『モンスターハンター』で問題となった人種差別表現について、ポール・W・S・アンダーソン監督やジン・オウヤン、ミラ・ジョヴォヴィッチが反応した。(フロントロウ編集部)

『モンスターハンター』に人種差別表現

 カプコンによるゲームシリーズをハリウッド映画化した『モンスターハンター』の一部セリフが問題となり、世界に先駆け公開された中国では1日で上映中止となった。

 問題のシーンでは、オーストラリア人兵士と中国人兵士が、「このニーズ(ひざ)は何?」「チャイニーズ!」という言葉を交わしている。これは、“ニーズ”で終わる言葉を並べて中国人と日本人の外見をバカにする、アメリカで昔からある差別的表現が基になっていると見られ、「中国人、日本人、汚いひざ、これを見て/チャイニーズ、ジャパニーズ、ダーティーニーズ、ルックアットディーズ」という内容のもの。

 しかしこのセリフは、中国人兵士を演じた中国系アメリカ人俳優のジン・オウヤンが即興で言ったものであり、その意図は、中国系の人々に中国系である誇りを感じさせるものだったという。

 また、このシーンの中国語字幕では前述の差別的表現を彷彿とされる翻訳にはなっていないけれど、一方で、男性は尊厳を持って簡単に膝をつくべきではないという中国の口語を引用しており、「男はひざの下に金を持っている。天国と母親にしかひざをつきはしない」といった意味の字幕となっていたと米Varietyは報じた。それによってアメリカの人種差別に対する別の角度からの批判もあがることになり、インターネット上では、「あなたのひざの下に誰がいるって?中国人?」「このひざはなに?(白人警官にひざで首を押さえつけられて死亡した黒人の)フロイド、息はできる?」といったコメントが確認された。

監督や俳優がシーンの意図を説明

 これを受けて、『モンスターハンター』の制作会社のうち1社が謝罪し、該当のシーンを削除。そして本作で監督を務めたポール・W・S・アンダーソン監督も、米Deadlineに謝罪文を発表した。アンダーソン監督は『バイオハザード』シリーズを成功させた人物であり、『モンスターハンター』の映画化においては、カプコンの世界観を大切にし、正義を貫くことに責任を感じていると話していた。

画像1: 監督や俳優がシーンの意図を説明

 「私たちの映画『モンスターハンター』におけるセリフが、中国の一部観客の気分を害してしまったことについて悲しく思っています。このセリフ、そしてその翻訳が引き起こした不安や不快感に対して謝罪します。『モンスターハンター』は楽しいエンターテイメントとして制作されました。その内容が意図しない怒りを引き起こしてしまったことを残念に思います。私たちは作品から、該当のセリフを取り除きました、誰かに対する差別的、軽蔑的メッセージを送ろうとしたわけではありません。この映画の芯の部分は、団結なのです」

 また、該当のシーンで中国人兵士を演じたMCジンことジン・オウヤンは、インスタグラムに動画を公開し、セリフやシーンの意図を説明した。ジンは、ソロの中国系ラッパーとして初めてアメリカのメジャーレーベルと契約した経歴を持ち、中国本土でも知名度を誇る。彼は中国系として声をあげてきた人物であり、コメント欄には、彼のこれまでの活動に感謝する中国系のファンの声も多く見られた。

 「あの瞬間は彼が誇りを持って自分は中国人兵士だと宣言する時だというのが、あの時の感情であり、そう思ってあのキャラクターを演じた。彼のひざだけでなく、彼の腕、彼の頭、彼の心がね。そしてこれは、あれ(差別的表現)に関連するものでは全くない。なぜ私がモヤモヤしていて悲しみを感じているかといえば、このシーンは中国の観客が『イエス!中国人の兵士がいるぞ!』となる瞬間のはずだったから。それだけなんだ。このように別の捉えられ方をしてしまったことで、本当に、本当に、本当に悲しく思っている。でも同時に、誤解した人や、バカにしていると感じた人には、心から謝罪する」

 そしてジンの動画には、『モンスターハンター』で主演を務め、アンダーソン監督の妻でもあるミラ・ジョヴォヴィッチもコメントしている。

画像2: 監督や俳優がシーンの意図を説明

 「あなたが謝らなくてはいけないと感じたことが悲しい。あなたはいつも、自分が中国系であるということに誇りを持ち、声をあげてきた素晴らしい人。映画のなかであなたが即興で言ったセリフは、人々に誇りを感じさせるためのもので、侮辱するものではなかった。私たちはその歴史背景についてリサーチをすべきだったし、その責任は100%私たちにある。でも、あなたはなんにも悪いことはしていない!あなたを含む私たちは、誰も“汚いひざ”の表現を聞いたことがなかった。不運なミスであり、そして中国語翻訳も助けにはならなかった。ジン、私たちはあなたを大切に思っているし、この楽しくエキサイティングなプロジェクトであなたと働けたことを誇りに思っている。この出来事があなたをがっかりさせないことを祈ってる。私たちがすべきだったデューディリジェンス(企業がすべき注意義務・努力)をせず、第二次世界大戦の時期にあった表現を見つけられず、このような騒ぎを引き起こしてしまったのは、こちら側のミス。ジン、私たちはあなたを愛してる!」

 3人の言葉からは、あの言葉を使って中国系の観客を鼓舞しようとしたものの、その描き方が適切な形に落とし込めなかったという背景が伺える。『モンスターハンター』は、中国で上映が再開されるかどうかは不明。(フロントロウ編集部)

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