キャリー・マリガン主演の『Promising Young Woman(プロミシング・ヤング・ウーマン)』は、性犯罪者に復讐する衝撃作。そこに込められた思いとは。(フロントロウ編集部)

キャリー・マリガンが性犯罪者に復讐

 映画『17歳の肖像』や『プライドと偏見』で知られるキャリー・マリガンが主演した、性犯罪者に復讐する映画『Promising Young Woman(原題)』が話題沸騰となっている。

 ドラマ『キリング・イヴ/Killing Eve』の脚本家としてエミー賞にノミネートされた俳優/脚本家/監督のエメラルド・フェネルが手掛け、そのシリアスなテーマながらも、復讐劇、ラブコメ、スリラーの要素が絶妙に絡まり合う本作は、アカデミー賞ノミネートも有力視されている。

 “有望な若い女性(Promising Young Woman)”として、昔は医学部に通っていた優秀な女性キャシーは、過去のある出来事から医学部を中退し、今はコーヒーショップで働いている。しかし夜になるとクラブへ通い、酔った彼女を上手いこと家へ連れ込む男たちへリベンジを果たす。そんな日々のなか彼女の前に昔の同級生ライアンが現れ、キャシーの心にも変化が生まれ始める…。

映画の中の女性は理想化されてきた

 そのテーマから、試写会では映画の内容をめぐって観客同士が怒鳴りあいのケンカになるという衝撃の出来事も起こった『Promising Young Woman』。しかし主演のキャリーは、これまで無視されてきた性犯罪や女性の怒り、リアルな女性像といった要因によって人々が揺り動かされることで誇りに感じている様子を見せており、配給元であるフォーカス・フィーチャーズの責任者も、「観客の皆さんには、好きか嫌いかにかかわらず、必ず見に来ていただきたい」と、観客の好みはもはや関係ないと言うほど。

 映画やテレビ、広告などのなかで、人物を性別や人種などによって偏った描き方をすることを止め、様々な個人として描こうとする「レプリゼンテーション」は、ここ数年で広く呼びかけられている。そして女性の描き方も、問題になってきたことの1つ。キャリーは、映画のなかに登場する女性についてこう分析する。

 「私たちは映画のなかで正直に女性を描いてない。女性とは何か、母親とは何か、恋愛とは何か、そのストーリーの中でどう女性たちが行動するのか、ということについて、私たちは歴史的に理想化されたものを好んできた。スクリーンの中で、適切であったり好ましいとみなされない行動を取る女性には、良い結末は待っていない」

画像: 映画の中の女性は理想化されてきた

女性の怒りを描く『Promising Young Woman』

 男性が重要な役職を占めるエンタメ界では、これまで、どのような女性/キャラクターを描くかについては、男性が決定権を持つことが多かった。しかし男性の視点によって描かれる女性がテレビや映画で描かれてそれが“理想“とされることで、男性の間でそんな女性が理想であるという価値観が強まり、女性自身もその理想に近づかなければいけないと感じることになる。

 キャリーによると、本作で監督と脚本を担当したエメラルドは、そのなかで描かれてこなかった女性の経験、苛立ち、怒りをリアルに描いたという。

画像: 『Promising Young Woman』の撮影現場で。Tシャツを着ているのがキャリー・マリガン。白いシャツを着ているのがエメラルド・フェネル。

『Promising Young Woman』の撮影現場で。Tシャツを着ているのがキャリー・マリガン。白いシャツを着ているのがエメラルド・フェネル。

 「エメラルドはリアルな女性についてのリアルなキャラクターを描くことに興味を持っているし、もちろん、この映画のなかでも型にはめていたりドラマを作っているところはあるけれど、女性の憤りや、女性がされてきた間違ったことへの怒りを真摯に表現している。性暴力だけの話でなく、一般的なことも。私たちは女性が怒っていることをまったく見ない。声をかき消された女性たちをたくさん見ている…。エメラルドはいつもそれが事実だと言っていて、そうじゃないフリをするのは最低だって言ってる」

 そうじゃないフリをするのは止めよう。試写会では大ゲンカを引き起こした衝撃作だけれど、その衝撃は映画が鋭いメッセージを発しているからこそ。『Promising Young Woman』は全米で公開中。日本での公開は未定。(フロントロウ編集部)

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