※注意:この記事には、暴力/虐待/DV/性暴力に関する描写が含まれます。
『ゲーム・オブ・スローンズ』俳優がマリリン・マンソンを訴える
大ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』に娼婦のロス役で出演し、DCEUドラマ『スーパーガール』などへの出演でも知られるイギリス出身の俳優エスメ・ビアンコが、ミュージシャンのマリリン・マンソンことブライアン・ワーナーと彼のマネージメントを担当を担当していたトニー・チューラを相手取り、性的暴行および性的人身売買の被害を受けたとして、米現地時間4月30日、アメリカ合衆国カリフォルニア中央地区連邦地方裁判所に正式に訴えを起こした。
2021年2月、マリリンとかつて交際・婚約していたドラマ『ウエストワールド』の俳優エヴァン・レイチェルウッドが、以前から被害を公表していた、自身にPTSD(心的外傷後ストレス障害)を負わせるほどの凄惨な虐待をくわえていた人物がマリリンであると、インスタグラムに投稿した声明を通じて名指しにして告発。
これを皮切りに、十数名の女性たちがSNSを通じてマリリンから同様の虐待被害や性的暴行、セクハラ、洗脳を受けたと自らの体験を告白したが、エスメもそのうちの1人。
米Cutとのインタビューを通じて、マリリンの元妻であるバーレスクダンサーのディタ・フォン・ティースを介して2005年にマリリンと知り合ったことを明かし、2009年、マリリンの7作目のスタジオアルバム『ザ・ハイ・エンド・オブ・ロウ』の収録曲「アイ・ウォント・トゥ・キル・ユー・ライク・ゼイ・ドゥ・イン・ザ・ムーヴィーズ(I Want to Kill You Like They Do in the Movies)」のミュージックビデオの撮影と称してマリリンが暮らすロサンゼルス市内の自宅に呼び寄せられ、それを機にマリリンと男女の関係になったが、それが悪夢の始まりだったと暴露した。
性的暴行の詳細や人身売買とされる行為を説明
Cutとのインタビューでも、ミュージックビデオに使用する映像の撮影と騙されて、ランジェリー姿でプレイヤーニーラー(祈りを捧げるためにひざまずくため膝つき台)に縛りつけられ、何度もムチで打つなどの暴行をくわえられたほか、性行為中にも暴力を振るわれたり、激昂したマリリンに斧を持って追いかけられたり、ナイフで体を切り付けられたと語っていたエスメ。
裁判所に提出された訴状では、これらにくわえて、交際中だった2011年、マリリンに薬物の摂取を強要されたことや、意識がなく同意が不可能な状態でレイプされたこと、性的欲望を満たすために尻や胸や性器に叩く、噛みつく、切りつける、ムチで打つといった暴行をくわえられたといった性的暴行の詳細が列挙された。
エスメは、イギリス在住だった自身をミュージックビデオや結局制作されることのなかったホラー映画に出演させると偽ってアメリカに呼び寄せたマリリンの手口は性的人身売買に値すると主張。
当時、マリリンはエスメがアメリカに滞在を続けるためのビザの世話をしていたが、気に入らないことがある度に、サポートをやめると脅されてコントロールされていたといい、ある時には逃亡を防ぐため寝室に監禁されたこともあると続けた。
さらに、エスメは、当時、マリリンや客人たちの食事の準備や住居の清掃といった身のまわりの世話を無賃で行なわされていたほか、マリリンが2012年にリリースしたアルバム『Born Villan』制作時には相談にのったり、楽曲のバックコーラスにもノーギャラで参加。
また、ゲストたちに“お仕置き”と称してお尻を叩いてもいい人物として差し出されたことがあるとも供述している。
エスメはCutとのインタビューで、マリリンが『ゲーム・オブ・スローンズ』の劇中で彼女が演じたセックスシーンを友人たちの前で繰り返し流し、「これは僕のガールフレンドだ。彼女は娼婦。見てみろよ、乳が丸見えだ」と愉快そうにしていたとも語っていた。
見て見ぬフリをし続けたマネージャーの責任も追及
エスメは、当時マリリンのマネージャーだったチューラ氏は、一連の暴力行為を認識していながら、マリリンの芸術的創造やダークなイメージを奨励するため、彼の行ないを黙認し続けていたとし、間接的に利益を得ていたことから、責任を問われるべきだとしている。ちなみにチューラ氏は女性たちからの被害告発が相次いだ2月に、25年にわたって務めたマリリンのマネージャーの職を退いた。
エスメの弁護人は「ビアンコ氏がワーナー氏の身体的・性的・精神的虐待の重みを理解するには何年もの時間がかかりました。ワーナー氏によって引き起こされた精神的健康の低下により彼女はキャリア面で困難に陥りました。結果として、彼女は現在でもPTSD(心的外傷後ストレス障害)やパニック発作に悩まされています」と申告書に記載している。
フェニックス・アクトの可決を後押し
エスメは、2019年、虐待者がマリリンであるとは明かさずに、カリフォルニア州議会公安委員会の集会で被害を告発したことがある。
これは、当時、同じく、まだ虐待者がマリリンだとは明かしていなかった第1告発者のエヴァンも参加した、「フェニックス・アクト(Phoenix Act)」と呼ばれる、家庭内暴力(DV)被害者たちの権利を拡大し、時効を延長するための法案への支持を表明するためだった。
エスメは、集会で自身が受けた虐待行為を明かすとともに、「7年が経ち、ようやく法的なアドバイスを得ようと試みましたが、私よりも先に(助けを必要としている)何千人もの虐待サバイバーたちが存在していると告げられ、さらに、被害を訴えても、『もう遅い』『何もできる事はない』と言われました。そのため、私は、自分を虐待した人物が、今もまだ毎日ルーレットを回し、ほかの女性たちに取り返しのつかないダメージを与えていることを知りながら、日々を生きています」と熱弁。フェニックス・アクトはエスメやエヴァンをはじめとする告発者の尽力の甲斐あり、2020年に可決された。
新たに出した米Rolling Stoneへの声明でエスメはこう綴っている。
「何百万人ものサバイバー(虐待被害者)たちと同様に、私もこの国の法制度が完璧とはほど遠いものであることは痛いくらいわかっています。だからこそ、私はDV被害者たちが傷を癒やすための貴重な時間を追加するフェニックス・アクトを共同提案しました。しかし、より正しい法制度への闘いと並行して、あらゆる手段を使って、私自身の虐待者に然るべき責任をとらせるための権利を追求します。私の虐待者はもう長い間、野放しにされ、金や名声によって行為を許されてきました。数え切れないほどの勇敢な女性たちがマリリン・マンソンの行ないに対して声を上げてきましたが、(音楽)業界は見て見ぬフリを続けました。被害者の中には、いまだに声を発することができずに沈黙を強いられている人たちもいます。私は自らが声をあげることで、ブライアン・ワーナーがこれ以上誰かの人生を粉々にするのを阻止し、ほかの被害者たちが、彼女たちにとっての小さな正義を探し求める手助けになれるよう願っています」。
(フロントロウ編集部)
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