訪問先の家を間違えた黒人少年、ラルフ・ヤール(Ralph Yarl)
「彼の名前はラルフ・ヤール」「ラルフ・ヤール」。先週から、俳優からシンガーまで、著名なセレブリティたちのSNSが16歳の黒人少年、ラルフ・ヤールについての投稿で溢れている。
米ミズーリ州カンザスシティーに暮らすラルフ・ヤールは、双子の弟を迎えに行くために友人の家に向かったものの、住所を間違えてしまい、誤った訪問先の呼び鈴を鳴らした。するとドアを開けた住人に頭を撃たれ、床に倒れたところを再び撃たれたという。撃ったのは、この家に住む84歳の白人の男、アンドリュー・レスター。
ラルフはその後、自力で近くの家をまわり助けを求めたものの、「3軒の家をまわりようやく、両手を上げて地面に寝そべることを条件に助けてくれる人が現れたのです」と、ラルフの叔母は、支援金を募るクラウドファンディング・ページで明かした。
警察は撃った男を釈放、全米で抗議が起こる
事件後、警察はラルフを撃った白人の男を一時的に拘束したものの、取り調べ後に釈放。そしてこれが、全米での抗議活動に発展した。
俳優のハル・ベリーは事件後、「この無実の子どもは今、命がけで闘っています。これはあなたのお子さんかもしれない。こんなことはあってはならないことです。今日、何かをしてください!私と一緒に、ザッカリー・トンプソン検事に連絡を取り、即刻、逮捕と適切な訴追を要求してください」とツイート。
ケリー・ワシントンは「ラルフ・ヤールのために電話をしてください。(犯人を)逮捕して適切に訴追するようにザッカリー・トンプソン検事に要求してください」とツイートし、ほかにも、ヴィオラ・デイヴィス、ジェニファー・アニストン、グウィネス・パルトロウ、キム・カーダシアン、ヘイリー・ビーバー、ジェシカ・アルバ、デミ・ロヴァート、ジュリアン・ムーア、ソフィア・カーソン、ニーナ・ドブレフなど、多くのセレブが処罰を求める投稿を行なった。
さらに、シンガーのマドンナは「右翼の道徳主義者たちがドラァグクイーンや女性の中絶を選ぶ権利を制限しようとするなか、子どもたちは毎日悲劇的な死を遂げている。今すぐ銃規制を!こんなのバカげている」と、2020年の子どもの死因1位が銃器だったアメリカにおける銃規制をインスタグラムで訴えた。
そして俳優のミラ・ジョヴォヴィッチは、犯人が黒人だったら釈放されることなく即訴追されていただろうと、アメリカ司法における人種差別を批判したライター兼アクティビストのショーン・キングのツイートを引用して、「ファクト」という言葉でその考えに同調した。
ザッカリー・トンプソン検事が犯人を訴追
全米から抗議の声が挙がるなか、ザッカリー・トンプソン検事が、ラルフに発砲した男を第1級暴行罪と武装犯罪行為の罪で訴追したと発表。トンプソン検事は、「事件には人種的な要素があった」と明言した。
一方、先生や友人から「優しい心の持ち主」「静か」「フレンドリー」「礼儀正しい」と称されるラルフは、病院を退院して自宅で療養を続けているという。しかし叔母は、「今、彼の人生は大きく変わってしまいました。身体的には回復しても、精神的には長い道のりが待っています。彼が耐え、生き抜かなければならないトラウマは、想像を絶するものです。彼は私たちの奇跡です。このような話はいつも起きています。残念ながら、ほとんどの黒人の少年は生きて再び生きるチャンスを得られません」と、アメリカの黒人少年たちが直面する問題に触れた。
Los Angeles Timesの2019年の報道によると、アメリカでは約1,000人に1人の黒人男性・少年が警察の死によって死亡するという。これは、白人男性・少年に比べて2.5倍高い。(フロントロウ編集部)