『パージ』『ゲット・アウト』『アス』など、現代ホラー界にカルト的な人気作を送り出し続けている制作会社「ブラムハウス・プロダクションズ」のジェイソン・ブラムが、フロントロウ編集部のインタビューに登場。セールスマンをして映画予算を捻出していた過去、制作費の集め方、アイディアの見つけ方、ホラーの定義、さらには『死霊館』をプロデュースしたかったという本音まで、多くを語ってくれた。最新作『ブラック・フォン』では、スティーヴン・キングの息子ジョー・ヒルの短編『黒電話』を原作に、イーサン・ホークという悪役を置き、『ドクター・ストレンジ』のスコット・デリクソン監督と再タッグを組む。

映画『ブラック・フォン』とは
子どもの連続誘拐事件が起きている町で、新たにフィニーという少年が失踪する。地下室に閉じ込められたフィニー。すると、壁にかけられた断線しているはずの黒電話が鳴る。電話の向こうで語り始めたのは死者だった。フィニーは部屋から抜け出すために、死者からの電話に出なければならないー。

『ブラック・フォン』のスコット・デリクソン監督から作品についてプレゼンを受けたあと、“イエス”という返事をする代わりに、ショーケースに入れた黒電話を贈ってオファーを受けたそうですね。ブラムハウスではよくこういうジェスチャーをするのですか?

ブラム氏:ブラムハウスでは楽しくやることは心がけていますよ。スコットと私は友達なので頻繁に会っているのですが、2012年にスコットと『フッテージ』を完成させた後からずっと『次は何をやるんだい?次は何?次は?』と聞き続けてきました。その間に彼はマーベルやらなんやらで仕事をするようになり、10年後ついに彼から電話がかかってきて、『低予算のホラー映画があるんだけど』と言われたのです。私は『この連絡を10年間待っていたよ』と言いました。だから、今回の場合は彼に黒電話を贈るだけの価値がある瞬間だと思ったんです。

『ブラック・フォン』のスコット・デリクソン監督は、ホラーは私たちが恐怖を感じるものや邪悪なものと向き合う「非拒否のジャンル」だとおっしゃっています。ブラムさんはホラーをどのように定義しますか?

ブラム氏:私にとってホラーは、怖いものや邪悪なものがテーマのジャンルであるのはもちろんのこと、興奮できるストーリーテリングがあるからから観客を惹きつけるジャンルだと思っています。アドレナリンを放出させてくれる。他のジャンルにはない、直感的な感情移入ができるのです。

キャリア初の映画『Kicking and Screaming』では、制作費を捻出するためにドアからドアへとケーブルテレビを売り歩くセールスマンをされたそうですね。この話についてお伺いできますか? また、今では著名なプロデューサーとなられたわけですが、一方で作品の規模が大きくなっています。予算集めは当時と今ではどちらの方が大変ですか?

ブラム氏:そう、当時はケーブルテレビの営業をしていたのです。その後は、不動産屋として働きながら、Aero Entertainmentという小さな会社に勤めていました。ノア・バームバック(※『マリッジ・ストーリー』監督)は大学時代のルームメイトだったのですが、『Kicking and Screaming』は彼が監督と脚本家を務め、今はもう存在しないTrimarkという会社が出資して制作されました。彼とはこの映画で一緒に仕事をして、映画やテレビ番組のための資金を調達したのです。

予算集めに関しては、昔の方が大変だったとは言え、今でも大変な仕事です。人にお金をせびりに行くのは、あまり面白いことではありませんからね。この仕事の一番好きではないところと言っても過言ではないかもしれません。実際、私が低予算で映画を作る理由の1つは、誰でもイエスと言うくらいの額にしたいからです。そうすれば、人にお金をせびるような退屈で屈辱的なことはしなくて済むから。まあ、そうとは言え、私が毎日のようにやらなきゃいけない仕事なのですがね。

ちなみに映画は非常に低予算で作っていますが、テレビ番組の制作は、さまざまな理由から、もっと一般的な予算で作られています。テレビの予算には、映画の予算のような、上からのプレッシャーはあまりありません。一方で映画の方は予算を得るのが難しくないように、本当に安い価格で作るようにしています。

『死霊館』をご自身でプロデュースしたかったと以前おっしゃっていましたが、あのフランチャイズの魅力はどのようなところにあるとお考えですか?

ブラム氏:『死霊館』はプロデュースしたかったですね! 我々が作った『インシディアス』フランチャイズの1作目と2作目でジェームズ・ワンが監督を務めたのですが、彼はその後、『死霊館』の監督に抜擢されました。私にあの作品を制作する機会はありませんでしたが、ぜひやりたかったと思っています。私は『死霊館』のオリジナルが大好きで、続編も良いと思っています。いろいろな映画につながりましたし。

私がこのシリーズを気に入っている理由は、ブラムハウスらしさを持っていると強く感じているからです。我々の作品よりは少し予算規模は大きいですが、2人の素晴らしい俳優と、素晴らしくてドラマチックなストーリーがある。そして、超自然的なホラー映画の中インディー作品風のドラマが組み込まれている。これは、私が大好きな手法であり、ブラムハウスでつねに心がけていることでもあります。

あと、この映画は興行的に大成功を収めたのでそれを羨ましく思っています(笑)。

いつもどのように新しい映画のアイディアを得ているのですか?

ブラム氏:私の仕事はアイディアを思いつくことではなく、良いアイディアを見つけることです。実話であることが多いですが、記事や雑誌、本などを網羅して、その中にあるホラーを番組や映画にしようとします。ポッドキャストや記事、本など、他の形で提供されているストーリーを映画化することが多いですね。

もちろん、オリジナルのアイデアを出すこともあります。ブラムハウスが手がける映画のおよそ半分はオリジナルのアイディアによるものです。今回の『ブラック・フォン』や1月に米公開される『M3GAN』というジェームズ・ワンと共同で制作した映画もそうです。

良いアイディアを“見つける”作業において、大事な要素はどこでしょう?

ブラム氏:私にとって最も重要な要素は、誰がその映画を監督するかということです。だから、もし他の人が『ブラック・フォン』の脚本を送ってきたとしても、私はやっていなかったでしょう。でも、私はスコット・デリクソンを信じています。だから、私にとって最も重要な要素は監督なのです。

では、物語はどうですか? 例えばスコット・デリクソン監督が送ってきた『ブラック・フォン』の脚本が最高のものではなかったらどうしていましたか?

ブラム氏:正直に言うと、『ブラック・フォン』は脚本の段階では素晴らしいとは思いませんでした。良かったですが素晴らしくはなかった。脚本を他の人が書いていたら、あまり良い映画にはならなかったと思います。だって考えてみてください。映画の半分は少年が部屋に閉じ込められていて、死んだ子どもと電話で話し、体格差が4倍もある男と闘うんです。今の私のプレゼンを聞いても、良質なコンセプトには聞こえないですよね。

例えば『パージ』はどんな監督でも作ることができます。コンセプトそのものが良質な映画だからです。夜7時から朝7時までの12時間に犯罪が合法化されるからクレイジーなことが起こる。とてもわかりやすい。『ブラック・フォン』にはそのようなハイコンセプトはない。もちろん(原作は)良い短編小説だと思います。しかし、もし私があの短編小説を読んでいたら、これは素晴らしい映画になるとは言わなかったでしょう。でも、スコットだからこそ、あの短編小説が素晴らしい映画になったのです。

『ブラック・フォン』は子どもたちが主役の映画ですが、子どもたちの勇気や強さを描きたいという監督の思いについてはどう思われましたか?

ブラム氏:スコットはこの映画を作るにあたり、パーソナルな経験から多くのインスピレーションを得たようでした。スコットはつらい子供時代を過ごした(※)ようですが、彼はとてもタフで、逆境から立ち直れる男です。それが、映画のインスピレーションの源のひとつになったのだと思います。この作品は、子供たちが悪い世界から自分たちを救う物語です。映画で描かれているほどではありませんが、この話はスコットの経験でもあるように思えました。

※スコット・デリクソン監督が育った地域は暴力的なイジメが多かったという。さらに監督が子どもだった頃は、メディアで少年の誘拐殺人事件が多く報じられ、有名な連続殺人犯が多く登場した時代でもあった。

メインキャストのメイソン・テムズとマデリーン・マックグロウは素晴らしい演技を見せましたが、彼らについてどう思われましたか?

ブラム氏:ブラムハウスでは『パラノーマル・アクティビティ』の2作目の時からテリー・テイラーという女性がキャスティングを担当しているんですね。彼女は以前パラマウントで働いていて、私たちがパラマウントから彼女を引き抜きました。私たちのプロダクションに欠かせない存在です。彼女の部署には5人のスタッフがいて、テレビと映画にまたがって仕事をしています。ホラー映画には子供が登場するものがたくさんありますが、彼女は、ハリウッド俳優のような感じがなくて、本物らしさを感じさせる素晴らしい子役を発掘することに長けているんです。この映画の2人も例外ではないと思います。

メイソンとマデリーンと話したときに、2人とも制作を手掛けたいと言っていました。

ブラム氏:2人ともフィルムメーカーになりたいって? ワオ、それはいいことですね。きっとスコットにインスパイアされたんでしょうね。

2人からアイディアをプレゼンされる日がくるかもしれないですね。

ブラム氏:ぜひ待っているよ。

彼らにたくすアドバイスはありますか?

ブラム氏:私はいつもみんなに同じアドバイスをしています。自分の心に近い、自分の経験に近い物語を語れってね。最初の作品は宇宙を舞台にした物語にするのではなく、自分がよく知っていることを題材にして、驚くほど安価に作れるものにすると良いでしょう。理想はスマホで作ること。延々とどうやるか話すのではなく、作ってしまうことです。そして、安価にできて、自分のアパートでも撮影できるようなものを作れば、映画として作られる可能性は高くなります。

 ジェイソン・ブラム率いるブラムハウス・プロダクションズが手掛ける最新作『ブラック・フォン』は7月1日(金)全国公開。

(フロントロウ編集部)

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