トム・クルーズ、ゴールデン・グローブ賞のトロフィーをすべて返却
俳優のトム・クルーズは、1989年の映画『7月4日に生まれて』で人生初のゴールデン・グローブ賞の主演男優賞を受賞。1996年の映画『ザ・エージェント』でも同賞を獲得したほか、1999年の映画『マグノリア』では助演男優賞に輝いた。
受賞を逃した作品も含めると、これまでに合計7回ゴールデン・グローブ賞にノミネートされたことがある常連のトムだが、最近になり、自身の手元にあった3つの受賞トロフィーをすべてハリウッド外国人映画記者協会(HFPA)の事務局に返却したことが米Deadlineの報道で明らかになった。
組織の腐敗に抗議
映画界最高峰のアワードの1つと呼ばれてきたゴールデン・グローブ賞だが、同アワードを主催するHFPAに関しては、昨今、人種的な多様性の欠如だけでなく、性差別やノミネート作品の接待疑惑など、組織そのものの腐敗が指摘されてきた。
2021年3月初めに行なわれた第78回授賞式後には、著名な俳優をクライアントに持つパブリシストたちが一丸となり、HFPAに早急な体質改善を求める声明を発表。
これに対し、HFPAは、2022年の会員数を最低でも100名に増やし、会員の13%以上を黒人ジャーナリストとすることを約束。さらに、人種間の公平性に精通した専門家の指導のもと変革を遂げることを誓ったが、これに納得がいかないという業界人たちから激しい反発が寄せられている。
近年、多くの作品が同アワードへのノミネートを果たしているAmazonスタジオやNetflixも、HFPAが抜本的な改革を行わないかぎり「一緒に仕事はしない」とボイコットを明言するなか、映画『アベンジャーズ』シリーズのハルク役で知られ、ドラマ『ある家族の肖像/アイ・ノウ・ディス・マッチ・イズ・トゥルー』で第78回ゴールデン・グローブ賞のミニシリーズ・テレビ映画部門の主演男優を受賞したばかりの俳優のマーク・ラファロがDeadlineへの声明を通じてHFPAを厳しく批判。「HFPAは、映画製作者や俳優と関わることで注目を集め、大きな利益を得てきた。にもかかわらず、これまで権利を奪われてきた人々や団体から求められている変化に抵抗しているのを見ると、がっかりする。今こそ、過去の過ちを正すためにステップアップする時だ。正直なところ、最近、ゴールデングローブ賞を受賞した私としては、この賞を受賞したことに誇りや喜びを感じることができない」。
さらに、映画『ブラック・ウィドウ』のスカーレット・ヨハンソンは、過去にアカデミー賞授賞式の記者会見で性差別的な質問やセクハラまがいの発言に直面した経験があることを明かし、「映画を宣伝する俳優は、授賞式だけでなく記者会見にも出席し、賞レースに参加することが求められる。過去には、HFPAの特定のメンバーによる、性差別的な質問やセクハラまがいの発言に直面することもあった。私が長年にわたって記者会見への参加を拒否してきたのは、まさにそれが理由。HFPAは、ハーヴェイ・ワインスタイン(※)のような人物がアカデミー認定の機運を高めるために正当化した組織であり、業界もそれに追随した。組織内で必要な根本的な改革が行われないかぎり、私たちはHFPAとは距離を置いて、組合や業界全体での団結の重要性と強さに焦点を当てるべきだと思う」と指摘した。
※ハリウッドにおけるセクハラ・性的暴行の“元凶”と言われた元大物映画プロデューサー。現在は性的暴行の罪で実刑判決を受け、服役中。
トムは、とくに声明などは出していないが、トロフィーを全返却するという行動は、HFPAに対して、より公平でクリーンな体制への刷新を求めるための彼なりの無言の抗議だと言われている。
ハリウッドで大きな影響力を持つ映画人として知られるトムだけに、今後、彼の行動に続く人々が現れる可能性も?
なお、2022年に行なわれる第79回ゴールデン・グローブ授賞式を独占放送する予定だった米NBCは、同アワードの放送を辞退。米Varietyへの声明で「HFPAが有意義な変革を遂げようとしていることは信じますが、このような重大な変化には時間と労力が必要です。HFPAが正しい変化を遂げるために時間を与えるという意味で、NBCは2022年の授賞式は放送しません。団体が計画通りに変革を執行できれば、2023年1月の授賞式は放送できることでしょう」と発表している。(フロントロウ編集部)