リヴァー・フェニックスの名を知らしめた『スタンド・バイ・ミー』
巨匠スティーヴン・キングの小説を基に、クリスを演じた故リヴァー・フェニックスから、脇を固めた当時若手俳優のジョン・キューザックやキーファー・サザーランド、そしてベン・E・キングの楽曲「スタンド・バイ・ミー」など、細かな要素が完璧に混ざり合い、時代を越えて愛される名作となっている1986年公開の映画『スタンド・バイ・ミー』。
とくにリヴァーの存在は見た人の記憶に残る鮮烈な厚みを持っており、本作は彼の出世作となった。
リヴァー・フェニックス、その過去
そのなかでも彼の演技力が光ったところといえば、夜の森の中で、ゴーディに自分の心のなかにためていた思いを語り、泣くシーンだろう。
態度を改めようとしたのに教師に裏切られたクリスは、その事実をゴーディに明かし、「誰も俺を知らないところへ行きたい」と涙する。
涙の演技というのは大人の俳優であっても難しい。しかし、観客の胸に迫る力強い演技を見せたリヴァーは、その前に、監督のロブ・ライナーから、“ある過去”を思い出すようアドバイスを受けていたという。それは…。
「君がすごく尊敬していて、とても愛していた大人が、君のためにそこにいてくれなかった時」
当時15歳でありながら、大人に裏切られた過去を思い出して、演技の糧にしたリヴァー。このエピソードは、彼の幼少期を知る人の心を締めつける。
なぜなら、リヴァーとその家族は、1970年代にヴェネズエラでカルト団体の「神の子供たち(Children of God/現:ファミリー・インターナショナル)」に所属していたことがあるから。
リヴァーは過去に受けた米Esquireのインタビューで、団体について「奴らは汚い。人の生活を破壊してる」と嫌悪感をあらわにしており、リヴァーの弟で俳優のホアキン・フェニックスも、「彼らはもちろん、自分たちをカルトだとかは言わなかったさ。さもなければ、誰も入団しないだろ?」と、皮肉を込めて批判している。
そして、一家の名字は元々「ボトム」だったが、団体を脱退し、アメリカへ帰国した際に、灰から蘇る伝説の鳥である「フェニックス」に改名した。
リヴァーが演技をしている時に、この過去を思い出していたかどうかは分からない。しかし、「誰も俺を知らないところへ行きたい」というセリフも重なり、あの時のクリスの姿には、演じるリヴァーが生きた現実を感じさせられてしまう。
ライナー監督は英The Telegraphに、「あのシーンの後も彼は泣き続けた。だから僕は彼をハグした。あのシーンは演じるのも、その後そこから抜け出すのも大変なシーンなんだ」と語った。
(フロントロウ編集部)