ブラッド・ピット、トランプ大統領の弾劾裁判を皮肉る
映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のクリフ・ブース役で助演男優賞を受賞したブラッド・ピットは、ドナルド・トランプ米大統領の権力乱用と議会妨害の罪を決める弾劾裁判をスピーチで揶揄。
「この名誉中の名誉をくださったアカデミーに感謝します。(スピーチに)45秒だけもらえると言われました。今週、上院がジョン・ボルトンに与えた時間より45秒多いですね」
ジョン・ボルトン前大統領補佐官はトランプ大統領の嘘を証言できる人物とされたが、トランプ大統領率いる与党・共和党がボルトン氏の証人尋問を阻止。民主主義における抑制と均衡システムの妨害だと大バッシングされるなか、共和党が過半数を占める上院ではトランプ大統領に無罪判決が言い渡された。
マーク・ラファロ、ドキュメンタリー部門での女性の活躍を称える
2020年はドキュメンタリー部門で女性が大活躍。長編ドキュメンタリー映画賞と短編ドキュメンタリー映画賞のそれぞれで、5作品中4作品において、女性が監督または共同監督を務めた作品がノミネート。これには、プレゼンターを務めた俳優のマーク・ラファロも触れずにはいられなかった。
「今年ノミネートされたドキュメンタリー作品は、私たちを日常から切り離し、他人の立場で物事を見るチャンスを与えてくれました。その経験は心地よいものだったとは言えませんが、この作品なしには経験できないものでした。うち4つを女性が監督または共同監督を務めたこれらの映画は…(※ここで10秒ほど会場から拍手喝采が起きる)今日にインパクトを与えただけでなく、これからもずっと私たちの心に響きつづけます」
アカデミー賞では2020年にノミネーションの女性の割合が過去最高値を記録。とは言え、それでも女性の割合が依然30%程度であることや、主要部門である監督賞にノミネートが期待されていた女性監督が一切入らなかったことから、高い評価はされていない。
ホアキン・フェニックス、「人間中心」という考えへの変化を呼びかける
主演映画『ジョーカー』で人生初のオスカーを手に入れたホアキン・フェニックス。2020年は、ゴールデン・グローブ賞授賞式の食事のヴィーガン化にひと役買ったり、賞レース中は同じタキシードを着ると宣言したりと、サステイナブルなムーブメントの先頭に立った彼らしい受賞スピーチとなった。
「私たちは、自然界から本当に切り離された存在になっていると思います。私たちの多くはエゴに満ちた世界観を持つという点で有罪であり、自分が世界の中心にいると信じています。私たちは自然界に侵入し、資源を略奪します。私たちは牛を人工的に受精させたうえで、彼女の赤ちゃんを奪う資格があると思っています。彼女の苦悩の鳴き声が明らかであるにもかかわらず。そして、彼女の子供のために用意されたミルクも奪い、コーヒーやシリアルに入れるのです。
私たちは、個人的な変化を怖がっているのではないでしょうか。なぜなら、それによって何かを犠牲にし、何かを諦める必要があると考えるからです。しかし、人間とは創造的で独創的なものです。私たちは、創造し、発展し、全ての生物や環境に利益をもたらす変化のシステムを備えることができます。
僕は長いこと、悪い奴でした。自己中で、時にイジワルだったし、一緒に働くのが難しいやつでした。でも、この会場にいる多くの人が、僕に2度目のチャンスをくれたことに感謝しています。そして、そういった時こそ私たちが本領を発揮できる時だと思います。つまり、お互いに助け合う時です。過去のミスを理由にお互いを抹殺する時ではなく、お互いに成長するのを助け、お互いに教えあい、お互いに償うための道しるべとなる時です」
シガニー、ガル、ブリーがアカデミー賞版ファイト・クラブで「女性の活躍」に触れる
作曲賞のプレゼンターを務めた、映画『エイリアン』のシガニー・ウィーバー、映画『ワンダーウーマン』のガル・ガドット、映画『キャプテン・マーベル』のブリー・ラーソンからは、アカデミー賞のあとにファイト・クラブを設立しようという提案があった。
シガニー:「バックステージで決めたのですが、授賞式のあとにファイト・クラブを設立することにしました」
ガル:「男性のみなさん全員を招待しますが、短パンは禁止です」
ブリー:「ごめんなさいね、これがハリウッドですから。勝者には、一生分のデオドラントと、寿司と、テキーラが与えられます」
ガル:「そして敗者には、記者のみなさんからの、女性としてハリウッドで活躍するのはどんな気持ちかという質問に答えていただきます」
シガニー:「きっと負けたくないですよ」
賃金や雇用機会など多くの場面で男女差を批判されるハリウッドに対するジャブをくり出しつつ、女性ばかりが「女性の活躍」について聞かれる問題に皮肉的に触れた3人。女性の権利拡大は男女の問題であるというメッセージが込められたジョークには、映画『ファイト・クラブ』の主演俳優であるブラッド・ピットも大笑いしながら声援をおくった。
スティーヴ・マーティンとクリス・ロック、多様性の低さにチクリ
アカデミー賞の冒頭でステージに立ったコメディアンのスティーヴ・マーティンとクリス・ロックからは、2020年は全20枠ある演技賞のうち18枠を白人が占めたことがネタに。2020年になっても、黒人のノミネートがたった1人しかいない現状にツッコミが入った。
スティーヴ:「この92年間でオスカーがどれだけ変わったか考えてごらん」
クリス:「ああ、ずいぶんと変わったよね」
スティーヴ:「そう、1929年には演技賞での黒人のノミネートは1人もいなかったんだから」
クリス:「そして2020年になった今、1人ノミネートした」
本年度のアカデミー賞の演技賞にノミネートされた有色人種は、主演女優賞と主演男優賞にノミネートされた、黒人のシンシア・エリボ(映画『ハリエット』)と、ヒスパニックのアントニオ・バンデラス(映画『ペイン・アンド・グローリー』)のみ。結果的に、主演・助演の全4部門を白人俳優が独占した。
レネー・ゼルウィガー、移民としてのバックグラウンドに触れる
映画『ジュディ 虹の彼方に』で主演女優賞に輝いたレネー・ゼルウィガーが、スピーチ中にあえてヨーロッパからアメリカに移住した両親に触れたのは、トランプ政権下での移民に対する厳しい風潮に対する反発だと思われる。
「アメリカン・ドリームを信じて、お互い以外には何も持たずにここにやってきました私の移民の家族(に感謝したい)。なんということでしょう」
ヒルドゥル・グーナドッティル、史上初達成した女性から全女性に向けたスピーチ
映画『ジョーカー』のヒルドゥル・グーナドッティルが、女性とした史上初めてアカデミー作曲賞を受賞(※)。約10秒のスタンディングオーベーションで称えられたヒルドゥルは、女性から女性へ、パワフルなメッセージをたくした。
「身体の中で音楽が弾けている女の子たちや女性たち、お母さんたちや娘たち、声を上げてください。私たちは、あなたの声を聞く必要がある」
※作曲賞は過去に劇映画部門とミュージカル部門に分けられるなどしていたが、2000年より作曲賞として1つの部門に統合。統合前にはミュージカルやコメディでの女性の受賞はあったものの、劇映画部門にあたる作品での女性の受賞はヒルドゥルが史上初。2000年に部門が統合されてからの女性の受賞も初。
ポン・ジュノ監督、大好きな監督たちを称える
外国語映画として史上初めて作品賞を受賞したほか、最多4冠に輝いたポン・ジュノ監督の映画『パラサイト 半地下の家族』。監督賞のスピーチでは、憧れのマーティン・スコセッシのほか、同じ部門にノミネートした巨匠たちに敬意を表した。
「シネマの勉強をしていた若い頃、私が心に深く刻んだある言葉があります。『最もパーソナルなことこそ、最もクリエイティブである』。これは、偉大なるマーティン・スコセッシの言葉です。学校では、マーティン・スコセッシの映画を勉強しました。ノミネートされるだけでも素晴らしい栄誉ですが、受賞するなんて思ってもみませんでした。アメリカではまだ私の映画が知られていない頃、クエンティン(・タランティーノ)はいつも私の映画を(お気に入り)リストに入れてくれました。彼は今日ここにいます。ありがとうございます。クエンティン、アイラブユー。そして私が敬愛するトッド(・フィリップス)とサム(・メンデス)。アカデミーが許してくれるならば、テキサスチェインソーを使ってこのオスカー像を5つにわって皆さんと共有したいです。ありがとうございます。明日の朝まで飲み明かします」
ジュリア・ライチャート、労働者にスポットライトを当てる
オハイオ州の閉鎖された工場が中国企業によって再開された物語に焦点を当てたドキュメンタリー映画『アメリカン・ファクトリー』が、長編ドキュメンタリー映画賞を受賞。共同監督を務めたジュリア・ライチャートが、アカデミー賞の舞台で労働者にスポットライトを当てた。
「(この映画は)オハイオと中国の物語ですが、制服を着て、毎日出勤してタイムカードを押して、家族により良い生活を与えようと頑張る人々についての、どこにでもあり得る物語です。近年、労働者はより厳しい状況に立たされています。そして私たちは、世界中の労働者たちが一致団結にしたときにこそ状況は良くなると信じています」
キャロル・ディシンガー、アフガニスタンの勇敢な少女と教師を称える
アフガニスタンで少女たちに読み書きとスケートボードを教えている団体Skateistanを追った映画『Learning to Skateboard in a Warzone(If You're a Girl)』で、短編ドキュメンタリー映画賞を受賞した共同監督のキャロル・ディシンガーは、声を震わせながら、アフガニスタンの勇敢な少女と彼女たちを育成する教師たちを激励した。
「私は2005年からアフガニスタンで働いています。そしてこの映画は、あの国の勇敢な少女たちへのラブレターです。(中略)Skateistanの教師たちは、少女たちに勇敢さを教えています。手を挙げて、私はここにいる、私には主張したいことがある、私はあのハーフパイプに挑戦する、私を止めようとしないでと言えるように教えています」
タイカ・ワイティティ監督、先住民族の子供たちにエール
映画『ジョジョ・ラビット』で脚色賞を受賞して、ニュージーランドの先住民族であるマオリの血をひく監督として初めてオスカーを受賞したタイカ・ワイティティ監督は、自身と同じバックグラウンドを持つ若者たちにエールをおくった。
「この賞を、アートやダンスや物語を書きたいと思っている世界中の先住民の子供たちに捧げます。私たちこそストーリーテラー(語りべ)の元祖であり、私たちでもここに立つことができるのです」
授賞式でのハプニングから、舞台裏の秘話、レッドカーペットの様子まで、第92回アカデミー賞授賞式の様子はフロントロウの「アカデミー賞特集」でチェックして。(フロントロウ編集部)