過酷だったことで有名な『シャイニング』の撮影
1980年に公開された映画『シャイニング』は、ジャックを演じたジャック・ニコルソンとウェンディを演じたシェリー・デュヴァルの怪演が多くの人の記憶に残り、作中の有名シーンは今なおパロディに使用されることも多い。
スタンリー・キューブリック監督は、巨匠と評される一方で完璧主義者として知られ、撮影において俳優にも高いレベルを要求していたことで知られる。そして、とくに『シャイニング』の撮影現場が過酷なものであったのは、有名な話。
当時パワハラという言葉があったなら、そう言われていただろうと感じる映画ファンも多い『シャイニング』の撮影について、シェリー本人が米Hollywood Reporterのインタビューで振り返った。
「(キューブリック監督は)35回はリテイクしないと進めなかった。35回、走って、泣いて、小さな男の子を抱えて。それはハードだった。最初のリハーサルから全力でやっていたし。それは困難なことだった」
シェリー・デュヴァル、ストレスが身体にも表れた
キューブリック監督が、度重なる撮り直しによって俳優にプレッシャーをかけていたのは知られた話だけれど、役者本人の口からその詳細を聞くと、どれだけ辛いものだったかが感じられる。
ちなみに、『シャイニング』のなかでハロランとダニーがシャイニングの能力について話すシーンは148回撮り直しされ、「セリフのある1シーンで最も多いリテイク」としてギネス記録となっている。
当時彼女は役作りのために、撮影前にはウォークマンで悲しい音楽を聞いたり、人生で悲しかったことについて思い出したりしていたそう。しかし撮影のストレスは、精神面だけでなく、身体的にも表れるようになったという。
「でも少しすると、身体が反抗するようになってきた。『こんなことをするのを止めて。毎日泣きたくない』ってね。そして時には、その思いだけで泣けた。月曜日の朝、すごく早くに起きて、1日中泣かなくてはいけないと気がつく。なぜなら、そうスケジュールが組まれているから…。(その事実で)ただ泣き始められた。『あぁ、ノー。私には出来ない。私には出来ない』って。それでも私はやった。どうやったのか分からない。ジャックも同じことを言ってた。『君がこれをどうやれているのか分からない』って」
アンジェリカ・ヒューストンも当時を振り返り…
シェリーが抱えたストレスはかなりのものであることが理解できるが、一方で、キューブリック監督は撮影中以外は良い人物だったという。
キューブリック監督の撮影現場は、シェリー以外の俳優にも厳しい環境だったとはいえ、1973年から1999年頃まで主演のジャックと交際していた俳優のアンジェリカ・ヒューストンは、結果的にシェリーはその演技によって映画をものにしたと評価しながらも、当時彼女が置かれていた環境に苦言を呈した。
「彼らは(シェリーに対して)思いやりを持っているようには見えなかった。それは少し、男の子たちが集団でいじめているようにも見えた。これは私が完全に誤解しているのかもしれない。でも私はそう感じた。あの頃の彼女を見ると、彼女は多少なりとも拷問され、混乱させられているように見えた。彼女を特別気づかっていた人はいなかったと思う」
このインタビューでは、シェリーが『シャイニング』での自分の演技を見返すといった場面も。その時に彼女は、涙を流したという。(フロントロウ編集部)