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ハリウッドに根強く残る「ネポティズム=縁故主義」の何が問題? 映画界の重鎮とベテラン2世俳優がツイッターで白熱討論。それぞれの言い分から学べることとは? (フロントロウ編集部)

ハリウッドの「ネポティズム」とは?

 「ネポティズム(Nepotism)」。日本でも近年、よく耳目にするようになったこの言葉は、和訳すると「縁故主義」を意味し、自分の家族や親戚といった血縁者や同じ地域の出身者、昔からの知人などを“えこひいき”し、優先して恩恵を与えることを言う。

 もっと砕いて言うと「身内びいき」となるネポティズムは、とくに血のつながりやタテのつながりを重んじる日本や中国といったアジア圏の国々において、政界や芸能界、そして一般企業などにおいて根強く残っていると考えてられているが、それは欧米でも同じ。

 ネポティズムの語源は、ローマ教皇が愛人に産ませた子供を甥(Nephew/ネフュー)と称して特権を与えたことに由来すると言われていて、「身内や仲間に対して甘い顔をする」という意味にくわえて「それ以外の人々に対して厳しい顔をする」という排他的な側面も持つ。

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 さまざまな分野や業界において多様性が叫ばれている現代のアメリカで、ネポティズムがとくに顕著だと言われるのがハリウッド。お気づきの通り、ハリウッドには“2世セレブ”と呼ばれる人たちがわんさか。役者やモデル、シンガーとしてカメラの前に立つ人だけでなく、映画やドラマ、CMなどの制作を手がける“裏方”も親が映画界の重鎮、有名な俳優やアーティストといった生まれながらに恵まれた肩書きを持つ人が多い。


ネポティズムは多様化の邪魔をする

 ハリウッドはもともと“コネがものを言う世界”だと言ってしまえばそれまで…という見方もあるかもしれないが、多様性や包括性が重視され、誰もが平等にチャンスを与えられるべきだという考えが広まりつつある昨今はそうも言っていられない。

 より新しい風を吹き込み、真の実力主義を目指すなら、ネポティズムは廃止されるべきだと指摘するのが、ユニバーサル・ピクチャーズなどでの経験を経て、映画化されていない脚本を対象とした評価および映画製作マッチングのプロジェクトである「The Black List(ブラックリスト)」を立ち上げた映画界の重役フランクリン・レナード氏。

画像: ネポティズムは多様化の邪魔をする

 先日、映画『E.T.』や『インディ・ジョーンズ』シリーズ、『ジュラシック・パーク』などで知られる巨匠スティーヴン・スピルバーグ監督の娘であるデストリー・スピルバーグが監督を務め、『シャイニング』や『It-イット-』などの名作を生み出したホラー作家スティーヴン・キングの息子オーウェン・キングが脚本を担当し、映画『ミスティック・リバー』と『ミルク』でアカデミー賞主演男優賞を受賞したショーン・ペンの息子ホッパー・ペンが主演する短編映画『The Rightway(原題)』の制作が発表。

 “親の七光り”だとは言わなかったものの、映画界の重鎮たちを親に持つ若手たちがこぞって起用されたことに懐疑的なレナード氏は、同作のプレスリリースに「ハリウッドは実力主義なんだよね? 」と皮肉めいたひとことを添えてツイートした。


あの2世俳優と議論に発展

 これに反論したのが、映画『ズーランダー』や『ミート・ザ・ペアレンツ』、『ナイト ミュージアム』シリーズといったた代表作を持つ俳優のベン・スティラー。

 映画監督や脚本家としても活躍しているベンの両親は、1960年代から1970年代に夫婦コメディアンとして人気を博したジェリー・スティラーとアン・メイラで、ベンの姉エイミーも俳優として活動している。

画像1: あの2世俳優と議論に発展

 芸能一家の出身で、れっきとした2世セレブのベンは、レナード氏のツイートに「それは安易すぎるよ。みんなそれぞれ努力して、創作してる。それぞれの道がある。彼らのベストを祈るよ」とコメントして『The Rightway』に携わる2世クリエイターたちを擁護。

 すると、レナード氏は「僕だって心からそう願ってる。でも、そういう(親がお膳立てした)道筋があることを僕たちは認識しなくちゃいけないよね」と返信した。

 これに対し、ベンは「そうだね。彼らとは面識が無いけど、経験から言うと、彼らだってみんなさまざまな困難にぶち当たってきたはず。業界にアクセスがない人たちとはまた違うかもしれないけど。ショービズの世界は知っての通りなかなか険しい。結局のところは実力主義だよ」と自らのこれまでの経験をもとに語った。

 「もちろん、彼らがそれぞれ何かしらの試練に直面したであろうことは僕だって疑わない。彼らも人間だからね。ただ、僕が言いたいのは、この業界が、短期的に見ても長期的に見ても実力主義だっていう主張は受け入れられないっていうこと。もしそうだったら、カメラの裏側にいる人たちの完全なる多様性不足をどう説明する? 実力不足だとでも言うの? 」と譲らず、ネポティズムこそが多様性の拡大を阻む元凶だと示唆したレナード氏。

画像2: あの2世俳優と議論に発展

 これにはベンも賛成で「100%同意するよ。多様性はもっと重要な問題だ。疑いようもない。君の論点も理解できる。(2世のほうが一般の人より)アクセスがあることは確かだ。僕が言いたいのは、たとえその人が誰であっても、誰と知り合いであろうとも、才能が無い人はチャンスを生かせずに淘汰されていくということ」と返したが、レナード氏は「根本的には同意できないな。数字はウソをつかない。統計から言うと、業界で働く人の3分の1が実力ではなく、(コネや人種、性別などの)ほかの要因によりその仕事に就いている」「君も僕も、才能がないのにこの業界の仕事に就き続けている人たちをたくさん知っているだろ。お互い、それが誰かをいちいち名指しにするほど礼儀知らずじゃないけど」と掘り下げた。

 「ハリウッドの人たちは自分の成功が純粋に実力によるものだって信じる傾向にある」とレナード氏名が辛らつな分析を繰り出すと、ベンは「ワオ、本当に?僕は自分の成功は家族のおかげだと思っているし、そうじゃないなんて言った事はないけど。どうしてそんな風に大まかに一般化するんだい? 多様性に関する君の主張は正しいし、僕は同意するけど」とコメント。

 一歩も引かないレナード氏に最終的に折れた様子のベンは「君の視点は僕の観点を照らしてくれたよ。ハリウッドの人たちが何を信じるかという点に関する一般化に関しては意見が完全に一致することはないかもしれないけど、そんなことは、君が本当に言おうとしている、ショービズ業界における不平等さや偏りへの指摘よりは重要じゃないよね」と、有意義な討論ができたことには満足した様子で締めくくっていた。


スピルバーグ娘が2人の討論に反応

 レナード氏とベンのツイッター上でのやり取りは業界内外の注目を集め、海外の多くのメディアでも取り上げられた。

 これを受け、議論の発端となったデストリーは、レナード氏とベンに宛てたすでに削除済みのツイートのなかで「私は映画という芸術を愛し、映画製作者を目指しているただの若い女性。ネポティズムについて人々が議論するのはいいけど、私は自分がここまで来るのにどれだけ努力したかや、簡単な道のりなんかじゃなかったことを知ってる。作品をとても誇りに思っているし、一緒に作った仲間たちのことも誇りに思う」とコメント。

画像: スピルバーグ娘が2人の討論に反応

 その後、「自分が特権を持って生まれたということは認識してる。それにずっと打ち勝とうとしてきた。だからこそ、業界に新しい才能を迎え入れて、あらゆるバックグランドを持つアーティストたちにチャンスを与えられるうになるということを自分のミッションにするつもり。コネクションがないからって、誰ものけ者にされるべきじゃない」と、映画界の多様化に貢献していきたいという抱負も綴っていた。

 ネポティズムの悪しき点は、排他的な風土を作ってしまう点や本当は無能な人材が我が物顔で限られた席を占拠し、才能のある人が入る隙を失くしてしまうこと。これを客観的に見ているレナード氏と2世セレブとしてハリウッドでサバイブしてきたベンの討論は、デストリーのような次世代の業界人の考え方に少なからず影響を与えたはず。(フロントロウ編集部)

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