黒人の人権のために声をあげているテニスの大坂なおみ選手が、アマード・アーベリーとトレイボン・マーティンの親達から感謝のメッセージを受け取り、目をうるませた。アマードとトレイボンの事件とは?(フロントロウ編集部)
大坂なおみ選手に遺族が感謝
テニス全米オープンの各試合で、これまでに警官に殺された黒人の名を記したマスクを着用して登場している大坂なおみ選手。これまでに、「ブリオナ・テイラー」「イライジャ・マクレイン」「アマード・アーベリー」「トレイボン・マーティン」「ジョージ・フロイド」のマスクを着用してきた大坂選手に、ある人々からメッセージが届いた。それは、トレイボン・マーティンの母親と、アマード・アーベリーの父親。

アマード・アーベリーと書かれたマスクを着用する大坂選手。
試合後にインタビューに応じた大坂選手は、その際に、2人からのメッセージ動画が届いていることを知り、その場で視聴。まずトレイボンの母親が、そして続けてアマードの父親が、大坂選手に向けてこう話した。
トレイボン青年の母親:「大坂なおみに感謝を伝えたい。マスクをカスタマイズして、トレイボン・マーティン、そしてアマード・アーベリーとブリオナ・テイラーのことを伝えてくれたことに。私は、心の底からあなたに感謝しています。これからも頑張って。全米オープンでの快進撃を応援しています」
アマード青年の父親:「私達の家族をサポートしてくれてありがとうございます。あなたがしていることに神のご加護を。あなたは私達家族と息子をサポートしてくれている。私の家族は本当に、本当に、感謝しています。神のご加護を」
動画を見た大坂選手は、目をうるませたあと、こう語った。
「これ(動画)は自分にとってすごく意味があること。彼らは本当に強い。自分がもし彼らの立場だったら、何が出来るか分からない。今の時点では、自分は(黒人の)状況を知ってもらうための1つのツールのようなものかなと感じてる。それは痛みを和らげることはないけど、彼らが必要としていることを手助けできることができればなと思う」
“I feel like I’m a vessel at this point in order to spread awareness.”
Trayvon Martin’s mother and Ahmaud Arbery’s father thanked Naomi Osaka for representing their sons on the masks she’s been wearing throughout the US Open. pic.twitter.com/0IHBU7pvx4
— espnW (@espnW) September 9, 2020
17歳の少年トレイボン・マーティンに何が起きた?
トレイボン・マーティンは、黒人の人権を叫ぶ「Black Lives Matter(ブラック・ライヴズ・マター)」が起こるきっかけとなった事件の被害者。2012年2月26日に、当時17歳だったトレイボン少年が歩いていたところ、地元の自警団ボランティアだった当時28歳のヒスパニック系アメリカ人であるジョージ・ジマーマンが、トレイボンがショップを強盗したと思い込み、つきまとった。2人は口論になり、ジマーマンはトレイボンを射殺。17歳の少年は武器などを持っていたわけでもなく、現場にはお菓子などが散らばった。
ジマーマンは当初逮捕されなかった。しかし多くの人がトレイボンのために行動し、その後ジマーマンは逮捕され第2級殺人に問われたけれど、2013年に無罪判決に。そしてジマーマンは、2016年に、トレイボンの射殺に使用された拳銃を「アメリカ史の一部を所有する機会」と謳ってオークションに出品した。さらに2019年には、遺族や弁護士、出版社など複数を相手に、なんと約110億円(1億ドル)の損害賠償を求める裁判を起こしている。

25歳の青年アマード・アーベリーに何が起きた?
2020年2月23日に、近所をジョギングしていたアマード・アーベリー青年が、白人の元警官である64歳のグレゴリー・マクマイケルと、彼の息子である34歳の息子トラヴィス・マクマイケルに車で執拗に追われ、3度発砲されて殺された。
この事件でもまた、当初2人は逮捕されなかった。しかし、アマードが殺される瞬間を映した映像がインターネット上で拡散され、多くの人々が声をあげたことで、事件発生から2ヵ月半後にようやく2人は逮捕された。また、3人の後ろを車で追いながら動画を撮っていたウィリアム・ブライアンも逮捕されている。3人は、容疑を否認している。

黒人が警官に殺される事件は、アメリカで何十年にもわたり頻発している。大坂選手は全部で7枚のマスクを用意してあると明かしており、全米オープンの決勝まで進出できれば、そのすべてを見せることができる。(フロントロウ編集部)