女性が排除されてきたオスカー監督賞
映画の祭典として有名なアメリカのアカデミー賞は、2021年に93回目を迎える。しかし、そんな長い歴史を持つアカデミー賞の受賞者や候補者が「男性」「白人」に占められてきたことは長年問題となってきた。とくに監督賞は、アカデミー賞に限らず多くの映画祭で女性がいまだに排除されており、アカデミー賞の監督賞が女性監督の手に渡ったのは、90年以上の歴史の中、2009年に『ハート・ロッカー』のキャサリン・ビグロー監督が受賞したたった1度のみで、女性監督のノミネーション回数も5回しかない。
しかしある映画賞の結果を受けて、2021年こそは、アカデミー賞監督賞で女性が複数人ノミネートされるのではないかと話題になっている。
ついに女性が“複数人”ノミネートもあり得るか
ニューヨーク映画批評家協会賞(NYFCC)は、批評家によるアメリカで最も古い映画賞。NYFCCで最優秀作品賞を受賞したものは、1935年より、必ずアカデミー賞の主要な分野にノミネートされてきたという歴史がある。
そして今年、NYFCCの最優秀作品賞を受賞した作品は『ファースト・カウ』で、女性監督のケリー・ライヒャルト監督が手がけた。さらに、今年の最優秀監督賞も、なんと女性監督! 『ノマドランド』を手掛けたクロエ・ジャオ監督が受賞した。ジャオ監督は、マーベル映画『エターナルズ』の監督としても注目を集めている。
NYFCCの作品賞と監督賞を女性監督が受賞したことで、米Varietyは、2021年のアカデミー賞監督賞に、女性が複数人、それどころか男性監督よりも多くノミネートされる可能性があるのではないかと予想する。例えば、映画『Promising Young Woman(プロミシング・ヤング・ウーマン)』のエメラルド・フェネル監督や、『One Night in Miami(ワン・ナイト・イン・マイアミ)』のレジーナ・キング監督の名前が予想にあがっている。
アカデミー賞といえば、演技賞の全ノミネートを白人が占めた2016年に、社会全体を巻き込む大批判を受け、2020年までに女性や白人以外の人種の会員数を2倍にするという目標を設定。そして今年2020年にその目標を達成し、現在は、2025年までの様々な目標のために取り組んでいる。
これまではほとんどの年に、5枠あるノミネートを男性が独占してきた監督賞。複数人の女性監督がノミネートされるかもということが話題になることも少し悲しいけれど、ぜひ実現してほしい。注目の女性監督作品は、以下の通り。
アカデミー賞注目の女性監督作品4選
『ファースト・カウ』/ケリー・ライヒャルト監督
1820年のアメリカ。クッキーと呼ばれる腕利きの料理人フィゴウィッツは、毛皮を取る猟師たちのグループに加わる。そこで中国人のルーと仲良くなり、お金儲けをするチャンスを狙う2人は、近所に住むお金持ちが持つ牛からミルクを盗んで商売を始めることに…。
『ノマドランド』/クロエ・ジャオ監督
現代の遊牧民(ノマド)…。世界経済に衝撃を与えたリーマンショックで、企業の倒産とともに、長年住み慣れたネバダ州の住処を失った60代の女性ファーン。彼女は、キャンピングカーに思い出もなにもかもすべてを乗せて、車上生活者となることを選ぶ。“現代のノマド(遊牧民)”として、季節労働の現場を転々としながら、行く先々で出会う他のノマド達と心を通わせながら、ファーンの、誇りを持った自由な旅は続く…。
『プロミシング・ヤング・ウーマン』/エメラルド・フェネル監督
成績優秀で医学部に通っていたキャシーは、ある出来事をきっかけに医学部を中退。実家に戻り、コーヒーショップで働いている。しかし夜になれば、彼女は豹変する。ナイトクラブに行き、女性をレイプしようとする男性に復讐を加えていった。彼女の過去に一体何があったのか。物語が進むにつれて明らかになる彼女の経験や思いとは。
『ワン・ナイト・イン・マイアミ』/レジーナ・キング監督
1964年のアメリカ。あるホテルの一室に、プロボクサーのモハメド・アリ、公民権運動を率いたマルコム・X、ミュージシャンのサム・クック、アメフト選手のジム・ブラウンが集まる。若かりしモハメド・アリが世界王者となったことを祝福しに集まった4人だったけれど、公民権運動が起こるなか、黒人の1人として何ができるのかという問題について熱い議論を交わす…。
第93回アカデミー賞は、2021年3月15日にノミネーションリストが発表され、4月25日に授賞式が開催される予定。アカデミー賞授賞式は、リモートでなく対面で開催される予定。(フロントロウ編集部)