MTV EMAで「家族は家族です」と宣誓したオリー・アレクサンダー
カイリー・ミノーグとのコラボでも話題になった「Starstruck」に、日本人シンガー・ソングライターであるSIRUPを迎えた「Starstruck(SIRUP Remix)」が2月16日にリリースされたことも大きな注目を浴びているイヤーズ&イヤーズ。
そんなイヤーズ&イヤーズのオリー・アレクサンダーは昨年、現地時間11月14日にハンガリーのブダペストにて開催された、ヨーロッパ最大級の音楽賞MTVヨーロッパ・ミュージック・アワード(MTV EMA)にプレゼンターとして出席。そのスピーチのなかで「家族は家族です」と宣誓して、観客の喝采を集めた。
2021年のMTV EMAがハンガリーで開催されるに至ったのには、“反LGBT法”とも言われる法律がハンガリーで成立したことが背景にある。この法律は、18歳未満に同性愛や性転換などLGBTQ+に関わる話題や情報を制限するという、LGBTQ+の人々の存在を否定するような差別的な内容のもの。ハンガリーでは他に、同性カップルが養子を迎えることを禁止する法律も2020年12月に成立した。自身もゲイであることをカミングアウトしているオリーが発した、「家族は家族です」というメッセージは、同性カップルでも紛れもない家族であるという思いが込められていた。
今回、フロントロウ編集部は、イヤーズ&イヤーズがソロプロジェクトになってからは初となるアルバム『ナイト・コール』をリリースするタイミングで、オリーへのインタビューを実施。見事、全英アルバムチャートの首位を獲得した本作についてや、MTV EMAでの「家族は家族です」というメッセージについて訊いたほか、同性婚が合法化されているイギリスに暮らすオリーに、日本がいまだにG7の中で唯一同性婚が認められていない国であることについても話を向けた。
オリー・アレクサンダーにインタビュー
2021年はイヤーズ&イヤーズがソロプロジェクトになったり、『IT’S A SIN 哀しみの天使たち』が社会現象(※)を巻き起こしたりと、ご自身にとって変化の1年になったと思います。振り返ってみるとどんな1年でしたか?
※オリーは、1980年代のイギリスを舞台にHIV/エイズに翻弄されるゲイの若者たちを描いたドラマ『IT’S A SIN 哀しみの天使たち』で主演。同作は、イギリス本国でのHIV検査数を大きく増加させるなど社会現象となった。
「2021年はジェットコースターのような年でした。月並みな言葉ですが、とてもワイルドで、旋風が巻き起こったような、そんな1年でしたね。最高でしたよ。このまま止まることがないんじゃないかっていうくらいに。この1年のすべてと、忙しくさせてもらえたことに感謝しています。素晴らしい年になりました。この全部を消化するにはもう少し時間がかかりそうです。ハイライトがたくさんありましたからね。すべてを実感するまでには、まだ時間が必要でしょうね」
ソロプロジェクトになって、アルバム作りのプロセスにはどんな変化がありましたか?
「最も大きな変化としては、より僕が自分らしくなれたということですかね。もちろん、イヤーズ&イヤーズの時も(バンドメイトだった)マイキーやエムレとは別々に僕が曲を書いて、その後で一緒に曲を仕上げたりスタジオで作業したりという形を取っていたので、ずっと自分らしくあれたのですが。今は、自分1人であらゆるプロセスをやらなければいけないということで、『僕が本当にやりたいのは何? どんなサウンドにするべき? これはどうする? あれはどうする?』って考えなければいけないのは、以前よりも大変だと感じている部分です。自分1人でそうした決断をしなければいけないのは難しいですが、同時に自由も実感しています」
アルバム『ナイト・コール』のコンセプトについて教えてください。
「ほとんどの曲が、2020年や2021年の初期の頃に書いたものになっています。ロックダウンを経験し、孤独や孤立感を感じていた奇妙な時期でした。そうした中で、僕はダンスミュージックしか聴きたくないと感じるようになったんです。それで、次のアルバムは全部アップテンポの曲にして、踊れるようなものにしようと思い立ちました。聴く人たちをどこかへ連れて行ってくれる、逃避行のようなアルバムになっています。アルバムを通じて、楽しい時間を過ごしてもらえるようなものにしたくて。楽曲には、個人的な感情やパーソナルな物語が反映されています。日頃から日記を書いているので、そこから言葉を抽出して、曲にしました。アルバム全体としては、『夜のアルバム』になっていて、誘惑や孤独、親密について歌っています」
セカンドシングルとしてリリースされた「Crave」には、特にそうしたテーマが凝縮されているように感じます。この楽曲のテーマについて訊かせてください。
「そうですね。『Crave』は書いていてとても楽しい曲でした。僕は恋愛やセックス、そうした状況の原動力などについて書くのが好きなので。『Crave』は、『誰かに痛みを求めるのはどんな感じなんだろう?』という感情をテーマにしています。もちろん傷つきますが、喜びも得られるわけで、すごくドラマチックだと思ったんです。現実の人生では誰かにそんなことは伝えられないけど、楽曲の中で伝えることはできる。それってパワフルだなって思いました。この楽曲に登場するキャラクターには、僕自身も励まされます」
あなたがマーメイドになっているアートワークもとてもキュートですよね! このアートワークのコンセプトについて教えていただけますか?
「ありがとう! 僕はマーメイドが大好きなんです。物語の中に登場するマーメイドにすごくインスピレーションを受けています。マーメイドは海から上がって、岩場で美しい歌を歌いますが、人間の男性船員たちから警告されて、岩に打ち付けられてしまいますよね。僕はメタファーとしてのその表現が素晴らしいなと思うんです。マーメイドは、このアルバムを作る上でのミューズになっていると言えます。それから、僕は長年、何かの機会にマーメイドになりたいなと思ったので、これを言い訳にして、今回マーメイドになったというのもありますね」
アルバムで特にお気に入りの曲があったら教えてください。
「もちろん全部の曲が大好きですけど、お気に入りは間違いなく『Crave』ですね。曲が生まれた経緯も好きですし、サウンドも大好きです。不気味なサーカスや、カーニバルにあるアトラクションに乗っているような気持ちにさせてくれるので。曲の大胆な歌詞も気に入っています。ちょっぴり生意気ですけど、楽しいものにできたと思っています。なので、(お気に入りは)『Crave』ですね」
ところで、昨年ハンガリーで開催されたMTV EMAでは、反LGBT法のために立ち上がりました。この決断について訊かせていただけますか?
「ハンガリーでは、同性カップルが養子を迎えてはいけないという法律が可決され、学校などでLGBTの人々についての話をすることも禁止されました。そうした中で、僕を含むLGBTやクィアのアーティストたちがEMAに出席し、それがTVで流れるということになりました。当初は、それが重要な意味を持っているとは思っていなかったのですが、授賞式の前、僕はブダペストである人たちに出会ったんです。彼らは、ハンガリーにおいて、同性カップルが養子を迎えられるようサポートするハッシュタグ『#FamilyIsFamily(家族は家族)』による草の根の活動を始めた人たちでした。彼らにはシンボルもあったので、僕は自分の手にそのシンボルを描き、授賞式でプレゼンターを務めた時にその手を掲げて、ハンガリーでクィアの人々のために闘っている彼らへのサポートを示すために、『家族は家族です』と宣言しました。彼らの活動を広めることができたのは、この上ない喜びでした」
日本はG7の中で唯一同性婚が許されていません。イギリスでは2014年から同性婚が合法化されましたが、このことはLGBTQの人々の生活に、また、国内でのLGBTQの人々に対する感情にどのような影響があったと思われますか?
「同性婚は、今なお続く平等への闘いにおける1つの大きな成果になったと思います。僕たちの多くは“結婚”が存在するカルチャーの中で大人になるわけですが、以前は、その結婚からゲイの人たちは除外されてしまっていましたから。同性婚はとても重要なことだと思います。なぜなら、僕ら(同性愛者)も他の人たちと同じであることを示す第一歩だから。もちろん、同性婚の成立が最終目標ではありませんが、すべての場所で認められるべきだと思います。だって、どうしてゲイの人たちは結婚すべきではないのですか?」
ありがとうございます。最後に、日本のファンへのメッセージをお願いします。
「大好きなみんなが恋しいし、また日本へ行くのが待ちきれないよ。みんな無事で健康で、幸せでいてね!」
イヤーズ&イヤーズ
『ナイト・コール』
発売中
(フロントロウ編集部)