退学寸前の男子高校生がオスカーに行くまで
2020年のアカデミー賞授賞式の会場に、ディアンドレ・アーノルドという男子高校生がいた。ディアンドレは、映画業界で何か功績を残した若き天才でもなければ、映画界に関わったこともない一般人。
さらに彼は、通っていた米テキサス州の高校を退学させられそうになるほどの“問題児”だったという。そんなディアンドレが、なぜ業界人でも限られた人しか入ることができないアカデミー賞授賞式に入ることができたのか。
それは、彼の信念を貫いた勇気ある行動があったから。
高校3年生のディアンドレは、中学1年生の時から髪の毛を伸ばしており、それをドレッドヘアにしていた。家族のルーツがあるトリニダード・トバゴ共和国のカルチャーを称えるためにこのヘアスタイルにしていたディアンドレだが、髪の毛が長くなったせいで校内停学(※)の処分を受けてしまう。
※学校には通えるが、他の生徒と一緒に授業を受けることはできない罰則のこと。
ディアンドレの通う高校では、女子学生にのみドレッドヘアが認められていたが、眉や耳より長い場合は短くしなければいけないという校則があった。肩につくほどの長さまで髪の毛が伸びていたディアンドレは、ドレッドヘアを梳かしてポニーテールにするか、ヘアカットしなければ、卒業式に参加させられないと言われたという。
自身のルーツを表現するためのヘアスタイルが原因で退学寸前まで追い詰められたディアンドレは、学校側と真っ向から対立することを決意し、母親と一緒にドレスコードの変更を訴え続ることに。
この行動がネット上で拡散すると、俳優のガブリエル・ユニオンやシンガーのアリシア・キース、大物司会者エレン・デジェネレスといたセレブたちが支持を表明。アリシアはディアンドレに2万ドル(約220万円)を渡して、ディアンドレの行動をサポートした。
そんな著名人による支援の輪が広がり、スタイリングが難しい黒人の髪の毛事情を通して親子や家族の愛を描いた短編アニメーション『Hair Love(原題)』のクルーが、「卒業式を歩けないなら、オスカーのレッドカーペットを歩こうじゃないか」とサポートを送り、今回、ディアンドレと母親をアカデミー賞に招待した。
(『Hair Love』はコチラから視聴可能。)
ディアンドレの呼びかけによって全米で大きな注目を浴びた高校は校則を変更。ナチュラルヘアを受け入れてほしいと立ち向かったディアンドレが勝利を勝ち取った。
オスカーの費用を映画クルーが全負担
そんな勇気ある彼の行動を称えるために、『Hair Love』のプロデューサーで、ディアンドレを支持していたガブリエル・ユニオンと夫で元NBA選手のドウェイン・ワイドは、オスカー開催地ロサンゼルスまでの交通費とホテル代を自腹で負担。
映画のスポンサーであるビューティケアブランドのダヴ(Dove)は、アカデミー賞授賞式のチケットを手配し、衣装とヘアメイク代をカバー。ディアンドレと母親は、『Hair Love』のクルーとともにアカデミー賞授賞式のレッドカーペットを歩いた。
夢のような出来事はこれだけにとどまらず、『Hair Love』は、2020年のアカデミー賞の短編アニメーション賞を受賞。オスカーを獲得した記念すべき瞬間も目の前で見届けた。
(フロントロウ編集部)