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【独占対談】ヤングブラッド&(sic)boyが語る、ジャンルも国境も超越した「ロックスター」の定義

FRONTROW Editorial Dept.
BY FRONTROW Editorial Dept.
【独占対談】ヤングブラッド&(sic)boyが語る、ジャンルも国境も超越した「ロックスター」の定義

イギリス出身のヤングブラッドと日本出身の(sic)boy。ヤングブラッドの単独来日公演で(sic)boyがサポート・アクトを務めるタイミングで、2人のアーティストによる貴重な対談が実現した。この日、ヤングブラッドはヴィジュアルを通した自己表現にも共通したものがある(sic)boyを「双子」のようだと語っていたが、2人の最も大きな共通点は、先代たちの音楽から受けた影響をジャンルレスに自分のスタイルに落とし込んだ上で、「ロックスター」としてステージに立っていることにこそある。昨年のサマーソニックで意気投合したという2人の対談から見えてきたのは、2人が体現する「ロックスター」の本質だった。(フロントロウ編集部)

ヤングブラッド&(sic)boyに対談インタビュー

フロントロウ編集部:まずはお二人の出会いについてお話しいただけますか?

ヤングブラッド:サマーソニックの大阪会場で初めて会ったんだ。そのときのことはよく覚えているよ。バックステージにケータリングが置いてあるところがあるんだけど、そこで一緒にダーツをしたんだよね。それが彼との出会いだよ。

(sic)boy:彼を見かけて、僕のほうから彼に話しかけたんです。

ヤングブラッド:そう、彼から話しかけてくれたんだけど、「このクールな男は誰だ?」と思ったのを覚えているよ。「俺みたいなヤツがいるぞ!」って思ったんだ(笑)。

Photo:©Sotaro Goto

(sic)boy:元々彼の音楽を好きで聴いていたので、会えたときはめちゃくちゃテンション上がりました。サマーソニックに出させてもらったのは去年が初めてだったんですけど、ラインナップでヤングブラッドの名前を見たときから、同じフェスに出るっていうこと自体がすごく楽しみでした。バックステージにいたら、「え、普通に(ヤングブラッドが)歩いてるじゃん!」みたいな(笑)。それで、話しかけなければ後悔すると思ったので、話しかけました。

ヤングブラッド:君と出会ったときのことで、記憶に残っているクールなことを1つ伝えていいかい? 俺は誰かに会ったときに、その人がロックスターかそうじゃないかがわかるんだけどさ、何が素晴らしかったかって、君は自分でネイルを塗っていただろう? もしネイルサロンで塗ってもらっていたら、そいつはロックスターじゃないんだ。君は自分でネイルを塗っていたよね。そこも好きだったんだよ。

(sic)boy:ハハハ! そう、確かに僕は自分で塗っていますね。ありがとう。

Photo:©Sotaro Goto

フロントロウ編集部:(sic)boyさんは元々ヤングブラッドさんのファンだったそうですが、彼のどんなところに魅了されたのですか?

ヤングブラッド:いいね!聞かせてよ!

(sic)boy:ロックンロールの中に、無邪気な感じと、自由な感じが存在しているところですかね。シーンをぶち壊していくっていうことをずっとやられていて、カッコいい人だなって思っていました。最初に見つけたきっかけはYouTubeだったんですけど、初めて触れたときからカッコいいなって。独特の魅力というか、日本の中ではこういう自由度を持って音楽を作っている人って多分あまりだろうなって思っています。パフォーマンスもそうだし、ミュージックビデオも、立ち振る舞いもすべて含めて。今までいたロックスターたちからあらゆるものを受け継いで、今のこの時代に合わせてやっている人がいたっていうのが、僕は1人のロックファンとして嬉しかったです。「ああ、この人カッコいいな」って本当に思いましたね。

ヤングブラッド:ありがとう! 君にそう言ってもらえたことは本当に大きいよ。俺はロックが大好きだし、ロックこそ世界最高の音楽だと思っているからね。特に大好きなのはセックス・ピストルズにオアシス、メタリカ、ザ・キュアー、それからレディー・ガガ。彼女もロックスターだからね。他にもデヴィッド・ボウイも大好きだし、ブラック・フラッグのことも、ニルヴァーナのことも大好きなんだけど、彼らが持ち合わせていたエネルギーを、新しい方法で今の時代に生き長らえさせる必要があるわけでさ。日本に来て何がクールだったかって、君のようなアーティストがいて、このジャンルのそうした本質を体現しているのを見れたことなんだ。

Photo:©Sotaro Goto

今のロックミュージックには、団結のようなものがないと俺は思っていてね。ここ3年くらいはヒップホップが覇権を握ってきたのは、だからだと思うんだけどさ。ヒップホップにおいては、お互いにコラボレーションしたり、今こうやって俺と君がやっているみたいに、ソファに一緒に座ったりしながら話をしたりするみたいな状況がよく起きているわけで。

だからこそ、今こうして俺と君がやっているのは、新しいロックのようなものだよね。まさか自分が来られるとは思っていなかった日本という国で、その国のロックスターと一緒に対談しているっていうのはさ。昨日、BABYMETALにも会ったんだけど、彼女たちにも同じものを感じたよ。衝撃的だった。ロックミュージックがようやくコラボレーションの兆しを見つけたんじゃないかって俺は信じているよ。それこそが大切なんだ。80年代のロックシーンには、そういう繋がりがあったはずだからね。

フロントロウ編集部:ヤングブラッドさんからいろいろなアーティストの名前があがりましたが、(sic)boyさんはここまでどんなアーティストから影響を受けてきましたか?

(sic)boy:彼があげたアーティストたちはもちろん僕も大好きですね。

ヤングブラッド:ああ、最高だよな。

Photo:©Sotaro Goto

(sic)boy:それから僕は、日本のロックバンドも大好きで、そこのルーツもすごく大事にしているんですよね。今、こうして彼と会って話していると、彼が別の国の出身ということよりもまず、すさまじいバイブスとオーラをまといながら、熱意を持ってロックを表現しているんだっていうことが一番に伝わってきて。だからこそ、彼の育ってきた環境や聴いてきた音楽に、僕が聴いてきたような日本の音楽から海外のいろんな音楽をまとめたときに、良い化学反応が生まれるんじゃないかってワクワクしますね。

ヤングブラッド:今、彼が言ったことに100%同意するよ。それこそが核心だからね。ロックンロールというのは、単なる「音楽」じゃないんだ。もちろん「言語」でもない。ロックンロールというのは「考え方」であり、「アティテュード(態度)」なんだよ。今、このジャンルにおいてどんな間違ったことが起きているかというと、年老いた人たちによって門が閉ざされてしまっているんだよ。言っていることわかるかい? 年老いた人たちは、ロックに進化してほしくないと思っているんだ。

だからこそ、今こうして新しい世代がロックを前に進めようとしているのは最高にクールだよね。そういう汚名を着せられてしまうから、今のロックミュージシャンは苦労するところもあるんだけどさ。何が笑えるかって、俺の祖父はオアシスが嫌いだったんだけど、それはザ・ビートルズのパクリだと思ったからなんだ。そして、俺の父親は、オアシスのパクリだという理由で、アークティック・モンキーズが嫌いだった。それからもし俺に息子がいたとして、息子から次の世代のバンドを勧められたら、「これって(自分の世代のバンドの)パクリだろ」って言うんじゃないかって、自分でも思うしね。言っていること分かるかい? それくらい、上の世代によって閉ざされてしまうジャンルなんだよ。でも、俺はロックンロールというのはそうあるべきだと思っている。人々をムカつかせてこそなんだ。だからこそ、こんなに楽しいんだよ。

Photo:©Sotaro Goto

まるで「双子」、2人のファッション遍歴とジャンルをめぐる葛藤

まるで「双子」、2人のファッション遍歴とジャンルをめぐる葛藤

フロントロウ編集部:先代の音楽を更新するという話で言うと、ヤングブラッドさんは“ポップ・パンク・リバイバル”の文脈で紹介されることもあると思います。(sic)boyさんは、ヤングブラッドさんのそうした楽曲を多く手掛けてきたプロデューサーのザック・セルヴィニさんを、最新アルバム『HOLLOW』に収録した「Falling Down」で起用されていますよね。これはどのような経緯で実現したのですか?

(sic)boy:近年ポップパンクが盛り上がっているからというよりかはむしろ、僕が彼のサウンドのファンだったというのがありました。たまたまロスに制作しに行ったときに、光栄なことに「一緒に作ろう」という話になって。「Falling Down」はアルバムの中でも気に入っている曲の1つですね。

ヤングブラッド:ザック・セルヴィニは最高だよ。LAにいたときに(プロデューサーの)クリス・グリアッティがザックのことを紹介してくれて初めて会ったんだけど、それがきっかけとなって、一緒に(2019年にリリースしたEP)『the underrated youth』に取り組むことになったんだ。それから「11 Minutes」も一緒にやったんだけど、そのときにザックが紹介してくれたのが、(ブリンク182のドラマーでプロデューサーの)トラヴィス・バーカーだった。だから、トラヴィス・バーカーに俺を繋げてくれたのは彼だったんだよね。ザックは最も重要なミキサーだと俺は思っているよ。俺たちのジャンルにおける、今、最も重要なプロデューサーの1人でもあるしね。

ザックのことは本当に大好きだよ。すごく熱心に取り組んでくれてきたし、それは俺にとって一生モノだよ。最新シングルの「Happier」にもザックは参加しているんだけど、彼は最高だよね。

フロントロウ編集部:ところでお二人からは、ファッションやメイク、ネイルなどの雰囲気にも非常に近しいものを感じます。

ヤングブラッド:ああ、兄弟みたいだよね! まさに双子だよ。

Photo:©Sotaro Goto

フロントロウ編集部:今のスタイルを確立されるまでに、ファッションの面ではどんなスタイルやカルチャーから影響を受けてきましたか?

(sic)boy:たくさんあるんですけど、特にグランジのスタイルですかね。カート・コバーンが大好きで。みんなにとっての憧れであり、カリスマ的存在だと思うんですけど、飾っていないのにカッコいいという感じがすごく好きですね。あとは、これはどちらかというと衣装的な話になってしまうんですけど、マイ・ケミカル・ロマンスも大好きです。あの世界観も最高ですね。

ヤングブラッド:彼らは見事に世界観を創り上げたよね。『ザ・ブラック・パレード』のアルバムなんて天才的な作品だしさ。あれはクイーンの『オペラ座の夜』やデヴィッド・ボウイの『ジギー・スターダスト』と同じくらい重要な作品になったと思う。

俺が影響を受けてきたスタイルについては、(セックス・ピストルズのアートワークなどを手掛けた)ジェイミー・リードやヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)、セックス・ピストルズ、それから映画監督のティム・バートンからも影響を受けてきた。昔からティム・バートンの映画作品が大好きでね。あとはデヴィッド・ボウイやサイバーパンク、(ザ・プロディジーの今は亡き)キース・フリントからも影響を受けたし、ラフ・シモンズ(RAF SIMONS)やアレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)、フォトグラファーのチャールズ・ピーターソンからも影響を受けた。彼はグランジ初期の頃にあらゆる撮影を担当していた人で、ホールやサウンドガーデン、パール・ジャムといったバンドたちを撮影していたんだ。

そういった最高にクールな人たちから影響を受けたんだけど、最大のインスピレーション源は、1970年代のロンドンにあったシーンだね。あのときに「SEX」やヴィヴィアン・ウエストウッド、マルコム・マクラーレンの周辺で起きていたことだよ(※)。それから、ストーン・テンプル・パイロッツや(同バンドのフロントマンだった今は亡き)スコット・ウェイランドもそうだね。あれこそまさにロックンロールだよ。彼はクレイジーだったよね。
※ヴィヴィアン・ウエストウッドとマルコム・マクラーレンは1971年にロンドンに店舗をオープンし、1974年に店舗の名前を「SEX」に改称。その後、マルコムがサポートする形で、「SEX」の常連客や従業員によるバンド、セックス・ピストルズが結成された。

Photo:©Sotaro Goto

あと、『アリス・イン・ワンダーランド』のマッドハッターも好きだよ。架空のキャラクターも大好きなんだ。俺は自分がカリカチュア(戯画/風刺画)のように見えるのが好きでね。もし人々が俺の服装を絵で描けるのだとしたら、それは着る価値がある服ということなんだ。喋りすぎてしまったね、ごめんよ(笑)。

フロントロウ編集部:もっとお二人にお話を伺いたいところなのですが、そろそろお時間となってしまいます。最後に(sic)boyさんから、ヤングブラッドさんにこれだけは訊いておきたいという質問はありますか?

(sic)boy:そうですね。今日、対談のなかでキーワードになった言葉の一つがジャンルだったと思うんですけど、(楽曲単位で)特定のジャンルにカテゴライズされてしまうことについてはどう考えていますか?「これはロックだ、これはヒップホップだ」とか仕分けされることについて、僕は正直、あまり分けないでほしいと思うところがあって。そういうところは、どのように捉えているのか訊いてみたいです。

ヤングブラッド:君に同意するよ。ジャンルに括られることは「ふざけんな」って思う。ジャンルなんて大嫌いだ。ヤングブラッドとしての活動を始めた当初からそうだったんだけど、何が苦労するかって、俺はこの見た目のせいで、周囲からは1つのタイプの音楽を作ることを期待されるんだ。ものすごくフラストレーションが溜まるよ。俺はピンク・フロイドが大好きだけど、それと同じくらいナイン・インチ・ネイルズが大好きだし、同じくらいレディー・ガガも大好きだし、デヴィッド・ボウイもそうだ。ジャンルというのは、罠のようなものなんだよ。レコードショップのために作られたものなんだ。CDを特定の売り場にまとめられるようにね。でも、今は音楽があらゆるところに存在しているだろ? ジャンルなんかクソ食らえだよね!

Photo:©Sotaro Goto

音楽においてキーになるのは、「自由」と「進化」なんだ。例えばザ・クラッシュについても、「London Calling」を作った彼らだって、ダンサブルでポップな「Train in Vain (Stand by Me)」も作っているわけでさ。あのときはまだコンピューターが到来する前だったけど、望む通りの音楽に進化させられていたんだ。それってクールなことなんだよ。

(sic)boy:ありがとうございます。僕もまったく同じように思っています。それがすべてだと思うし、そういう姿勢がサウンドにも現れてくるんじゃないかなって。僕も結構、ジャンルに結びつけられて色々と言われてきて、それはしょうがないことなのかなって思っていたんですけど、そうやってカテゴライズしてくる人たちにもきちんと向き合い、闘っていったその先に、また見えてくるものがあるんじゃないかなって思えました。

ヤングブラッド:ああ、その通りだよ! 嬉しい質問だった。楽しい時間だったよ。ありがとう!

Photo:©Sotaro Goto

<リリース情報>
ヤングブラッド
シングル「Happier(feat. オリ・サイクス of ブリング・ミー・ザ・ホライズン)」
配信中
ストリーミング/ダウンロードはコチラ

(sic)boy
メジャーファーストアルバム『HOLLOW』
発売中
購入、ダウンロード/ストリーミングはコチラ

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