ドナルド・トランプ米大統領の娘イヴァンカ・トランプが「豆の缶詰」を持ち、笑顔でポーズを決める写真をSNS上で公開したことが物議を醸している。一体何が問題? 背景を解説。(フロントロウ編集部)

イヴァンカ・トランプ、「豆の缶詰」片手に笑顔の写真が問題視

 アメリカのドナルド・トランプ大統領と前妻で元モデルのイヴァナ・トランプの長女であるイヴァンカ・トランプが、自身のツイッターやインスタグラムに投稿した、1枚の写真が議論の的となっている。

 イヴァンカは、米食品チェーン、ゴヤ・フーズ(Goya Foods)の定番商品であるブラックビーンズの缶を片手にカメラに向かって笑顔を振りまいているが、英語とスペイン語で「ゴヤなら美味しくなくちゃ」という同社のスローガンが添えられたこの投稿には、多くの批判の声も集まっている。

 3児の母であり、一部主婦層からも憧れの眼差しを浴びる存在の彼女が、“豆の缶詰め”をアピールすることの何が問題なのだろうか?


ゴヤ・フーズをめぐる不買運動

 じつは、イヴァンカが手にしている缶詰の製造販売元であるゴヤ・フーズは、ここ最近、一部消費者たちの間で不買運動が巻き起こっている企業。1936年創業の同社は、ヒスパニックが経営するアメリカ最大の食品会社として知られている。

画像: ゴヤ・フーズをめぐる不買運動

 SNS上で「BoycottGoya(ゴヤをボイコットせよ)」、「Goyaway(ゴヤなんてどっかへ行け(※)」といったハッシュタグを使った不買運動が勃発するきっかけとなったのは、同社の最高責任者であるロバート・ウナヌーCEOが7月9日にトランプ大統領のお膝元、ホワイトハウスで行なった、ヒスパニック系の人々にとっては衝撃的なスピーチだった。

※「Goya」 と「Go away(どこかへ行け・失せろ)」をかけた造語。

 トランプ大統領は、この日、ヒスパニック系企業のリーダーたちを招集して会合を行ない、ヒスパニックコミュニティの教育や経済面での待遇改善を目指す“HispanicProsperity Initiative(ヒスパニック繁栄戦略)”と呼ばれる大統領令に署名。

画像: 左端がゴヤ・フーズ社のCEOロバート・ウナヌー。

左端がゴヤ・フーズ社のCEOロバート・ウナヌー。

 これを受け、ウナヌーCEOは、トランプ大統領が耳を傾けるなか、「(アメリカという国は)トランプ大統領のような起業家のリーダーを擁することができて恵まれている」、「トランプ大統領はこの国を築き、成長させ、反映させるために遣わされた」、「我々には素晴らしい建国者がいる。リーダシップと大統領、この国に祈りを捧げ、今後も反映し、成長し続けていくことを願っている」と述べた。

 一見、自然な流れにも感じるウナヌーCEOのトランプ大統領に対する賛美だが、ヒスパニック系の人々はこれまで、トランプ大統領の反ヒスパニック的な政策により、散々苦しめられてきた存在。

 トランプ大統領は就任前の選挙キャンペーン中から、メキシコからの移民(ヒスパニック)たちを「レイピスト」呼ばわりしたり、当選した暁にはメキシコとの国境に壁を建設すると宣言したり、前任のバラク・オバマ元大統領が発令した、幼少期に家族に連れられて米国に入国し、やむなく不法滞在となった若者の強制送還を免除する措置(DACA)の撤廃を推進するなど、ヒスパニック系だけではないが、移民に対して徹底的な強硬政策をとっていることで知られる。

画像: DACAは「Deferred Action for Childhood Arrivals(幼少期に米国に到着した移民への延期措置)の略称。写真は2020年6月中旬、ワシントンにある 米連邦最高裁前でDACA撤廃反対を訴えるDACA支持者たち。

DACAは「Deferred Action for Childhood Arrivals(幼少期に米国に到着した移民への延期措置)の略称。写真は2020年6月中旬、ワシントンにある 米連邦最高裁前でDACA撤廃反対を訴えるDACA支持者たち。

 ヒスパニック系を代表する企業であるゴーヤ・フーズの代表が、これまでヒスパニックの人々を制圧してきたトランプ大統領を手放しに称賛したことには反発の声が上がり、11月の大統領選挙でトランプ大統領が再選されることなどがあってはならないと危惧する反対派の人々がゴーヤ・フーズのボイコットを呼びかけているというわけ。


有名セレブもボイコットに参加

 セレブでは、グラミー賞受賞シンガーのジョン・レジェンドの妻でモデルであり、“SNSの御意見番”としても知られるクリッシー・テイゲンが、ツイッターをじてウナヌーCEOのスピーチに反応。「何ですって? 恥を知りなさい。豆がどんなに美味しくたってどうでもいいわ。バイバイ」とゴヤ・フーズの製品を今後購入しないことを宣言。

 ミュージカル『ハミルトン』でピューリッツァー賞やトニー賞ほか数々の賞を受賞した作曲家兼俳優のリン=マニュエル・ミランダは、「僕らはパンデミック中にパンの焼き方だって覚えんだから、メキシカン・アドボのスパイスの作り方だって覚えられるさ。さよなら」と、もうゴヤ・フーズの人気スパイスの力を借りる必要はないとコメントした。

 プエルトリコ出身の両親を持つ民主党議員で「AOC」の愛称で親しまれるアレクサンドリア・オカシオ・コルテス議員も「ほら、『メキシカン・アドボを自分で作る方法』をグーグル検索する音が聞こえてきますよ」と皮肉めいたツイートで、ウナヌーCEOの発言を揶揄した。


イヴァンカの購買アピールは連邦法に抵触?

 イヴァンカがゴヤ・フーズの豆の缶詰をアピールする投稿は、そんな反対派に対抗する目的と、支援者たちにゴヤ・フーズを購入して支持を示そうと呼びかける目的があるものとみられる。

 トランプ大統領や共和党に対して好意的なFOXニュースは、トランプ政権を支持する人々がボイコットならぬ“バイコット(Buy-cott)”と称して、ゴヤ・フーズの買い占めや大量購入を行なっていると伝えており、これにはトランプ大統領もツイッターを通じて反応。「ゴヤ・フーズは快調だ。極左勢力の中傷マシーンは逆火を起こしたようだな。人々は狂ったように買っているぞ! 」と皮肉たっぷりにコメントした。

 しかし、イヴァンカによるSNSでのゴヤ・フーズ商品の購買アピールは、連邦法に違反した行動とみなされる可能性がある。

 ご存知の通り、もとは自身の名前を冠したファッションブランドを運営していたイヴァンカは、トランプ大統領の就任後、夫で実業家のジャレッド・クシュナーとともに大統領補佐官に任命。ホワイトハウスで働いているが、政府に仕える身である彼女が、公のプラットフォームであるSNSを使って一般企業の商品を宣伝するというのは、アメリカ合衆国における政府倫理法に違反している可能性がある。

画像: イヴァンカの購買アピールは連邦法に抵触?

 政府倫理法の宣伝活動に関するガイドラインには、「行政機関の職員は、局や行政機関がある団体(非営利団体も含む)や製品、サービス、個人を宣伝するために、自身の政府における立場を利用してはならない」というルールが記載されている。

 トランプ大統領の広報は、イヴァンカの投稿に関して、個人的な支持を表明したまでだと主張。「イヴァンカはアメリカに深く根差した、強力なヒスパニック系のビジネスを誇りに思っています。彼女には、個人的な支持を表明する権利があります」と声明を通じて強調しているが、2017年まで政府倫理局の局長を務めたウォルター・ショーブ弁護士は、「ゴヤ・フーズに関する(イヴァンカの)ツイートは、倫理違反です」とツイッターで明言している。(フロントロウ編集部)

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