アレクサンダー23の日本初ショーケースをレポート
オリヴィア・ロドリゴの大ヒット曲「good 4 u」にソングライターとして参加し、同曲が収録されたオリヴィアの『サワー』で今年のグラミー賞で最優秀アルバム賞にノミネートされたシンガーソングライターのアレクサンダー23が、リリースしたばかりのデビューアルバム『アフターショック』を引っ下げ、日本での初となるショーケースを8月15日に東京で開催した。
開演の少し前に会場に入ると、まず目に飛び込んできたのは、「#Alexander23の深読み」というテーマで7人のインフルエンサーたちによって和訳された歌詞が掲載された、7枚のポスターたち。これは、『アフターショック』の収録曲を中心とした7曲の歌詞を、それぞれのインフルエンサーたちが文字通り“深読み”して、自分たちなりの解釈で和訳したもの。
失恋の後に訪れる感情の起伏を、日本語で地震の“余震”や、“余波”を意味する“アフターショック(Aftershock)”という言葉で表現した『アフターショック』の収録曲たちに象徴されるように、アレクサンダーは自身の感情を詳細に描写するソングライターとして知られている。そして、今回掲示されていた“深読み”のように、リスナーがそれぞれの解釈で言葉を変えてその歌詞を受け取っても、歌詞の本質はまったく失われないことが、アレクサンダー23が綴る歌詞の魅力でもある。アレクサンダー23の楽曲を聴けば誰もが、その歌詞を自分の人生と照らし合わせることができる。会場に掲載されたポスターからは、ソングライターとしての彼のそんな魅力が改めて感じられた。
ショーケースでは5曲をアコースティックで披露したアレクサンダー23
開演時間を迎えると、白いシャツを羽織り、青のパンツと合わせたシンプルな衣装でアレクサンダー23がステージに登場。初めて日本のファンの前に姿を見せた。
今回はショーケースということもあり、バックバンドなどは帯同しておらず、ステージに立つのはギターを持ったアレクサンダーただ1人。「アレクサンダーにじゅうさんです」と日本語で自己紹介して早速ファンの心を掴んだあとで、『アフターショック』に収録されている「Somebody's Nobody」から日本での初パフォーマンスをスタートさせた。
ギター1本でのアコースティック・パフォーマンスなので、アルバムに収録されているバージョンよりもアレンジはシンプルになっているが、その分、「あの頃は僕を大切に想ってくれる人などいなかった/町をさまよっては 一緒に過ごせる相手を探していたんだ/一人で寂しく寝ないで済むように」というフレーズから始まる、寂しさを埋めてくれた元恋人に向けたこの楽曲の歌詞が、より際立ってオーディエンスに届いていたように感じた。
「Somebody's Nobody」を終え、「初めての東京だよ。人生で一番のお気に入りの場所になった。歓迎してくれてありがとう」と感謝を伝えたあとで披露したのは、こちらも『アフターショック』より「Crash」。
この曲は「君が恋しいけれどヨリを戻したいわけじゃない/離れていればうまくいくのに一緒にいると最悪だから」などと歌う、元恋人への複雑な心境を吐き出す1曲だが、すべての楽曲を実体験に基づいて書いているアレクサンダーらしく、「ヨリを戻したいわけじゃない」と自分に言い聞かせるように力強く歌ったり、「衝突間違いなしだったんだ 最悪だよね」という歌詞を強調したりと、自分が綴った感情を丁寧に歌で再現してみせる。
「日本のファンとは何年も(オンラインで)会話はしていたから、ようやくここに来られて嬉しいよ」と語ったアレクサンダーが3曲目に披露したのは、ここ日本でもファンが制作した和訳動画がYouTubeで話題になった、この曲で彼を知った人も多いであろう2019年リリースの名曲「Girl」。この楽曲は日本限定ボーナストラックとして『アフターショック』の日本盤にも収録されているが、2019年から彼を知っていたファンにとっては、ついに実現した日本での初めてのショーケースでこの楽曲がパフォーマンスされたことに、3年越しで込み上げてくる思いもあったはず。
アレクサンダーも初期の頃からのファンの心情を思いやってか、この楽曲のパフォーマンスでさらにアクセルを踏み込んだようにも感じた。オーディエンスの一人一人の顔を見ながら、もちろんここでも歌詞に思いを込めて、力強くパフォーマンスしていたのが印象的だった。
「『アフターショック』をリリースしたんだ」と、デビューアルバムをリリースしたことを改めて報告したアレクサンダーは、若くして亡くなった友人に捧げた「The Hardest Part」をここでパフォーマンス。「もっとちゃんと連絡を取り合うようにしていればよかった/僕らにはもっと時間があると思っていた」と、生前に友人ともっとコミュニケーションを取るべきだったという後悔も口にする1曲であり、ギターを弾くアレクサンダーの右腕にも力が入る。
今回はアコースティックということもあり、ギターを力強く弾いてみせるその演奏はオリジナルバージョンとは異なるものだったが、アレクサンダーにとって、パフォーマンスにおいて最も重要なのは、あくまでも自身のありのままの感情を綴ったその歌詞を伝えるということなのだろう。最後は訴えかけるように、「歳を重ねていく道のりで一番辛いのは/愛する人の中には歳を取らなくなる人もいる」というパートを何度も何度も繰り返していた。
「この曲は特別なんだ。世の中に僕を紹介してくれた曲さ」と話した彼がこの日最後の曲として披露したのは、音楽シーンにその名前を広めるきっかけとなった2020年リリースのヒット曲「IDK You Yet」。「会ったこともない人をどうして恋しく思うのだろう?/君を必要としているのに、僕はまだ君を知らないんだ」と、孤独を憂う自身の代表曲を悲しげな表情を浮かべながらパフォーマンスして、日本での初めてのショーケースを締めくくった。
最後は「ありがとう東京。また会おうね」と、再来日を約束したアレクサンダー。終演後には自らステージを降りて、時間ギリギリまでファンと交流しようとする、ファン思いな等身大の彼の姿を見ることもできた。
日本での初のショーケースとなった今回のステージで披露されたのは全部で5曲。時間にすればあっという間だったかもしれないが、自分が綴った歌詞を大切にして、それをまっすぐに届けようとするシンガーソングライターとしての姿勢をプレゼンテーションするには十分だったし、それは間違いなくオーディエンスに届いていた。もちろん、まだまだ聴きたい曲はたくさんあったので、今は『アフターショック』をリピートで再生してライブの“アフターショック”を堪能しながら、近いうちに来日公演が実現することを願いたい。
<リリース情報>
アレクサンダー23『アフターショック』
発売中
歌詞対訳解説付き / UICS-1389 / 2,750円(税込)
日本盤ボーナス・トラック収録/シリアルナンバー封入
試聴・購入はこちらから。https://umj.lnk.to/Alexander23_AftershockMB
(フロントロウ編集部)