スタッフをも驚愕させるアドリブ
現在、全世界で大ヒットを記録している映画『ジョーカー』といえば、主演のホアキン・フェニックスの迫真の演技が高く評価され、“オスカー候補”との呼び声も上がっている。
DCコミックスに登場する悪役「ジョーカー」を独自の目線で描き、昔ながらのファンから若い映画ファンまで、幅広い人々に感動と恐怖を与えたホアキン演じるジョーカーだが、同作に登場するある非常に重要なシーンでの演技が、じつはホアキンによる完全なるアドリブだったことが、明らかになった。
※以下ネタバレが含まれます。
そのシーンとは、ジョーカーへと変貌を遂げつつある主人公の青年アーサーが、冷蔵庫の中身をすべて引きずり出し、そのまま中へと入るシーン。
この不可解で不気味な行動には、観客たちから「自殺を図った?」、「妄想の世界への入り口だったのでは?」、「とにかく真っ暗な閉鎖空間に入って、世俗から身を隠したかったのでは?」とさまざまな見解が持ち上がった。
『ジョーカー』の撮影監督を務めたローレンス・シャーは、米メディアFilmとのインタビューで、映画を観た後もつい誰かと議論したくなるような、この冷蔵庫のシーンは、じつは当初から脚本に書かれていたものではなく、撮影中にホアキンが突如行動にうつしたものだったと明かした。
「公衆電話のブースでのシーンや階段を上るシーンといった、いくつかのシーンについては綿密に計画されたものでしたが、そのほかのシーンについては、まったく計画されていませんでした。とくに、ホアキンが冷蔵庫に入ったときは、私たち制作陣は面食らいましたね」
「ホアキンは、もし自分がもし酷い不眠症に悩まされていたとしたら、一体どうするだろうと考えを巡らせたようです。彼がそれをどう表現するかは自由だったのですが、カメラが回り、あの演技をして見せたとき、僕たちスタッフは完全に心を奪われました。『何をしてるんだ? え、まさか、冷蔵庫に入った?』と。みんな奇妙だなと感じながらも楽しんで見守っていました」
ホアキンがアドリブで演じたのは、このシーンだけでなく、同作のトッド・フィリップス監督は、ジョーカーが最初の殺人の後にバスルームで踊るシーンについても、撮影当日に考案されたものだと明かしている。
この場面では、当初、自分の大胆な行動が信じられないアーサーが、鏡に向かって話しかける予定だったが、フィリップス監督とホアキンが議論を重ね、アーサーがダンスをすることで自身の暴力的な衝動を呑み込むといった演技となった。
このほかにも、シャー撮影監督は、アーサーが自宅で銃を暴発させるシーンについても、いつ銃弾が飛び出すかは、ホアキン以外は誰も知らなかったと明かしている。(フロントロウ編集部)