ラッパーのカーディ・Bとメーガン・ジー・スタリオンの「WAP」について、男性コメディアンのラッセル・ブランドが「フェミニズムかそうでないか」を解説し、大きな批判をあびた。(フロントロウ編集部)

「WAP」はフェミニズムか?

 ラッパーのカーディ・Bメーガン・ジー・スタリオンのコラボ曲で、その過激な歌詞やミュージックビデオが大きな話題となった「WAP」。曲名は、日本語では「濡れたアソコ」という意味の「Wet Ass Pussy」の頭文字を取ったもので、そのタイトルが示す通り、歌詞やミュージックビデオはかなり卑猥なものに仕上がっている。

 その楽曲やイベントでの衣装などが基本的に過激であるカーディは、女性の性的搾取に賛同しているわけでは全くなく、自分達の身体は自分達のものであるというスタンスのもとに様々なセクシーな動画や発言をしてきており、フェミニストであることを公言している。

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 音楽界、とくにラッパー界では、男性が性的なアピールをしても問題はないどころか称賛され、搾取されることにもならないけれど、カーディのように女性が性的アピールをすると様々な問題が起こる。そのため、カーディの楽曲やそのMVには意義があるとする一方で、カーディに主体性があったところで“ポルノ”は女性をエンパワメントすることにはならないという意見も。

 そんななか、ある1人のコメディアンが、「WAP」は「フェミニストの傑作かポルノか?」というタイトルの約17分半の動画を公開して大炎上した。なぜなら、その動画を公開したのは、男性であるラッセル・ブランドだったから。

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男性が「フェミニズムとは何か」を“定義”する?

 女性の権利を男性のものと公平にするために、男性としてできることはもちろんある。その視点から活動する男性セレブも多く、俳優のベネディクト・カンバーバッチは、女性共演者よりも自分のギャラが高い仕事は断ると宣言したり、ミュージシャンのジョン・レジェンドは育児を主体的にしていたりすることで知られる。

 しかしラッセルは動画のなかで、女性のセクシャリティのパワーに気づいているとしながらも、「WAP」は進歩を見せているかについては疑問に思うとし、男性によって作られた価値観を再構築することは平等を成し遂げるのだろうかと話を展開。ラッセルの話した内容にも批判はあれど、まずもって、男性である彼が何がフェミニズムでありそうでないか、何が女性をエンパワメントするかしないかについて話したことに批判が殺到。男性が女性に上から目線で物事を説明したがるマンスプレイニング(※)だと指摘された。

 ※男性という意味の英単語Manと、説明するという意味の英単語Explainingを合わせた単語。女性は男性である自分より物事を知らない・分かってないという男性の差別意識を指摘する言葉。

 インターネットユーザーからは、こんな意見が寄せられた。

「何が女性をエンパワーするもので、何がそうでないかを決めることは男性のものだと考えている男性に飽き飽きしてる」

「男性が、何がフェミニズムであるかと意見することはいつも恐怖だよね」

 そしてコメディアンであるデボラ・フランシズ・ホワイトは、「心底、ラッセル・ブランドにフェミニズムを教えてもらいたくない」と発言。さらに作家のソフィア・ブノワは、「この動画のお気に入りは、タイトルが“フェミニズムの傑作かポルノか”ってとこだね。まるで物事はこの2つのカテゴリー“だけ”に収まるかのように」と、ラッセルの視野の狭さを指摘した。

 また、脚本家のモリー・グッドフェローは、フェミニズムについて語る動画の中でラッセルが着ていたトップスがかなり胸元が開いているものであったことから、女性であればその時点で話を聞いてもらえない、性的モノ化されるという皮肉を込めて、「もしあなたがそんなに肌を見せるのであれば、私は真剣に話を聞けないや。ごめんね」と皮肉った。

黒人女性の立場は男性とも白人女性とも違う

 そして別の重要な角度からの指摘も。カーディやミーガンも黒人女性であり、黒人女性は、とくにアメリカで、白人女性の間のフェミニズムからも、黒人男性の間の人種差別反対運動からも除外されてきた歴史がある。しかしラッセルは動画の中で、白人女性であり権力を持ったイギリスの元首相マーガレット・サッチャーを例として取り出した。

 このことに怒りをあらわにした黒人女性達は多く、作家のボル・ババロラは、「セクシャリティにおける人種とジェンダーの影響と、“黒人女性”があれを堂々と取り戻してるって点が考慮されていない分析は、クレイジーだし歴史を無視してる」といった意見が寄せられた。また、俳優のマシーン・ガン・ケイルはこうツイートしている。

「まじで、あなたは自分の場所にいるべきだった。あなたがやっていることは、黒人女性に対するミソジニー(※)。黒人女性がどう自分達を表現するかを“選んだ”ことに、あなたが批評する場所は“ゼロ”。あなたが自分は意識が高いと見せかけているのはズレているし、人種差別が見えてる」
 ※女性嫌悪と訳されることが多い。しかし、例え“女好き”と言われる男性であっても、“女性の体”が好きなだけで、女性のことを人としては軽視している場合も非常に多く、それもミソジニーにあたる。また、女性自身もミソジニーであることは少なくない。オックスフォード辞書では、「女性に対する嫌悪、軽視、根深い偏見」とされている。

(フロントロウ編集部)

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