イランをめぐり誤報拡散、ジャスティン・トルドー首相も
今年2022年9月13日、イランで女性のマフサ・アミニさんがヒジャブを正しく着用していなかったとして警察に拘束され、9月16日に急死。警察は彼女が心臓発作を起こしたと主張しているが、実際は警察から暴行されて死亡したという見方をする国民が多く、国中で大規模な抗議デモが起こっている。また各国に住むイラン人や、女性たち、人権を考えるすべての人が連帯し、行動を起こしている。
Unprecedented scenes in Iran: woman sits on top of utility box and cuts her hair in main square in Kerman to protest death of Mahsa Amini after her arrest by the morality police. People clap their hands and chant “Death to the dictator.” #مهسا_امینی pic.twitter.com/2oyuKV80Ac
— Golnaz Esfandiari (@GEsfandiari) September 20, 2022
事件から約2カ月が経った今でも現地では抗議活動が続いており、国民の意志は強い。しかし政府側は弾圧を強めており、NHKによると、12日までに43人の子どもを含む少なくとも326人が治安当局に殺害された。そして先日、デモの参加者1名に、公共の秩序や平和を乱した罪などで死刑判決が言い渡された。被告には上訴する権利がある。
国連は、「UNの専門家はイラン政府に、人々の平和的デモへの参加、もしく参加疑惑に対して死刑判決を出すことを止めるよう呼びかける」と発表しており、懸念が広がっている。
しかし、現在のイランの状況をめぐって誤報も拡散されている。イランが1万5,000人に死刑判決を出したというものは、カナダのジャスティン・トルドー首相や、各国の有名人がシェアしたことで拡散された。しかしこの情報は真実ではない。トルドー首相の事務所は米NBCに対し、「投稿は不完全で必要な情報に欠けた初期報道によって通達されたものでした。そのため、現在は削除されています」とコメントした。
性行為をしたことのない少女への強制結婚・性的暴行
また、性行為をしたことのない女性が死刑になった場合、看守と結婚させられ、性的暴行を受けた後に殺されるという情報も拡散されている。これは、1980年代には実際に起こっていた話だと見られる。
イランで女性の人権のために活動するNCRI Women's Committeeによると、イランの元最高指導者アヤトラ・ホメイニ師の後継者フセイン・アリ・モンタゼリ師が2000年に出版した自伝では、1988年に数万人が殺された虐殺について記されているという。そして彼はそのなかで、イランの反体制武装組織モジャーヘディーネ・ハルグと関係があるとして逮捕されたのは少女が多かったとし、自分は「少女は処刑すべきでない」と主張したが、「しかし私の言葉は悪用され、『少女を処刑するな。まずは一晩結婚させ、そして処刑しろ』と言ったようにされた」と綴ったという。
その理由の1つには、処女では天国に行けてしまうため、処刑前にレイプをして天国に行かせないという、非常におぞましい考えがあるものと見られる。
さらにNCRI Women's Committeeは、「刑務所における性的暴行は少女に対するものだけでなく、10代から年配の女性まで、すべての女性が残忍な扱いを受けていた。看守からレイプされたことにより、多くの女性が正気を失くした」としている。
1987年にはイランの最高指導者の事務局によって運営されているウェブサイトStudents’ Issuesが、性行為をしたことのない少女を強制結婚させ、レイプしているというのは嘘であり、反対勢力からの攻撃だと主張。
しかし人権活動家であり、Justice for Iranの共同創設者であるシャディ・サドル氏は、IranWireの取材に対して、「(政府の)主張はもちろん否定の形でしたが、記録や証拠によって、それらの犯罪が行なわれていたことに疑問の余地はない」と話した。
また、IranWireによると、これまでに政権で様々な役職についてきたマジド・アンサリ氏は、Islamic Republic News Agencyに対して、刑務所内でのレイプは「残念ながら真実」だと認めているという。
Justice for Iranによると、「遺書を書くためにボールペンを渡された囚人のなかには、服や体に自分はレイプされたと書き残す人もいた」という。一方で、当時の政府資料や政治家へのインタビューにアクセスが出来ず、被害者たちは亡くなっているため、証言も得られず、死刑前にレイプされた女性の数を推定するのは不可能だと話した。
これらは80年代に起こった事件についてであるため、現在のイランで同じことが起こっているかどうかは不明。しかし、今回の抗議デモの発端はヒジャブを正しく身につけていなかった女性が警察に逮捕され、命を落としたことであり、そこにはイラン政府や法権力に女性の人権を侵害する考え方がある。その点を考慮すると、刑務所内での性暴力にも懸念は広がる。
そして、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、現地でプロテストに参加し、警察に逮捕された2人の女性から、「棒による殴打、電気ショック、性的暴行、言葉による暴行、恐喝を受けた」と報告を受けていると明かしている。
(フロントロウ編集部)