日本では女性の中絶の決定に男性の同意が必要
夫婦別姓が選択できないのは、世界で日本だけ。日本のジェンダー・ギャップ指数は156か国中120位。女性差別の深刻さを示すデータが多く存在する日本の中では、女性の人権を阻む制度が継続されそうだ。
現在、やっと「経口中絶薬」の承認がされそうだと期待されているが、橋本泰宏子ども家庭局長は5月17日の参院厚労委員会で、経口中絶薬の服用に「配偶者同意は必要」だとの見解を示した。
配偶者の同意が必要なのは世界で11ヵ国だけ
現在、日本では中絶の方法にかかわらず、人口妊娠中絶には配偶者の同意が必要とされる。法的には婚姻関係にない相手の同意書は必須ではないが、彼氏の同意書を求める医療機関は多い。
しかし、この「配偶者の同意」を求めるという制度は、世界的に見ると不適切とされている遅れた制度。世界でもそれを求めている国は、日本を含めてたった11ヵ国。
アメリカの生殖権利センター(Center for Reproductive Rights)によると、人工妊娠中絶において配偶者の同意が必要(spousal authorization required)な国は、シリア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、イエメン、ギニア、クウェート、トルコ、モロッコ、インドネシア、台湾、そして日本だけ。
女性の身体についての決定権は女性にある
女性の身体についての決定権は女性にある。非常にシンプルなことだが、果たして実際にそれは守られているだろうか?
相手の同意が得られなかったため、人工妊娠中絶手術が受けられず、結果的に乳幼児を遺棄することに追い込まれた女性が逮捕された事件がある。女性は2021年に懲役3年執行猶予5年の判決を言い渡されたが、同意が必要でなければ起こらなかった事件。この時、男性側は何の責任も問われていない。
WHOは同意が要求される人工妊娠中絶が若い年齢の女性に与える影響について、「両親や保護者の許可が必要だと知れば、思春期の女性は医療機関に行くことを拒む可能性があり、内密に中絶を行なう提供者の元に行く可能性を高める」と、女性たちが安全に必要な医療行為を受けることを阻む危険性があるとしている。
また、WHOは、女性のからだの自己決定権を守るためには、医師であっても女性の中絶の決定に口を出すべきではないと明言しており、各国の法から第三者の同意を必須とすることを取り除くように要請している。
日本の中絶費用は超高額
また、日本では人工妊娠中絶手術の費用が非常に高い。
例えばイギリスやフランスでは、女性が人工妊娠中絶を受ける時にかかる費用は「無料」。しかし日本では10万円程度がかかる。そして経口中絶薬についても、日本産婦人科医会の木下勝之会長は10万円程度の料金設定が望ましいとしており、批判の声があがっている。
ちなみに、経口中絶薬はWHOの必須医薬品に指定されているが、日本ではまだ承認されていない。WHOが推奨する手動真空吸引法(MVA)すらも2015年にやっと認可されたのが現実で、金属製の細長い器具を子宮口から入れて、子宮内の妊娠組織を全体的にかき出す搔爬(そうは)法がいまだに主流となっていると見られている。
さらに言えば、日本では女性が主体的にできる避妊方法が普及しておらず、コンドームの使用率が高い。つまり男性がコンドームをつけない選択をすれば避妊が出来ない。
イギリスでは低用量ピルは無料で処方される。フランスではすべての25歳以下の女性は避妊薬、子宮内避妊具であるIUD などが無料で手に入れられ、診察代も無料。イギリスでは、特定のクリニックや薬局へ行けば、アフターピルも無料で得られる。日本ではアフターピルが手に入りづらいうえに、高額であることがほとんど。
社会的に女性だと収入が低くなる傾向があることも見逃してはいけない。避妊が失敗する可能性も高く、自分で自分の身体を守りづらい。さらに人工妊娠中絶でも同意は必要で、そのすべてで費用が非常に高額に“設定”されている。
日本は女性の人権面でG7 の中で遅れをとっているが、経口中絶薬が承認されそうな今は国として女性の権利保障を進めるチャンスだが、暗雲が漂っている。
(フロントロウ編集部)