米アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーが、2020年目標を達成。一方でまだまだ根深い差別構造を改善するため、2025年までの新たな目標も発表した。(フロントロウ編集部)

アカデミー賞、女性や非白人の会員数が倍に

 その会員の多くが「男性」で「白人」であることが問題視されてきた米アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーが、今年2020年までの目標としてきた、女性や白人以外の人種の会員数を倍にするという目標を達成した。

 2015年に1,446人だった女性会員は3,179人に、554人だった白人以外の人種の人々が1,787人に、そして747人だった国際会員は2,107人となった。

 とはいえ世界では人口の半数を占める女性が、アカデミーメンバー9,412人(※)のなかでは34%となっている。また、2015年にアメリカ進歩センターが発表したところによると、アメリカにおける人種比はラテン系25%、アフリカンアメリカン12.7%、アジア系7.9%となっており、合計で45.6%にのぼるが、アカデミーメンバー内では19%と少ない。
 ※アカデミー賞は会員リストを公式には公表していない。この数字は、米大手映画メディアVarietyによるもの。

画像: 2015年アカデミー賞の受賞候補者たち。

2015年アカデミー賞の受賞候補者たち。

 多様性を拡大するために舵を切ったアカデミーだけれど、2020年までの目標を達成してもなお浮かび上がるアンバランスさに、差別問題がどれだけ根深いものかを感じさせられる。ちなみに、2015年時の会員数は6,446人程度とみられ、女性の割合は22%、白人以外の人種は8.5%だった。

まだまだ残るアカデミー賞の差別構造

 2015年と2016年に、演技賞の全ノミネートを白人が占めたことで「OscarsSoWhite(オスカーは真っ白)」というハッシュタグがトレンド入りするほどの大問題となり、2016年に2020年までの目標を取りまとめたA2020が設定された。2017年にはMeTooムーブメントがハリウッドから世界へ波及したことも追い風となり、会員数の目標を達成したアカデミー。

 しかし会長のデヴィッド・ルビン氏は、「アカデミーはA2020の目標を達成しました。しかしこの時を心から見つめると、私達はさらにどれだけのこと成し遂げなくてはいけないのかに気がつきます。そして私達は、耳を傾け、学び、挑戦を受け入れ、自分自身やコミュニティで責任を取っていかなければいけません」と声明を出し、映画芸術科学アカデミーは、2025年までの新たな目標Academy Aperture 2025を発表した。

画像: まだまだ残るアカデミー賞の差別構造

白人男性会員は自分の興味のある映画しか見ていない?

 アカデミー賞では、投票権を持つ会員を白人男性が多く占めることで、白人男性が好む作品がノミネートされたり、受賞したりしているという指摘が多かった。事前評価が非常に高かったにもかかわらず、監督賞にノミネートされることはなかった2019年全米公開の映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』のプロデューサーは、アカデミー賞向け上映会では観客がほとんど女性だったことについて、「悪意のある拒絶ではないと思っています」としたうえでこう語っている。

「これは、完全に無意識の偏りですよ。(投票権を持つ)男性が群衆になって上映に来たかどうかはわからないし、彼らがいつDVDを受け取ったのかも、見たのかもわかりません」

 また、俳優のキャリー・マリガンも、「すべての作品を観たと証明できないかぎり、投票できるべきじゃないと思います。テストがあるべき。取り残された映画は、疑いの余地なく素晴らしいものですよ」と話したことがある。

画像: 『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』の撮影現場。

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』の撮影現場。

 このような指摘を受けて、Academy Aperture 2025の目標のひとつには、その年にリリースされた映画を見ることができるアカデミー会員専用のストリーミングサービスを整備することを決定した。

Academy Aperture 2025の目標は他にも

 そのほかのAcademy Aperture 2025の目標は以下の通り。

・特別委員会を設立し、作品中でも撮影現場でも、平等な雇用と表現を促進するためのガイドラインを2020年7月31日までに制作する。
・最優秀作品賞の候補枠を10作品で固定する。
・映画芸術科学アカデミーの理事会や運営陣に対し、無意識の偏見を正すトレーニングを義務化する。アカデミー会員にもトレーニングの機会を提供する。
・映画芸術科学アカデミーの理事会において、就任期間は1期を3年として最大で2期とする。2期を終えたあとは2年を挟めば 再び就任可能 とするが、生涯での最大就任期間は12年。
・人種や歴史、そして映画製作に関する座談会『Academy Dialogue: It Starts with Us』シリーズを開催していく。
・アカデミー映画博物館は、映画業界における人種差別を文脈化するための団体を設立する。
・アカデミー映画博物館の館内には、これまで取り上げられてこなかった社会グループの人々にスポットを当てたコーナーを作る。
・アカデミー映画博物館は、差別に対峙するための公共プログラムやエキジビションを組むため、20を超える映画製作者や団体とパートナーシップを結ぶ。
・Academy Aperture 2025の進捗状況を監視する部署を設立する。
・映画芸術科学アカデミーに関係するすべての従業員は、職場の包括性に関して、新たに設立された従業員向け機関にアクセスできる。

(フロントロウ編集部)

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