ろう者の両親に育てられた女の子の感動ムービー『コーダ あいのうた』
映画『コーダ あいのうた』は、耳の聞こえない親のもとに生まれ育った女の子が音楽大学進学の夢を抱くも、家族の介助と夢との間で揺れ動く感情を繊細に描いた作品。世界中で話題を呼んだ本作は、第94回アカデミー賞にて作品賞、脚色賞、助演男優賞など3部門にノミネートした。
STORY
海の町で、耳の聞こえない両親と兄と暮らすルビーは、幼い頃から家族の“通訳”となり、家業の漁業を毎日欠かさず手伝っていた。高校で合唱クラブを選択したルビー。彼女の歌の才能に気づいた顧問が、都会の名門音楽大学の受験を強く勧める。だが、夢よりも家族の助けを続けることを選ばざるを得ない彼女は…。
そんな本作でみごとアカデミー賞助演男優賞にノミネートした、主人公の父親役のトロイ・コッツァーに注目。
ろう者の男性として初のアカデミー賞ノミネート、トロイ・コッツァー
主人公ルビーの“耳の聞こえない父親フランク”役を務め、ろう者の男性俳優としてアカデミー史上初のノミネートを果たしたトロイ・コッツァー。ろう者の俳優としては、1986年に公開された映画『愛は静けさの中に』で主演女優賞を受賞したマーリー・マトリン以来となる。
トロイは本作でゴッサム賞を受賞したほか、ゴールデングローブ賞、放送映画批評家協会賞、インディペンデント・スピリット賞、全米映画俳優組合賞にノミネートされ、大きな注目を集めている。
アカデミー賞ノミネートを知った際の彼は「言葉を失った(I'm handless.)」と米Indie Wireにコメント。さらに、「認められたことをとても光栄に思っています」とも語った。
トロイはこれまでに映画『ナンバー23』やドラマ『マンダロリアン』などに出演してきたほか、2013年には『No Ordinary Hero: The Super Deafy Movie』で映画監督デビューしている。
俳優としての夢をあきらめずチャレンジ
1968年生まれで現在53歳の彼は、警察官の父親のもと厳しく育てられたという。彼は米Indie Wireに「幼い頃、父に危ない橋を渡る人間だと呼ばれていたことが忘れられない」と語っている。
「ハリウッドで耳の聞こえない俳優になるのは無理だろう」とまで言われ、教師かエンジニアになったらどうだと勧められたそうだが、俳優になるという夢は断固としてあきらめず、自分の直感を信じて続けてきたと語ったトロイ。
とはいえ、「非常に厳しい旅であったことは認めざるを得ません」とコメントしているように、様々な苦難を乗り越えながらもアカデミー賞ノミネートにまでこぎつけたのだろう。
トロイは本作で名を上げる前は、ろう者の文化を活動の中心にしているデフ・ウェストという劇団で活躍し、注目を浴びていた。彼にとって演劇は俳優としてさらにステップアップするための糸口でもあったようで、「(劇の)観客にキャスティングディレクターやエージェントが潜んでいるかもしれない。私自身、(業界人に)目をつけてもらいたいと願い、俳優としての評判を広めようとしていました」と本人は語った。
そんなトロイは、35年前にアカデミー賞を受賞した映画『愛は静けさの中に』がバイブル的作品であることを明かし、自身にとっての素晴らしいレプリゼンテーションになっていることを認めた。「(その映画のおかげで)私はようやく本物のろう者の表現を見ることができ、インスピレーションにもなりました」と、米Indie Wireに話している。
しかし今ではそんな彼がろう者のレプリゼンテーションとなっており、米Peopleに「経験や訓練を通して(成功したことで)、若いろう者が舞台やテレビ、映画で活躍する機会を得られるようになったことが、何よりうれしいです。彼らの手助けができることに興奮しています」とコメントした。
トロイの素晴らしい演技が評判の映画『コーダ あいのうた』は現在劇場で公開中。(フロントロウ編集部)