ファッション業界の課題を解決する「KISARAZU CONCEPT STORE」
日々の生活に欠かせないだけでなく、自己表現のひとつでもあるファッション。そんなファッションには、美しい地球環境を守るうえではさまざまな課題がある。
そのひとつが余剰在庫。国内では生産された衣類の半分以上が売れ残っていて、なんと年間15億着もの衣類が破棄されている。せっかくこの世に生み出されても、売れずに破棄されることでライフサイクルは終わりを迎えてしまう。
そんな服のサイクルを見直し、ファッション業界のさまざまな課題を解決に導く実験場として誕生したのが「KISARAZU CONCEPT STORE(木更津コンセプトストア)」。
「KISARAZU CONCEPT STORE」の主役は規格外品やデッドストック品
中庭などを含む敷地面積約7,300㎡、そして店舗の延床面積約3,000㎡という広大なスペースを誇る「KISARAZU CONCEPT STORE」は、2023年6月8日に三井アウトレットパーク 木更津の隣接地に開業。コンセプトは、ファッションを楽しむテーマパークであり、新たな服のサイクルを生み出す実験場。
その最大の特徴は、規格外品やデッドストック品が「主役」であること!
「KISARAZU CONCEPT STORE」にずらりと並ぶアイテムたちは、そのほとんどが誰にも出会えずに日の目を浴びることができなかったアイテム。でも誰かに出会えていたら、もっとファッションを楽しむきっかけになっていたかもしれない。
そこで「KISARAZU CONCEPT STORE」が考えたのが、新しい出会い方。新しい出会い方ってどんなもの? 「KISARAZU CONCEPT STORE」でのショッピングの特徴を紹介します!
宝探しのような空間でショッピングできる
「KISARAZU CONCEPT STORE」は、A ZONE~E ZONEの大きく分けて5つのゾーンに分かれていて、それぞれのエリア内も細かく区画が区切られた、まるで迷路のような空間。
区画分けされた小さなスペースは、モノトーンのみの洋服が集められたスペースから、帽子のみが集められたスペース、ジュエリーが集結したスペースまでさまざま。ここには何があるんだろう…?とわくわくして覗くのが、とにかく楽しい。
ユニークな空間づくりだけを見ても宝探しっぽい「KISARAZU CONCEPT STORE」だが、前述の通りここにあるのは規格外品やデッドストック品。誰にも出会えなかった服たちの中から、自分にぴったりの服を見つけ出す感覚こそ、まさに宝探し。
普段から古着屋やリサイクルショップ、フリーマーケットで掘り出し物を見つけるのが大好きな私は、どこを見ても心が躍りまくりだった。
さらに売り場づくりやボディ(マネキン)のコーデもユニーク。たとえば比較的リーズナブルなブランドのアイテムと、ラグジュアリーなブランドのアイテムを組み合わせて提案したり、レディースとメンズをミックスしていたりと、一般的なショップではあまり見ない訴求を実施。
服の魅力や個性が伝わりやすくなるように、このような工夫をあえて取り入れている。出会いたい人と服が出会えるように。そして誰かの手に渡れば、服の新しいサイクルが始まっていく。
オシャレな内装に隠れた、サステナブルなこだわり
迷路のような空間だけに、何度も行ったり来たりしたくなる「KISARAZU CONCEPT STORE」。そうしているうちに、ふと目につくのがちょっぴりレトロな什器や家具。全体的には近未来風のカラフルな空間に、アンティーク家具や古い什器が盛り込まれている。じつはこれは、サステナブルなこだわりによるもの。
新しい什器だけでなく、過去にPASS THE BATON や三井不動産が管理運営する商業施設に出店している店舗などで使われていたアンティーク家具や古い什器をたくさん再利用。そのほかにも古いガラス戸を区切りとして活用していたり、工場で仕切りとして使用されるビニールカーテンで区切ったコーナーをつくったりと、オシャレなアクセントとして活用。
サステナブルであることはもちろん、どこかほっこりと落ち着く空間に感じられるのも印象的だった。
とにかく試着しまくるのがルール
「KISARAZU CONCEPT STORE」での買い物のルールは、大きなカートの中に気になるアイテムをどんどん入れていき、それを満足するまで試着しまくること。
「洋服は着てみないと似合うかわからない」という考えのもと、施設内の複数個所にフィッティングルームを設置。カートの中にキープしたアイテムが溜まってきたら、近くのフィッティングルームへ。好きなように何着でも何度でもとことん試着することで、新しい自分を発見できる。
複数あるフィッティングルームの中でもとくに注目なのが、「FITTING STUDIO」というエリア。ここは広々とした室内に特別なライティングが仕掛けられていて、とにかくカワイイ。気になるアイテムを何着でも持ち込めて、友達や家族と一緒に入ることだってできる。
フィッティングルームと同じくこだわりが込められているのが、お戻しコーナー。「KISARAZU CONCEPT STORE」では、フィッティングルームやレジの付近にあえて目立つようにお戻しコーナーが設置されていて、ひとつの売り場のように展開。さらにお戻しコーナーからフロアに戻す前のアイテムだけを集めた小部屋もある。
これは、誰かが迷って戻したアイテムをキュレーションするように魅せる演出。誰かが迷って戻したアイテムの中にも、自分にぴったりの掘り出しものが隠れているかも。
動画で分かる、「KISARAZU CONCEPT STORE」でのショッピング
買い物だけでなく体験ができるゾーン「FACTORY LAB」も
「FACTORY LAB」は、新しいサイクルを生み出す活動を紹介し、体験もできるゾーン。企業や団体がサステナブルな取り組みや新技術を紹介するコーナーを展開。
文化学園大学と近畿大学の共同ブースでは、なんと衣類から次世代再生可能エネルギーをつくり出す画期的な研究を公開、展示。廃棄される端切れや仮縫い等の残布、古着を活用した燃料「エシカルザンプ®」の製造プロセスの体験も不定期開催されるそう。
また繊維の廃棄物から紙を作り、循環型社会を目指すプロジェクト「サーキュラー コットン ファクトリー(Circular Cotton Factory、以下CCF)」のコーナーも。繊維から紙をつくる過程を展示しているほか、廃棄衣類をリサイクルして生まれた紙「サーキュラーコットンペーパー」で制作されたシンボルツリーも展示。
そしてもうひとつ注目なのが、「FACTORY LAB」内にクレサヴァ株式会社が展開する「CIRCULAR FARM Lab.」。クレサヴァは、回収した衣類から肥料を生成するテクノロジーを開発し、特許を取得。衣類から肥料へ還し、食を育む循環型テクノロジーを生み出した。
「CIRCULAR FARM Lab.」では、衣類から肥料を生み出すテクノロジーを楽しく学べるほか、屋外にはクレサヴァの肥料がつかわれた農園もあり、晴れた日には農園で季節ごとの有機野菜の成長を楽しむことができる。衣類の回収BOXも設置されており、持ち込むことで1kgあたり250円相当のクーポンと交換可能。
動画で分かる、「KISARAZU CONCEPT STORE」で学べる新たなサイクル
入場料を通じてファッションの未来への「応援」を表明
「KISARAZU CONCEPT STORE」に入場するには、大人は300円の入場券を購入するのがルール。じつはこの入場料は、社会課題を解決すべく新たなサイクルを生み出すための取り組みを行っている企業・団体の応援につながる「コントリ」という仕組み。
「コントリ」とは、入場料及び購入した商品代金の一部が、企業や団体へ協賛されるというもの。入場の際にコントリ(協賛)先が選べて、この体験がファッションの未来について考えるきっかけにもなり、ファッションの未来につながる一票を投じることに。
ちなみに現在のコントリ先は、いずれも「FACTORY LAB」に出展しているクレサヴァ、CCF、文化学園大学の3つ。
もったいないにフォーカスしたカフェも!
「KISARAZU CONCEPT STORE」には、“もったいない食材”を活用したメニューを提供するカフェも。バーガーやジェラートのほか、規格外などを理由にフードロスになる可能性のある食材を利用したドリンクが、ランチやカフェタイムに楽しめる。
さらに併設する食物販コーナーには、まだ食べられるにもかかわらず捨てられてしまう可能性のある食品を中心に、環境や社会、人に配慮し作られているエシカル商品なども並ぶ。
【まとめ】思う存分買い物を楽しみながら、未来についても考えられる場所だった
「KISARAZU CONCEPT STORE」は規格外品やデッドストック品を、可能性を秘めた資産、社会が抱える資産として捉えて光を当てることで、新しいサイクルを生み出す実験場。
実際に行ってみて感じた率直な感想は、「規格外品やデッドストック品には到底見えない」ということ。一言で規格外品やデッドストック品と聞くと、どこか売れ残りのようなネガティブな印象を持たれがちだけれど、ここではそれが主役。空間づくりをはじめとしたさまざまな工夫によって、脚光を浴びたその商品たちは、むしろ厳選された魅力的な商品にしか見えないのが驚きだった。
ものが絶えず生まれ続けている現代では、なにもしなくても新しくて自分の好きそうなものが目に入ってきてくれる。だからこそ忘れてしまいがちな、自分がときめきを感じるものを能動的に探す感覚は、ファッションやショッピングが持つ本来の楽しさを思い出すとともに、自分で見つけ出して自分の手に渡ったものは責任を持って大切にしようと改めて決意するきっかけになってくれる。
そしてそれだけでなく、どうしても売れなかった先や手放した先にある服の未来についても考え、それを実際に目にして学べるのは大きな魅力。現代に生きる一人の人間として、そして洋服を愛する消費者として、環境への負荷を減らしながらファッションを楽しむための取り組みを積極的に応援していきたい。