人工妊娠中絶へのアクセスを制限することが、女性の自殺率を高める可能性があるという研究がアメリカで発表された。(フロントロウ編集部)

中絶へのアクセス制限が女性に与える影響

 アメリカのペンシルベニア大学のチームがJAMA Psychiatryで、人工妊娠中絶へのアクセスを制限することが、女性の自殺率を高める可能性があるとした研究を発表した。

 アメリカでは人工妊娠中絶の安全性を確保するための規則がしっかりと設けられているが、23の州ではTargeted Regulation of Abortion Providers law(通称TRAP)という法律が、中絶提供者に多くの費用や労力が必要とされる規則を課しており、それによって中絶の提供を難しくしている。TRAPを支持する政治家は“女性の健康のため”だと主張しているが、アメリカ自由人権協会や全米家族計画連盟、米国医師会、アメリカ産科婦人科学会、ガットマッハー研究所などが、TRAPは安全性のためではなく中絶を妨害するものだとして反対している。

 研究では1974年から2016年の期間、20歳から34歳の生殖年齢の女性を対象とし、その間に21の州が少なくとも1つのTRAPを施行。結果、対象年齢の女性グループにおける年間平均自殺率は施行前よりも6%上昇したという。45歳から64歳の生殖後年齢の女性にはこのような変化は見られなかったそうで、研究チームは、TRAPの影響を受ける年齢の女性たちの間で自殺のリスクが引き起こされた可能性を指摘した。

 中絶へアクセスできないことは生殖年齢の女性のストレスや不安を高めるが、自殺そのものに繋がるかどうかを明らかにした研究はない。研究チームは、TRAP法がストレスと不安を増加させる可能性があるとし、著者の1人である精神医学助教授のラン・バーズレー氏は「ストレスはメンタルヘルスへの負担を増加させ、自殺のリスクも高める」とした。

画像: 中絶へのアクセス制限が女性に与える影響

 ハーバード大学の公衆衛生大学院の疫学教授タイラー・バンダーウィール氏は、2016年には127名の生殖年齢の女性の自殺にTRAP法が影響している可能性があると指摘。米NBCの取材で、自殺の原因は置いておいても、自殺者に関するデータは「支援とメンタルヘルスのケアが必要とされている」ことを示していると話した。

 そしてこの研究は1974年から2016年までを対象としたものであることを忘れてはいけない。2022年にアメリカで女性の中絶の権利を認めたロー対ウェイド判決が覆され、州によっては中絶へのアクセスが出来なくなっている。カナダのダルハウジー大学疫学助教授ニコール・オースティン氏は、これはそれぞれの女性に、TRAP法以上に大きな影響を及ぼしていると予想していると話した。

日本でも中絶へのアクセスは制限されている

 そして、中絶へのアクセスが制限されているのはアメリカだけではない。日本では、WHOの「必須医薬品コアリスト」に載っている中絶薬が未承認であり、手術も、WHOが推奨する手動真空吸引法よりも搔爬(そうは)法のほうが多く実施されている。

 中絶を求める女性たちを支援するウィメン・オン・ウェブ(Women on Web)の創設者である医学博士のレベッカ・ゴンパーツ氏はハフポスト日本版で、「社会権規約(ICESCR)に批准している日本政府には、避妊薬、その他の避妊方法、緊急避妊薬、中絶薬を含むWHOの必須医薬品を確保する義務があります。日本の女性たちには中絶薬を使う権利があり、日本政府がその使用を登録していないことは非常に残念です」と意見を述べた。

 さらに日本では、中絶をする時に配偶者の同意が必要となることが長年問題となっているにもかかわらず、撤廃されていない。WHOは女性のからだの自己決定権を守るためには、配偶者どころか医師であっても女性の中絶の決定に口を出すべきではないと明言しており、各国の法から第三者の同意を必須とすることを取り除くように要請している。第三者の同意が必要とされることが中絶へのアクセスを制限することは明らかで、とくに未成年の女性についてWHOは、「両親や保護者の許可が必要だと知れば、思春期の女性は医療機関に行くことを拒む可能性があり、内密に中絶を行なう提供者の元に行く可能性を高める」と警告している。

画像: 日本でも中絶へのアクセスは制限されている

 また、日本では中絶が自由診療であり、手術費用が非常に高額に設定されていることも問題。病院の金儲けに中絶が利用されているという指摘も多い。例えばイギリスで中絶は無料だ。

各国で中絶薬へのアクセスは広がっている

 イギリスでは、新型コロナウイルスのパンデミックが始まったばかりの2020年3月に、中絶薬のオンライン処方と自己管理中絶が可能になった。アメリカでは、2023年より処方箋などがあれば中絶薬を薬局で受け取れるようになった。(※中絶を禁止する州においては実現は難しいと見られる)。もちろん、中絶へのアクセスを守るために危ない薬であっても簡単に手に入れられるべきだというわけではない。80年代の終わりに登場した中絶薬が安全であることは30年以上の歴史で証明されている。

 予期せぬ妊娠や中絶にスティグマを課し、中絶を女性への罰のように捉え、女性に精神的・身体的負担を強いるもので良いとすら考えている人すらいるが、そこに妊娠させた相手の男性の存在がないこと、女性の自己決定権を認めていないことは大きな問題。医療はすべての人に開かれたものであるべきで、それを必要とする女性が中絶を受けられる社会になることは非常に重要だ。

(フロントロウ編集部)

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