弱冠12歳で発掘され、エルトン・ジョンに「若手男性シンガーの中では最も素晴らしい声」と絶賛されたルエルがファースト・アルバム『フォース・ウォール』を引っ提げ、ソールドアウト公演のために来日した。『フォース・ウォール』とは、映画や劇の世界で観客と登場人物の間に存在する見えない「壁」のこと。この壁が壊される時、視聴者は物語により深く引き込まれるとされている。このアルバムには、恋愛のアップダウンもそうだが、ルエル個人の成長が見られる。ライターズ・ブロックになっていたというルエルが、待望のファースト・アルバム発表の道を見つけるために必要だった変化を告白。さらには、若き日のレオナルド・ディカプリオを思い起こすようなヘアスタイルの作り方やプライベートについても語ってくれた。
母がきっかけでコンセプト誕生! この数年の変化とは?

アルバム『フォース・ウォール』
―『フォース・ウォール(4TH WALL)』というアルバム・コンセプトについて教えてください。
ルエル:ライターズブロック(※創作上のスランプ)に陥っていた時期に、母から、インスピレーションになるかもしれないと、『トゥルーマン・ショー』と『ファイト・クラブ』をおすすめされたんです。どちらも、ある意味でフォース・ウォール(第四の壁)を破る映画でした。そこから、第四の壁を破るというコンセプトが浮かび、雪だるま式にアイデアが広がっていきました。自分が共感するシーンから曲を作ることができるだろうか?ビジュアルを作ることができるだろうか?と考え始め、映画に対する自分の考察や、自分が共感する点から、アルバムの曲を書き始めたのです。
―アルバムのカバーアートも、『トゥルーマン・ショー』のラストシーンを思い起こしますね。
ルエル:まさにその通りです。トゥルーマンのボートが空にぶつかるあのシーンにインスパイアされています。このスケッチは、映画を観た1週間後に自分で描きました。もう3年前になりますね。夕暮れに向かって車が突っ込むなか自分が立っていて、まわりには木や煙があるという、このビジュアルとまったく同じものを自分でスケッチして、それをスタジオで再現したものがこれです。
―アイデアをビジュアルでスケッチするというのは、よくやられることなのですか?
ルエル:逆に、こういうことをしたのは今回が初めてなんです。スマホのメモ機能にアイデアや曲名を書き留めることはありますが、それも、数週間に一回開くくらいですよ。
―あなたの曲は共感性が高いです。それは今回のアルバムでも感じました。それはソングライティングにおいて重視している点ですか? それとも逆に、自分自身のリアルな物語を歌っているからこそ共感性が高いのでしょうか?
ルエル:共感してもらえることは、ソングライティングにおいて重要です。LAではとくにこの考えが強くて、『共感できる曲を書け! みんなが共感できなきゃダメだ! だから表現は曖昧に!』って感じに。でも実はこれは逆効果。自分の経験を、具体的に細かいことまで正直に話していけばいくほど、なぜか共感される。人間関係や失恋という点では、みんなの経験が想像以上に似ていることに気づき始めるのです。
―このファースト・アルバムを作るために不可欠だった「変化」を教えてください。
ルエル:まずは、自分の選択に自信を持つことを学んだこと。17歳から19歳にかけて、人は非常に早く大きく変化しますよね。聴く音楽もそうだし、人としてどうありたいかも変わる。すべてが急速に変化して大人になるわけですが、その中で、これが自分の望むものなのだと、自分の決断に確信を持つことを学ぶ必要がありました。これまで、そんなことしたことがなかったですが、それを手に入れたら、フォース・ウォールというアイデアとコンセプト、作りたい音楽とそのサウンドと、すべてが決まっていきました。
2つ目は、明確なビジュアルを設定するようになったこと。フォース・ウォールというコンセプトを取り入れたとはいえ、目立たせすぎるのも嫌だった。だから、どこまでどれほどやりたいかというビジュアルを明確に設定しました。オレンジやブルー、グリーンなど、自然色のカラーパレットを使うと決めたことで、すべてが明確になりました。
3つ目は、やめ時を知ったこと。というのも、このアルバムのために3年間ずっと曲を書き続けて、100曲以上書いたんですが、誰かが『この日までにこのアルバムを出さないといけない』と言わなければ、ずっと書き続けることができましたから。自分が終わったと感じたときに仕上げればいいと思っていたのですがね。だから、締め切りがあることはとても重要なことです(笑)。
アルバムの曲をルエルが解説! コロナ禍の経験も明かす
―最新シングル「アイ・ドント・ワナ・ビー・ライク・ユー」は、とてもアップビートで軽快な“F-You(くそくらえ)”ソングですよね。
ルエル:ええ、その通りです。これは私なりのF-Youソングというか、何もわかっていないのにこうした方が良いと言っている人に対する曲です。この曲は、コンサートでパフォーマンスしたら面白いなと思ったんです。純粋に、ライブで歌ったら楽しそうだから作った。観客が僕に向かって“F-You!”って感じで歌ってくれたら最高に面白いですよね?
―気候変動についての「レット・ザ・グラス・グロウ」のようなダークな曲もありますね。
ルエル:これはコロナ禍のなか、世界はどこに向かっているのか?と考えて作りました。このテーマについて言える、最も正直なことは何か? と考えました。“世界を救おう、木を植えよう、持続可能であろう”という曲にすることもできましたが、僕らの世代とってそれは聞きなれたメッセージです。もちろんメッセージとしては正しいけど、深く切り込めないと思いました。結果的に、地球を救うには自分自身を捧げるしかないというテーマに至ったのです。コロナのなかで落ち込んでいた気持ちが原点になった曲ですね。
―人生においてロストになってしまってもオッケーだと歌う「セット・ユアセルフ・オン・ファイア」は、コロナ禍を経験した全員が共感できる曲です。コロナ中はどのようにして過ごされていたのですか?
ルエル:オーストラリアは国境を開けたり閉じたりを繰り返していて、変な状態でした。コロナが始まってオーストラリアに帰国したときは、1日に1時間のエクササイズが許可されていました。だから、私は毎日、5人の親友とサーフィンに行っていました。それが私の人生でした。音楽は一切やらなかったし、曲も書かなかった。みんな宙ぶらりんの状態だったんです。僕としては、3年ぶりにやっと故郷に帰ってきたようなものだから、今は曲を書くなんて考えられないって感じでした。いつまたツアーでいなくなるか分からないから音楽活動はストップしたのですが、その期間がどんどん長くなっていき、そろそろ制作に戻らないとやばいかな~と思い始めた(笑)。そこで、家に小さなスタジオを作り、Zoomでライティング・セッションをして、2020年末にEP『ブライト・ライツ、レッド・アイズ』をリリースしたんです。
―15歳だった2018年に来日した際のインタビューで、EP『レディ』にかけて、苦手な辛いものに挑戦する準備(レディ)ができたと言っていましたが、有言実行となりましたか?
ルエル:なりました! やはり辛いものを楽しむ準備はできていたのです。あの頃はまだ子どもでしたが、僕も大人になりました(笑)。マネージャーのジョエルが辛いもの好きで、つねに最も辛い食べ物を探しているのもあるかもしれませんね。今は…これから辛いラーメンを食べに行きたい!
―20歳になった今、経験してみたいことはありますか?
ルエル:ウィスキーへの愛を覚醒させたいです。このアルバムには、「ジャパニーズ・ウィスキー」という曲があります。曲名は、日本のウィスキーが大好きなプロデューサーのPJが提案したもので、名前の響きがかっこよくて好きだったが、僕はウィスキーがあまり好きじゃないという問題があった。ウィスキー好きだったらなあと思っているなか、数日後にスタジオで、「何かを好きでありたいと願うが、実際にはまだそのために十分に成熟していない、あるいはその準備ができていない、という比喩として書いたらクールじゃないか」という考えをPJが提案しました。そうやって、恋愛をしていて成熟していない、準備が整っていないことを歌う「ジャパニーズ・ウィスキー」が完成しました。僕自身は、普段はマルガリータやメスカル、それにビールを飲んでいますが、心はウィスキーを好きになる準備ができています。

今回の来日中、新宿ゴールデン街を訪れたルエル。©RUEL/Instagram
―今回のツアーでは、訪問国の一部でアルバムの楽曲の映像を撮っていますよね?
ルエル:シンガポールではカラフルな色合いの道で「ライ」の映像を撮影して、バンコクでは、「イフ・アンド・オア・ウェン」の「鉛筆で書くのは飽きた 君をインクで記したい」という歌詞に合わせてタトゥーパーラーで撮影をしました。マニラは渋滞で有名なので、「シッティング・イン・トラフィック(※渋滞にはまっているという意味)」を撮り、明日(※取材は来日公演前日)は東京のバーで、日本のウィスキーを飲みながら「ジャパニーズ・ウィスキー」を撮る予定なんです。
ルエルのファッション、ヘア、プライベート

©RUEL/Instagram
―15歳の時には日本のストリートファッションにハマっていると言っていましたが、その後、あなたのファッションスタイルは進化を続けています。今はどのようなスタイル、ファッションアイコンに注目していいますか?
ルエル:スタイリストに言われた服を着る人もいますが、僕は、服で表現することが大好きなんです。インスピレーションが湧くんです。今回のツアーでは、スーツ、ネクタイ、シャツといった、大人っぽくプロフェッショナルなルックにハマっています。コロナ中はつねにダボダボの洋服で長髪にひげ面で、ビッグ・リボウスキ風ルックを意識していました(笑)。今は、(ドラマ『ゴシップガール』の)エヴァン・モックや(ドラマ『ユーフォリア/EUPHORIA』で知られるシンガーの)ドミニク・ファイクはかっこいいなと思っています。

©RUEL/Instagram
―そのヘアスタイルに憧れる人は多いと思います。どのようにスタイリングしているのですか?
ルエル:とてもシンプルです。まず、腕の良い美容師さんに切ってもらっている。今のようなハーフマレットになるように作ってくれています。そして、シャワーから上がる前に、洗い流さないタイプのリーブインコンディショナーを髪につける。これで完成。あとは自然乾燥で、ドライヤーも使いません。放置して完成するので、僕のヘアスタイルは毎日変わります。

©RUEL/Instagram
ーTikTokでは、あなたのキャリア最大の公演でご両親が全然ライブを観ていないという動画がバズっていましたが、ご両親はどんな反応をされていましたか?
ルエル:すごく恥ずかしがっていました(笑)。父は、『約束する。パフォーマンスの映像を投稿していただけなんだ』と言っていて、母は、『言い訳はしない。たしかに興味なさそうな表情だった』って感じでした。もちろん、あれはちょうどネタになるような瞬間をとらえただけで、実際にはすごく応援してくれていますよ。

©RUEL/TikTok
―最後に、日本のファンにメッセージはありますか?
ルエル:変わらず僕を応援してくれていることに感謝したいです。日本のような場所に来て、ソールドアウトのライヴをして、またみんなに会えるなんて、今でもとてもクレイジーだと思っています。みんなが新曲を気に入ってくれること、来日公演でのライヴを気に入ってくれることを願っています。
<作品情報>
アルバム『4TH WALL | フォース・ウォール』
発売中
https://sonymusicjapan.lnk.to/Ruel4thWallFT
5月23日渋谷WWW Xでのセットリストを反映したプレイリスト
https://smji.lnk.to/Ruel4thWallTourJPFT

1. GO ON WITHOUT ME | ゴー・オン・ウィズアウト・ミー
2. I DON’T WANNA BE LIKE YOU | アイ・ドント・ワナ・ビー・ライク・ユー
3. SITTING IN TRAFFIC | シッティング・イン・トラフィック
4. JAPANESE WHISKEY | ジャパニーズ・ウィスキー
5. GROWING UP IS | グローウィング・アップ・イズ
6. SET YOURSELF ON FIR | セット・ユアセルフ・オン・ファイア
7. LIE | ライ
8. LET THE GRASS GROW | レット・ザ・グラス・グロウ
9. YOU AGAINST YOURSELF | ユー・アゲインスト・ユアセルフ
10. SOMEONE ELSE’S PROBLEM | サムワン・エルセス・プロブロレム
11. WISH I HAD YOU | ウィッシュ・アイ・ハッド・ユー
12. IF AND/OR WHEN | イフ・アンド・オア・ウェン
13. MUST BE NICE | マスト・ビー・ナイス
14. END SCENE | エンド・シーン
(フロントロウ編集部)