親業は仕事
ニュースの中で「母親で無職の~」という表現や、会話の中で「子育てをしていたからずっと仕事をしていなかった」という言葉が出ることがある。このように、専業の親であることは、無職だとされることは多い。その理由は無給だから?
しかし、専業の親たちは毎日、育児と家事という仕事をしている。それは、保育士やホームキーパーとして働いていたら給与が発生すること。しかも、多くの親は365 日無休で長時間労働をしている。
実際に給与サイトSalary.com によると、専業の母親の労働時間に給与が支払われた場合の年収の中央値は約1,960 万円(178,201 ドル)。無職どころか、超高給取りの年収と言える。ちなみにこれは 2019 年のデータで、コロナ禍の 2021 年には約2,030 万円(184,820 ドル)に増加。コロナ禍で母親たちの負担がどれだけ増えたかも浮き彫りにした。
親は仕事に賃金が発生するようになっていないため、社会的に職業としても認められていないだけで、本当は立派な仕事であり職業。
親業を軽視する社会
約2,030万円という数字はアメリカにおいての金額であるため、日本では異なってくるが、その結果からは母親がどれだけの量を働いているかが分かる。価値の在り方はすべてがお金で測れるわけではないが、母親たちはそれだけ価値のあることを無給で行なっているということ。
また前述のとおり、多くの親は365日働いている。残業や無休日、低賃金はたびたび労働問題として取り上げられるが、親はつねにこのすべてを経験している状態。ということは多くの親の労働環境にも改善が求められているということ。
さらに、専業の親になりたくてなったとしても、経済的自立に繋がらない仕事であることは問題になる。年金の受給額が少なくなるという問題もある。そして経済的自立をしようとしても、専業の親を経験していると、就職などで壁にぶつかることは多い。
2021年には、ビジネス特化型SNSであるLinkedInが、「専業の母親」「専業の父親」「専業の親」という肩書きを職業として追加した。
しかし米スタンフォード大学のシェリー・コレル教授はこの取り組みに懸念を示しており、米Forbesで、「正直に言って、女性や男性がこれらのオプションを使う場合は心配してしまいます。私のこれまでの調査では、履歴書で親と明かすことは父親にとってハンデにはならないですが、母親にはハンデになることが分かっています。しかし最近のリサーチでは、育児や介護などへの責任を持つ父親に対しても、母親と同じように、時にはそれ以上にハンデが科せられることが分かっています」と指摘している。
専業の親からの「キャリア復帰」がいかに困難かを物語る指摘だが、まずもって「キャリア復帰」という言葉自体、親としてそれまでに働いていた経歴はキャリアではないと、まったく無視していると言えるのではないだろうか。
そして、社会的軽視は当事者の心も刺す。2018年にしゅふJOB総研が行なった調査では、子供がいる専業主婦・主夫で、専業主婦・主夫であることに後ろめたさや罪悪感のようなものを覚えたことが“ある”、“少しはある”と答えた回答者は54.2%にのぼった。
親業の苦労を知らない外野の意見
親業に対する軽視は、子供がいても自分は“手伝い”だけしている立場の人や、子供がいない人などの間でも多く見られる。
シンガーのジェニファー・ロペスは自身のYouTube動画で双子の子供たちと対談した際に、「母親になるまでは、母親でいるということがどういうものかは想像つかないの。昔は子供がいる友達にいつもアドバイスしてたけど、私には頭が3つあるかのようにな変な目で見られていた。そして今、私にはあなたたち2人がいて、本当にすぐに友達全員に謝った」と、子供がいなかった頃に、子供を育てるということの大変さを理解していないのに発言していたと反省した。
また、子供の性格、人数、障がいの有無、障がいの種類や程度、頼れる家族はいるかどうか、頼れる人はいるかどうかなどによって、子育ての形や苦労は変わってくる。
専業の親になる人、ならない人などそれぞれいるが、どちらが上下ということではないはず。それぞれの職業や選択はそれぞれの事情であって、それを尊重すればいいだけのこと。
「母親で無職」というような表現は、単なる言葉ではない。無意識でも、意図的でも、そこには使う人の価値観が現れるうえ、その表現を聞いた人の価値観にも影響を与える。今一度、言葉や表現、自分の態度を振り返りたい。
(フロントロウ編集部)