キャリア当初は顔を隠していなかった!
ただ1人の少女が荒れた部屋を駆け回って踊るミュージックビデオが有名な大ヒット曲「シャンデリア」をはじめ、自分の顔をウィッグで覆って隠すその風貌で有名なシンガーのシーア。
オーストラリア出身のシンガーである彼女は、1990年代半ばからジャズバンドCrispのメンバーとしてそのキャリアを開始。しかし当時は顔を隠していなかった。1997年にCrispが解散すると、イギリスのロンドンへ活動の場を移したシーアは、イギリスバンドのZero 7とともに行動するようになり、ファンからは“非公式のリードボーカル”と呼ばれるようになる。
1997年から数年に1度の頻度で自身のアルバムを発表していたシーアは、順調にシンガーとしてのキャリアを築き、2010年に発売した自身にとって5枚目のアルバム『ウィー・アー・ボーン』は、母国オーストラリアで初登場2位を記録。さらに、翌年2011年には、人気DJデヴィッド・ゲッタが、シーアのデモテープを使って発表した楽曲「タイタニウム」が各国チャートのトップ10ランニングに入るほどの大ヒット。シーアの名は一気に世界に知れ渡った。
成功と引き換えになったプライバシー
ただ、じつはシーアは、『ウィー・アー・ボーン』を機に歌うことからは引退して作詞の仕事に専念するはずだった。シンガーとして表舞台に立つことが肌に合わないと思ったシーアは、2012年2月に「ツアーや(イベントなどへの)出演、動画への登場やインタビューはもう受けないことにします。今は(表舞台に出ない)制作側でいたい」とツイート。事実上の引退宣言をした。
しかしそんなシーアの思いとは裏腹に、当時世間では前年12月にリリースされた「タイタニウム」がメガヒット中だった。さらに、リアーナの「ダイヤモンズ」や、ビヨンセの「プリティ・ハーツ」、マルーン5の「マイ・ハート・イズ・オープン」、ケイティ・ペリーの「ダブル・レインボー」など、ソングライターとして手掛けた楽曲のヒットにより、シーアは音楽セレブとしてどんどん有名に。
自分の意に反してより一層スポットライトを浴びることになってしまったシーアは、ついにシンガーとして引退しない代わりに、顔を見せないでいようと決断。スポットライトを浴びることは「ある意味で私を不安定にさせた」とジェームズ・コーデンの番組で明かしたシーアは、覆面シンガーになった理由のひとつを情報番組『ナイトライン』で明かした。
「インターネットで自分のルックスが批評されるのはイヤ。ポップスターのためにたくさんのポップソングを作ってきたから彼らの多くと友達だけど、彼らの人生を見ていると自分はああはなりたくないと思う」
そういって、自身のメンタルヘルスのためにも、素性を隠して名声の代償を払うことを避けようとしていることを明かしたシーア。
ちなみに、今やシーアのトレードマークとなった、ブロンドのボブヘアーのウィッグをかぶることにしたのは、瞑想中にふと思いついたとのこと。
シーアを苦しめたメンタルヘルスの問題
自身の心の平和を保つためにも、素性を隠すことにしたシーア。そんな彼女の人生は、メンタルヘルスとの闘いが続いた。
1997年に渡英したシーアは、当時の彼氏を交通事故で亡くした。そのショックによってアルコールや薬物に溺れていったというシーア。さらにシーアを苦しめたのは、成功の末に失った静かなプライベート。うつ病も患っていたというシーアは、『ウィー・アー・ボーン』をリリースした2010年、ついに遺書まで書いて自殺を試みようとしたと米New York Timesに明かす。
しかし、自殺を試みたそのタイミングで友人から電話が。その電話で心が救われたというシーアは、依存症の治療を受けることにしたそう。さらには、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されてしまい、身体に震えなどの症状が現れるバセドウ病を患っていることも発覚。ツアー中だったシーアは、予定されていたすべての公演と、テレビ出演をキャンセルした。
その後シーアは体調を回復させ、お酒を断ち、2018年には、「シラフになって8年。みんなのことを愛してる。このまま進んでいこう。みんなならできる」と力強いメッセージをツイッターに投稿した。
Eight years sober today.
— sia (@Sia) September 11, 2018
I love you, keep going.
You can do it.
代表曲「シャンデリア」に隠された意味
そんな過去を乗り越えたシーアがその名声を確固たるものにしたのが、2014年に発売された、かの有名なシーアの代表曲「シャンデリア」。
自身の6作目のアルバム『1000 フォームズ・オブ・フィアー』のリードシングルとして発表された「シャンデリア」は、その後シングルとしても発売された。
「シャンデリア」は、シーアのハスキーな声にマッチした荒廃的なミュージックビデオも話題に。荒れた部屋で1人でソウルフルに踊り、シーアの分身とも称された当時12歳のマディー・ジーグラーも一躍有名にしたこのビデオは、YouTubeでこれまでに約21億回も再生されている。この楽曲は第57回グラミー賞で4部門にノミネートされ、最優秀ミュージックビデオ賞を受賞した。
以降も継続的に楽曲を発表しているシーア。最近では、素顔で公の場に登場することも増えている。
シーアの代表曲「シャンデリア」はアルコール依存症の苦しみを克明に描いた楽曲として有名。才能に恵まれたヒットメーカーに見えるシーアだけれど、その原点には、人生で経験した多くの苦しみが隠れている。
人間から動物まで、多くのチャリティをサポート
多くの苦しみを乗り越えてきたシーアは、人を助けるチャリティ活動にも熱心。
2017年に発表した「フリー・ミー」は、HIVに苦しむ人を支援するために制作され、その売り上げの全額が、エイズワクチンの研究を行なう米Abzyme Research Foundationに寄付された。
また、シーアが現在飼っている愛犬3匹はすべて施設から引き取ってきた犬たち。シーアは、アメリカで犬や猫の保護活動を行なうAnimal Heavenの支援も長年続けている。
また、シーアの呼びかけによって様々な企業がホームレスの人々を助ける行動を起こしたことも。2019年2月に「心に栄養を(Feedtheheart)」というハッシュタグとともに、大手ピザチェーンのピザハットに「今週1週間、ホームレスコミュニティに毎日ピザを寄付してあげてくれませんか?」とシーアがツイートしたところ、ピザハットは「完了」とクールに返信し、ホームレスコミュニティにピザが届けられることに。
さらに、アメリカを大寒波が襲った時には、「寒波や雨に襲われているアメリカの地域のモーテルかホテルで、今夜ホームレスの人を受け入れてくれるところはありませんか?私が代金を支払います」とツイート。すると大手ホテルのハイアットが、空室の提供を名乗り出るほどの話題になった。
苦しみを乗り越え、今では世界的シンガーとして世界のために活動するシーア。彼女の心に迫る楽曲は、彼女の人生そのものをのせているからこそ、全世界の人々に支持されている。(フロントロウ編集部)