今でもクリスマスに見られている、あの定番映画は、FBIのブラックリストに10年間載せられていた。(フロントロウ編集部)

クリスマスの定番映画がFBIに目をつけられた理由

 映画が発明されてから、多くのクリスマス映画が生み出されてきた。そのうちのいくつかは時代を超えて愛される名作となり、1946年に公開された白黒映画の『素晴らしき哉、人生!』は、とくにアメリカでは今でもクリスマス時期にテレビで放送されるほどの定番映画となっている。

 そんな『素晴らしき哉、人生!』だが、1946年から1956年の間には、なんとFBI(アメリカ連邦捜査局)のリストに載せられていた! その理由は、共産主義のプロパガンダ(※)の可能性があるというもの。
 ※特定の主義や思想などに誘導することを目的とした政治的な宣伝。

 『素晴らしき哉、人生!』は、主人公であり人から慕われるジョージの人生を追ったストーリーで、彼を窮地に立たせ、自殺を引き起こしそうにする銀行家のポッターが悪役の立ち位置で描かれている。

 当時のFBIのレポートでは、ポッターというキャラクターは、「ケチなタイプとしてライオネル・バリモアをキャスティングして、彼が映画の中で最も嫌われている人物となるようにし、銀行家の信用を落とそうとするかなり明白な試みだった」とされ、「共産主義者によって使われるありがちなトリック」だとしている。また、ポッターの描かれ方は、「富裕層への意図的な中傷」だとされた。

 しかし、『素晴らしき哉、人生!』の主人公であるジョージも銀行家である事実が、FBIの視点からは抜け落ちている。また、本作のタイトルでもあり、観客の心を掴んだ理由の1つでもある、人生の素晴らしさを1人の男性の人生を描くことで伝えることを、共産主義のプロパガンダだとしたことはあまりに飛躍していると、今では多くのジャーナリストや映画批評家が指摘している。

 とはいえ、本作が公開された1946年は、アメリカを含む各国で共産主義者を排除する赤狩りが行なわれていた時代。ハリウッドでも、共産党とつながりがあると思われた映画監督や脚本家、俳優がブラックリストに載せられ、そのうち召還や証言を拒否して議会侮辱罪で有罪判決を受けた主要な10人がハリウッド・テンと呼ばれるに至った。

 『素晴らしき哉、人生!』の脚本家には革新派とされる共産主義者と近しい人物たちがいたのは事実だが、監督のフランク・キャプラは熱心な保守派だった。

 そんな時代背景のなか生まれた『素晴らしき哉、人生!』だが、人の人生という普遍的なテーマを描いた本作は、公開から70年以上が経った今でも見られ続ける作品となっている。

(フロントロウ編集部)

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