世界中を震え上がらせた“リトビネンコ事件”の10年間に及ぶ捜査の全貌を完全映像化したドラマ『リトビネンコ暗殺』より、毒殺されたリトビネンコ氏の妻マリーナ役を演じたマルガリータ・レヴィエヴァのインタビューが到着した。(フロントロウ編集部)

注目俳優マルガリータ・レヴィエヴァが、話題作の裏側を明かす

 自分はウラジーミル・プーチンに暗殺されたー。そう訴えて亡くなったアレクサンドル ・リトビネンコ(デヴィッド・テナント)の暗殺事件と、そこから10年に及んだ、ロンドン警視庁の捜査官と妻マリーナ・リトビネンコの闘いを、当事者の全面協力のもと映像化したノンフィクションドラマ『リトビネンコ暗殺』。

 本作で、毒殺された亡き夫の遺志を胸に、事件の真相を訴え続ける妻マリーナ・リトビネンコを演じたのが、マルガリータ・レヴィエヴァ。MCUドラマ『デアデビル:ボーン・アゲイン』やスター・ウォーズドラマ『アコライト』など、今後の話題作の出演も決まっている 旧ソ連出身のアメリカ人俳優は、どのようにマリーナ役を作り上げたのか? そこには、マリーナ役とリンクするマルガリータの人生のストーリーがあった。

画像: マルガリータ・レヴィエヴァ ©ゲッティイメージズ

マルガリータ・レヴィエヴァ ©ゲッティイメージズ

この役はどのようにして生まれたのでしょうか?

マルガリータ・レヴィエヴァ(以下 マルガリータ):マリーナ役のオーディションがあったとき、私はスペインで別の作品の撮影中でした。かなりハードなスケジュールだったので、その頃はとても疲れていました。そんななか、『リトビネンコ暗殺』のオーディションを受けることになり、「やりたいけど、どうやって時間を捻出すればいいのかわからない」と思ったんです。

オーディションのテープは月曜日の朝に提出することになっていて、その週末は疲れていたせいか、とても気分が落ち込んでいました。ビデオ通話をしていた友達に、このオーディションに取り組むことに気が乗らないと伝えました。彼女は「PCの横に携帯電話を置いて、カメラの電源を入れればいい」と言ったんです。私は「キャラクターも知らないし、練習もしてないし、暗記もしていない。やることが多すぎる」と言うと、彼女は「あなたの中にすでにマリーナがいるのを感じるわ。だから、とにかく台本を読みなさい」と言ったんです。それで、読んでみました。その結果には私たち2人ともが、とても驚きました。私自身から溢れ出る何かが伝わってきたのです。

マリーナはとても素晴らしい女性です。彼女の勇気、回復力、誠実さにはいつも感心させられ、興味を強くそそられました。私が彼女を演じることに関しては、自信がない部分もありました。でもオーディションを受けたとき、「あ、できるかもしれない」と思ったんです。

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現在はアメリカにお住まいですが、もともとはロシア出身なのですか?

マルガリータ:サンクトペテルブルクで育ちました。私は若い頃、新体操の選手で政府に“所有”されていました。そう言うととてもドラマチックに聞こえますが、当時は選手である以上、それが事実だったのです。幼い頃から厳しい訓練を受ける。それが、私のサンクトペテルブルクでの生活でした。11歳の時、母は私と双子の兄を観光ビザでアメリカに連れて行ってくれました。マリーナとサーシャ(※アレクサンドルの愛称)のリトビネンコ夫妻のシナリオと同じように、「休暇に行くのよ。荷造りしなさい」って。そして、ロシアを永久に去るつもりだと母は告げたのです。

ロシア系ユダヤ人の家族として、私たちが経験した反ユダヤ主義は、母が下した決断の大きな部分を占めていました。ユダヤ教について話すことは許されなかったので、私はユダヤ教についてあまり知りませんでした。当時のロシアでは、パスポートに宗教が記載されていました。私はロシア人ではなく、ユダヤ人だったのです。ユダヤ人と知られるのが嫌で、パスポートを隠していました。幼い頃、親に連れられてシナゴーグに行ったとき、デモがあって中に入れなかったことがありました。そのときは、トラブルになりかねないから、あまり話せなかったんです。兄は学校で「キケ」と呼ばれてよく喧嘩をし、母はユダヤ人であるために行きたい学校へ行けませんでした。そういうことが生活の一部だったんです。

アメリカには観光ビザで行き、当時は不法滞在でした。私たちはすべてを捨てました。父も、家族も、祖父母も、何もかも。父はサンクトペテルブルクからモスクワへ引っ越しました。私たちは不法滞在者だったので、ロシアに10年ほどは帰ることができず、どんな書類も手に入れるのに長い時間がかかりました。でも、戻れるようになってからは、またモスクワに通うようになりました。

この制作が始まる前に、この物語について詳しく知っていたのでしょうか?

マルガリータ:自分で調べ始めたことでよりたくさんのことを知りました。この事件が起こったとき、ニュースにショックは受けましたが、同時に驚くこともありませんでした。毒物がどれだけ追跡されたのか、どこにあったのかなどについては知らなかったためルーク・ハーディングの『A Very Expensive Poison』(日本語版未訳)という本を読むなどして、調べ始めました。この話の範囲を知るだけでも興味深かったです。

本作の脚本に入っているアレックス・ゴールドファーブが、たまたま私の継父の友人でした。アレックスは自分の脚本を継父に送り、感想を求めたのです。継父はそれを読み、私に電話をかけてきて、「私の友人の脚本が、かなり面白いものになりそうだ」と言いました。「すごくいい女性の役があるから、読んでみたら」と。それで読んでみたら、脚本も役柄も気に入ったので、「ぜひこの人と会ってみたい」と言ったんです。それでアレックス・ゴールドファーブと会ったんだけど、彼は私が継父の娘だと知って驚いたと。彼は私がマリーナ役を演じることを望んでいたらからです。それで私たちは脚本を一緒に書くことを決めました。

このドラマに出演する前に、約2年間、私はアレックス・ゴールドファーブと脚本を練っていました。ただ、彼がアレクサンドル・リトビネンコの最後の数週間の非公式なスポークスマンを務め、サーシャの生と死についてマリーナと共に本を書いていたアレックスその人だとは気がついていませんでした。彼は『リトビネンコ暗殺』がもし映画化されたら、私がマリーナに適役だろうと言っていました。そして後に、私がこのドラマのオーディションを受けた際に、ジョージ・ケイの台本にアレックス・ゴールドファーブという名前を見つけて、「この名前、知ってる」と思ったんです。そして、それが2年間一緒に脚本を書いていたアレックスだと気づいたんです。

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マリーナとは会ったことがありますか?

マルガリータ:ロンドンで長い時間を一緒に過ごしました。とてもありがたかったです。HBOのドラマ『DEUCE/ポルノストリート in NY』では、私の役は実在の女性をモデルにしていたのですが、本人は関わりを持ちたがらず、会うこともありませんでした。なので、実在のモデルに直接会うのは初めてでした。私は彼女がこのキャスティングに満足していないんじゃないかと思い、怖かったです。でも実話に基づく芝居を書いている友人が、いいヒントをくれました。彼女は、「何か恐ろしいことを経験し、その物語が語られる人は、そのことに本当に感謝している」と言ったんです。それを知ってから最初のミーティングに臨むことができたのはよかったです。

マリーナはとても気さくな人でした。私が彼女を演じることをとても喜んでくれて、私がアレックスを知っていることを知ると、さらに喜んでくれました。それ以来、私たちはとても仲良しになりました。実際に会ってみると、彼女のポジティブさ、楽観性は並大抵のものではないことがよくわかります。彼女は被害者ではないという信念を持っている。これは彼女の身に起こったことではないのです。これは神の呪いではないのです。これは人生であり、起こるべくして起こったことなのです。彼女は、周囲の愛やサポート、友人たちにとても感謝しています。マリーナは本当に愛というレンズを通して人生を見ている。サーシャと一緒にいたときの愛が、ずっと続いているのだと。アレクサンドルは、この愛と、今彼女を支えているすべての人たちと一緒に、彼女を残していったのです。もちろん、彼女にとって戦いであることは間違いありませんが、戦いのようには感じません。

私は夫が亡くなって数週間後にマリーナがTVでインタビューを受けた映像を見て、よくやり遂げたな、と感心しました。それまで人前に出たことがなかったのに。彼女は、「とても簡単でした。緊張しなかった。自分のことじゃないから。私は彼の物語を伝えなければならなかったのです」と。彼女が夫の代弁者であるという発想。彼女を見ているとジャンヌ・ダルクを思わせます。自分の信念や信仰をしっかりと持っている人。それは揺るぎないもので、個人的なものよりもずっと大きなものです。マリーナはそんな力を持っています。でも同時に、彼女は小柄で優しい女性でもある。光とポジティブさに満ち溢れ、彼女はいつもその空間を保っているのです。彼がいなくなっても、まだ一緒にいるのだと思います。2人の心の間にある紐は、まだ繋がっているのです。

画像: マリーナ・リトビネンコ(左)とマルガリータ・レヴィエヴァ

マリーナ・リトビネンコ(左)とマルガリータ・レヴィエヴァ

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