白人警官に殺される黒人
2020年5月に、非武装の黒人ジョージ・フロイドが白人警官に殺害された事件を受けて、黒人コミュニティが存在する世界各地で抗議デモが大規模に発生している。黒人の命にも価値があるという意味の「Black Lives Matter(ブラック・ライヴズ・マター)」がスローガンに掲げられているけれど、このムーブメントは今に始まったことではない。
2012年に非武装の黒人高校生が、地元の自警団ボランティアに射殺された事件をきっかけに始まり、2014年にも非武装の黒人が白人警官に殺される事件が相次いだ。7月に警官によって胸や頭、首を押さえつけられ窒息死したエリック・ガーナーは、息を引き取るまでに11回も「I Can’t Breath(息ができない)」と訴えており、また、フロイド氏も同じ言葉を死の直前に話していたことから、Black Lives Matterの第2のスローガンとなっている。
アカデミー賞、黒人の人権を支持した映画を排除
ガーナー氏が亡くなった2014年には、12月に、アメリカで黒人の人権のために闘ったキング牧師を主人公にした映画『グローリー/明日への行進』が公開されている。今作は高い評価を受けていたにもかかわらず、第82回アカデミー賞では作品賞と主題歌賞の2部門だけにノミネートされ、受賞は主題歌賞においてのみとなった。しかしこの結果は、主役マーティン・ルーサー・キングを演じたデヴィッド・オイェロウォからしてみると、予想できていたことだったよう。デヴィッドは英『Screen Talks live Q&A』のなかで、こう明かす。
「6年前、『グローリー/明日への行進』はエリック・ガーナーが殺された時と同時期に公開されました。“I Can’t Breath(息ができない)”が起こった時です。『グローリー/明日への行進』のプレミアで、みんなでI Can’t Breath Tシャツを着てプロテストをしたんです。するとアカデミーのメンバーがスタジオやプロデューサーに連絡をよこし、『なぜあんなことができるんだ?なぜ奴らは事態を引っかき回すんだ?』、そして『あの映画には投票しない。なぜなら、彼らはあんなことしていい立場にないんだから』と言いました。人々があの映画が獲得すべきだったと思ったものを何も受賞できなかったのは、それがひとつの理由ですよ。そして“OscarsSoWhite(オスカーは真っ白)”が生まれた。彼らは、自分たちで価値があると決めたものに基づいて、ひとつの映画を否定するために自分達の特権を使ったんです」
黒人差別と闘った公民権運動の時代を描いた今作のキャストが、Black Lives Matterに賛同するのは至極当然のこと。しかしアカデミーはこの声を否定したという。デヴィッドの告発は、本作のプロデューサーであり、黒人差別を明確に説明したドキュメンタリー『13th -憲法修正第13条-』やドラマ『ボクらを見る目』も手掛けてきたエイヴァ・デュヴァーネイも、「本当の話」と反応。
これを受けて、アカデミーは、「エイヴァ&デヴィッド、あなたたちの意見は私たちに届いています。受け入れられません。向上していくことを誓います」とコメントしたが、その具体性のない内容には関係者たちから多くの批判が向けられている。
白人ばかりで問題となっていたアカデミー賞
本作が対象となった2015年と、その翌年の2016年のアカデミー賞といえば、主要演技部門の候補者が全員白人であり、監督賞もすべて白人男性だったことで、黒人や女性を排除していると大きな批判の対象となり、SNS上では「OscarsSoWhite(オスカーは真っ白)」というハッシュタグが大きく拡散された。
また、本作も含まれる歴史映画といえばアカデミー賞が好むジャンルのひとつ。2005年の『カポーティ』や2008年の『ミルク』、2010年の『英国王のスピーチ』など、これまで多くの歴史映画が、アカデミー賞にノミネートされ、受賞を果たしている。
そのような背景から、『グローリー/明日への行進』がアカデミー賞で事前の高い評価に見合うノミネートや受賞がなく、アカデミー賞全体でもノミネートや受賞者が白人ばかりであることは、当時から大きな問題となっていた。
ちなみに『グローリー/明日への行進』は、パラマウント・ピクチャーズがBlack Lives Matter(ブラック・ライヴズ・マター)をサポートするために、6月いっぱい全米のすべてのデジタルプラットフォームを通して無料配信されている。(フロントロウ編集部)