バンクシーの新作は“新たなヒーロ像”
正体不明で神出鬼没のミステリアスな芸術家として知られるアーティストのバンクシー(Banksy)による新作が、イギリス南部の都市サウサンプトンにあるサウサンプトン・ジェネラル・ホスピタルのに出現した。
従来のケースとは違い、同院のマネージャーの許可を得て、救急診療部のロビーに飾られた1メートル四方の作品は、幼い男の子がナース服を着た女性看護師の人形で遊んでいる様子を描いたもの。
赤十字マークがついたエプロンにマスクをつけた姿の看護師は、“ヒーローの証”として広く認識されているマントをつけており、傍らに置かれたバスケットには、DCコミックス発のスーパーヒーローのバットマンやマーベル発のスパイダーマンといった人気ヒーローが無造作に入れられている。
これは、新型コロナウイルス感染症治療の最前線で働く医療従事者たちに対するバンクシーなりの感謝の気持ちを表現したものとみられる。
男の子が、あえて、バットマンやスパイダーマンといったお馴染みの男性ヒーローではなく、女性の医療従事者の人形を選んで遊んでいるという描写にも、世界中の医療現場で働くスタッフの大半が女性であり、その事実を忘れるべきではなく、彼女たちはもっと評価されるべきだというメッセージが込められていることが推測できる。
新型コロナウイルスの蔓延以前は、子供たちにとっての救世主や英雄はテレビや映画、マンガで見る特殊な力や人並み外れた能力をもったスーパーヒーローたちだった。
しかし、人々が史上類を見ないパンデミックを経験している今、子供たちの目に映る“真のヒーロー”は、超人的な力などなくても、ウイルスへの感染リスクの中、自らの命や安全を危険に晒して、ほかの人たちの命を救おうと懸命に闘ってくれている医師や看護師、救急隊員といった医療従事者たち。
バンクシーの新作は、“コロナ禍を生き抜く子供たち”、もしくは、コロナ禍のパニックについて大人たちから語り継がれた、“コロナ収束後の未来を生きる子供たち”の姿を連想させる作品となっている。
インスタグラムでこの作品を公開したバンクシーは、「Game Changer(ゲーム・チェンジャー)」という、日本語で「大変革をもたらす人」、「考え方を根本から変える人」といった意味となるコメントを添えて、“新たなヒーロー像”である医療スタッフたちへの尊敬を表現していた。
コロナ禍のほかの作品
バンクシーが新型コロナウイルスにまつわる風刺作品を発表したのは、今回が初めてではない。
4月中旬には、”在宅ワークの混乱”を表現したとみられる、バスルームを滅茶苦茶に荒らすネズミたちを描いた作品が公開。
さらに、その約1週間後には、バンクシーがイギリス南西部ブリストルにあるレコーディングスタジオの外壁に2014年に描いた画家フェルメールの名作「真珠の耳飾りの少女」をモチーフにした作品に突然、マスクが描き足されるという出来事も起きている。
バンクシーはマスクを描き足したのが自分だとは明言しておらず、誰がやったのかはわかっていないが、何者かが人々にマスク着用を呼びかけるために行なったものだと見られている。(フロントロウ編集部)