『ドリームランド』
配信中

画像2: テイラー・スウィフトについてはいかがでしょう? この曲はTikTokでもバイラルになって、テイラーもこの曲を使った動画をアップしていました。テイラーの投稿はご覧になりましたか? また、テイラーには連絡を取るなどしたのでしょうか?

(フロントロウ編集部)

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